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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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幕間 Subject T

「ドレイってなんだ?」



おれがそう聞くと、みんな黙った。

なんか変なこと言っちゃった?



レナねーちゃんが、

ちょっと困った顔した。



ゆっくり、話してくれた。

「……自由がなくなるの。自分の意思で、生きられなくなる」



聞いたけど……

よくわかんねえな、と思った。



「ウチの村も、昔ドレイだったって、父ちゃんが言ってた」



今度は、みんなの顔が変わった。

兄ちゃんも、サリーも、レナも。



なんか、同じ顔してた。

可哀そうなものを見る目。



兄ちゃんの目が、ちょっと痛そうだった。

サリーがおれの袖をぎゅっと握って、目を逸らした。



エヴェラの声が、頭の中で少しだけ響いた。

——また、難しい話だった。



よくわかんなかったけど、

昔、おれたちみたいなやつは嫌われてたらしい。



ライカンスロープ。

強いし、よく戦うし。



でも、バカで騙されやすい。

都合よく使われてたんだってさ。



父ちゃんと母ちゃんは、

そんな話、あんまりしなかった。



でも、一回だけ言ってた。

「誇りを持て」って。



それだけ覚えてる。





神父が来たんだ。

村に。



教会を建てるために、

父ちゃん達も雇われた。



神父は、優しそうな顔をしてた。

笑ってて、いい人そうだった。



「いい村ですね」



そう言った。

みんなが彼を好きになった。



おれも彼の教会で遊んだ。

本を読んでくれた。



怖い本で脅かされた。

「悪魔は、いつでも、笑っているんだ」って。





神父が来て、3年たったころかな。

誰かが言ったんだ。



「戦争が始まる。」



「魔王軍との最終決戦がある」って。

近くの村からひどい話が、毎日届いてた。



平和が好きだった神父は辛そうにしてた。

それで、部屋から出てこなくなっちゃった。



だんだん様子がおかしくなった、って母ちゃんが言ってた。



ある日、やつれた彼が、教会から出てきた。

目が光ってて、村の大人たちに変なことを言い出した。



「皆さんの力を見せる時です。子どもたちのために」



心配の声を無視して、神父は村の大人たちに紙を配りはじめた。



「——現在も残る、ライカンスロープへの蔑視。

この乱世を終わらせることで、再度、名声を知らしめる。未来を生きる子どものために、立ち上がろう。」



みんなアイツはおかしくなったって、言ってた。



なんか怖くなった。

ずっと、笑っていたから。





いつのまにか。



戦争に参加することになった。

みんなで行くんだって、剣を準備した。



みんな、嬉しそうだった。

戦いたかったのかもしれない。わからない。



父ちゃんも、母ちゃんも。

——笑っていたから。



「トラは留守番だ」

そう言われた。



「なんでだよ!」



勝手について来たけど、ダメだった。

戦場の近くの、宿に置いていかれた。



「すぐ戻る」



母ちゃんが頭を撫でてくれた。

その手だけ、今も覚えてる。



温かくて、ちょっと汗ばんでて、

いつもみたいに優しかった。





帰ってこなかった。



最初は、遅いだけだと思った。

次の日も、次の日も、待ってた。



そのうち、宿の人に追い出された。



街も、なんか変だった。

怒鳴り声とか、泣き声とか、増えた。



腹が減った。

すげえ減った。



飯のことしか考えられない、くらいに。



外に出た。

人がいっぱいいたけど、誰もおれを見なかった。



露店があった。

肉が焼けてた。うまそうだった。



でも、手は出せなかった。

父ちゃんの顔が浮かんだ。



「誇りを持て。それがあればドレイじゃない」



盗みはダメな気がした。おれのじゃない。





村なら、簡単だった。



鳥もいたし、魚もいた。

走れば捕れた。



仲間も、いたから。



でも、ここは違った。

ネズミしかいなかった。



川は泡立ってて、臭かった。

飲めなかった。



ネズミは捕れた。

火をつけて、焼いた。



どうして、ついてきたのかな。

村で待っていれば、良かった。



考えてたら焦げた。

でも食うぞ。



……うまいのか、これ。

「うまいのか?それ」



後ろから声がした。

ネズミを持ったまま、振り返った。



ガキが立ってた。

同じくらいのやつが三人。



汚れてた。

でも、目は刺すように鋭い。



「……食うか?」

おれがそう言うと、そいつは笑った。



「食う」

それが、ヘンスだった。





ヘンスには妹たちがいた。

みんなで、なんか基地みたいなのを作った。



家ってほどじゃねえけど、

風は少し防げた。明日は屋根を作るって。



ネズミを焼いて、

草を煮て食った。

たまに腹壊した。



でも、死ななかった。

みんなでいると、ちょっとマシだった。





夜になると、いつもヘンスたちが言う。



「帰る」



「母ちゃんが待ってるから」



いいな、と思った。

ある時、こう言ってみた。



「おれも行く」



ヘンスは首を振った。



「お前の母ちゃんじゃねえだろ」



当たり前のこと言われた。



「だよな」



ヘンスたちは帰っていく。

おれは、廃材の家に身を隠した。





夜の街を歩いた。

ずっと、人の顔を見ながら。



もしかしたら、

知ってるやつが歩いているかもしれない。



自分の村の名前も知らなかった。

近くの川とか説明しても誰もわからなかった。



父ちゃんとか。

母ちゃんとか。



……いなかった。



どこにもいなかった。

それでも、見てた。



行き交う人の顔を。



ずっと。

見てた。





寒くなって来た。



指の先が、自分のものじゃないみたいに

白くなってた。



ヘンスたちは、「寒いから」って。

あまり来なくなった。



雪が、降り始めた。



はじめて見る。

空からの、何か。



白くて、ふわふわしてて。



綺麗だと思ったけど、体温を奪う。

手足の感覚が、もうあんまりない。



もうネズミもいなくて、ちぎって食べてる。

ネズミの脂が唇に残って、吐きそうなくせにまた欲しくなる。



おれたちの体は丈夫だって

父ちゃんは言ってたけど。



腹が減って、凍えたら、

あんまり関係ないみたいだ。





足が勝手に、大きな教会に向かう。

村にいたあの神父が言っていた、立派な大神殿。



「王都の教会は、もっと大きいぞ」

そう言っていた気がする。確か、そうだ。



おれたちの「誇り」は、

ここで認められるんだって。



神殿の、高い窓から、

わずかに光が漏れていた。



中には温かい火があって、

食べ物の匂いがするんだろうな。



きらきらした立派な門は、固く閉ざされてる。

その冷たい石の壁にもたれかかった。



最後に見たのは、

自分の吐いた息が、白く消えるところだった。





不思議だな。



あんなに寒かったのに、

だんだん体がポカポカしてきた。



これを、知っている。

冬の日の、家の暖炉だ。



「トラ、こっちにおいで」



母ちゃんの声が聞こえた。本当にいるみたいだ。



顔を上げると、雪の向こうに、

父ちゃんと母ちゃんが立っていた。



戦いに行く前の、あの怖い笑顔じゃない。

村で笑っていた時の、優しい顔。消えないで。



「……遅いよ」



母ちゃんの大きな手が、おれの頭に触れた気がした。

今度は汗ばんでいない、光みたいな温かさ。



「悪かったな。さあ、帰るぞ。」



父ちゃんが笑って拳を差し出した。

……おれも手を。



—————————ゴォン—。



神殿の鐘が、頭上で鳴った。



寒さが蘇る。現実が頭をもたげ、全てが重い。

もう、お腹は空いていない。



ネズミの味も、泥水の臭いも、怖い笑顔も。

全部、雪が真っ白に塗りつぶしてくれた。



「……やっと、会えた」

おれは目を閉じた。



最後に見たのは、神殿のステンドグラスに映った、

金色の、大きな、大きな光の輪だった。



そこには、村のみんながいた。

みんな、笑ってた。



おれはもう、寂しくない。



深い、深い眠りの中で、おれは父ちゃんの背中に飛び乗った。銀色のキレイな毛並み。



空はどこまでも高く、雪はもう、冷たくなかった。



——————レナねーちゃんの背中が、温かいから。





目を醒ます。

暖炉の明かり。



兄ちゃんの背中。

レナねーちゃんの匂い。



家族の寝顔。



この中にいることが、今のおれの「誇り」

果たして読んでいる人はいるんだろうか?

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