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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第27話 囲まれた食卓

食堂が、回るようになってきた。



ランチタイムが終わると、

ヘンスたちは裏手に消える。



店の裏では、土手に横穴を掘り、

レンガを積んだ炭焼き窯の建設が進んでいた。



「ここにもう一段積む」

「重すぎて崩れるだろ」「じゃあ支えを——」



言い合いながら、それでも楽しそうに手が動いている。

ガレンさんが図面を指差しながら、熱く声を上げていた。



店内では、ヨルカとレーテルが向かいあって座っていた。

「これ、いくつ?」



ヨルカが木の実を並べる。

レーテルが指で数える。



「……なな」

「そう。じゃあここに三つ足したら?」



レーテルの眉が寄る。しばらく考えて、指を折る。

「とお」



「正解―!」

ヨルカが静かに微笑む。



レーテルの顔がぱっと輝いた。

俺はキッチンから、その様子を眺めていた。



エヴェラ:ユウト、鍋。



俺   :わかってる。





夜。



いつもの食卓に、全員が集まった。

ヘンスたちも含め、食堂の仲間が揃っている。



今日はアマンが鍋を担当した。



「どうぞ!」



どんと鍋が置かれる。

湯気が立ち上り、スープの香りが広がった。



「うまそうだな」

ゼルグが鼻を鳴らす。



「アマンが作ったの?」

レーテルが目を丸くする。



「そう! レナねーちゃんに教わった」

アマンが胸を張る。



みんなが椀を傾けた。

しばらく、食べる音だけが続く。



温かい夜だった。

皆それぞれの家に帰り、俺たちも地下道の『家』に戻った。





散歩から帰ってから、サリーは、ずっと黙っていた。



俺は気づいていたが、何も言わなかった。

彼女が話すタイミングを、待っていた。



「……あのね」

サリーが、おもむろに話始めた。



「今日、川沿いで男に声をかけられたの」



「「ええ——?」」



想定していた話と違い、俺とトラが身を乗り出す。



サリーは短く、丁寧に話した。

父の友人だったこと。



彼と自分は、影の一族であること。

孤児院のことを、調べてくれると言ったこと。



——そして。

「司祭の指示で、お兄ちゃんを監視している、って」



沈黙があった。



「影の一族!? なにそれ」

トラが目を輝かせた。



「それって、暗殺とかするやつか? すげー!」



「トラ」

サリーが低い声で言う。



「あ、ごめん」

トラが背筋を伸ばした。

でも目は、まだ輝いていた。



「どうして、司祭様が……」

レナの顔が青ざめていた。



アマンはレナの腕をぎゅっと握りしめている。



「大丈夫」

俺は言った。



根拠はなかったが、

そう言わなければならなかった。



——その時。

ヨルカが、静かに目を閉じた。



何かが、変わった気がした。

空気が、薄く張り詰める。



数秒後、ヨルカが目を開けた。

「……八人いる」



静かな声だった。



「どこに」

俺が聞くと、ヨルカは斜め上を向いた。



「あっち。そっち。あと、あっち」

三方向を、順番に指差す。



全員が息を飲んだ。



「どんな奴らか、わかるか?」



「わかんない。でも、遠いよ」

ヨルカは少し考えてから続けた。



エヴェラ:ソナー魔法ね。範囲と精度、かなり上がってるわ。



俺   :それどころじゃない。



エヴェラがみんなに補足のメッセージを送る。



ヨルカの指の確度から場所を割り出し、この家周辺のマップ上に示したものだった。すぐにヨルカから微調整版が返ってきた。



赤い点が8つ。

店から三百メートルくらいの距離に点在していた。



これが何を意味するか。

——囲まれている。



だが、サリーの聞いた話からすると、

以前から見張られていたのかもしれない。



子供たちの顔を見て、俺は努めて軽い口調で言った。

「監視ご苦労様です。見通しがいい場所だから、遠くまで隠れないといけないね」



トラが吹き出した。

——少し遅れて、サリーも小さく笑った。



レナが「もう」と言いながら、少し口元が緩んだ。



「なんで俺が監視されるんだ?」



エヴェラ:元勇者だからでしょ。それ以外に理由が思いつかない。



俺はヨルカを見た。

「ヨルカ、あいつらの目的、わかるか」



ヨルカは首をかしげた。

「……わからない」



「そうか」

俺は少し考えた。



「気づかないことにしよう」

全員が俺を見た。



「気づいてないふりじゃなくて、気づかないことにする。今夜は何もしない。明日、カリンちゃんに相談する」



レナが静かにうなずいた。

トラが「わかった」と言いながら、上の方をちらりと見た。



「トラ」



「見てない見てない」

サリーがため息をついた。



アマンが小さな声で聞いた。

「ねえ、お兄ちゃん。みんな、大丈夫なの?」



俺はアマンの頭に手を置いた。

「大丈夫だよ」



今度は、少しだけ根拠があった。



エヴェラ:……そうね。少なくとも今夜は、動く気配はないわ。



——地下道への内鍵もロックし、鳴子も付けた。なんとか……する。



廃材テーブルにならんだ、お茶から湯気が立ち続けている。

誰かが「冷めるよ」と言って、またカップを傾けた。





翌朝。



俺はエヴェラに整理してもらった情報を

頭に入れながら、仕込みをしていた。



この国の『司祭』は諜報・国防を担うこと。

影の一族が司祭アーデスの配下であること。



サリーの両親も

アーデス配下として働いていたこと。



俺の監視、そして、孤児院の件。

二つが、同じ夜に動いた。



——野菜を切るレナと目が合う。

少しだけ気まずさがある顔だ。笑顔を贈ろう。



昨夜、”『連環の光教団』自体が、諜報の機能を持つ可能性”をエヴェラが指摘すると、レナは突如、大きな声を出した。



——「絶対に違う」と、彼女が言った。

「絶対に、絶対に違うから」繰り返す、その声が震えていた。握りしめた手が白かった。



俺たちは顔を見合わせ、肩を抱いた。

「わかった」と口々に言った。





サリーが、「食堂のドアの前に置いてあった」

という紙束を持ってきた。



犯人の詳細と孤児院の実態が書かれていた。院長の収賄もかなりひどい。少女たちの凄惨な被害状況も書かれていた。



すでに読んだのか、サリーの顔が少し赤い。

「大切に使う」 そう言って受け取った。



エヴェラ:カリンちゃんに会いに行くなら、今日がいいわよ。王城への定期報告の日のはずだから。



俺   :王子と王女に会わせてもらおう。孤児院の件と、監視を止めさせないとな。



俺は一人で王城に向かうことにした。



「行ってくる」

エプロンを外しながら、俺は厨房を出た。



レナが「気をつけて」と言った。

ヨルカが小さく手を振った。



外に出ると、朝の空気が冷たい。

三百メートル程先に、誰かがいるはずだ。



俺は気づかないまま、歩き出した。





エヴェラの推察どおりの時間に、

緑色の髪をひょこひょこ揺らす彼女を見つけた。



「カリンちゃん、久しぶり」



「あー! 勇者様」



俺は彼女にあらましを話した。



「それが、アリス王女とルーク王子は、お二人でルクス国への復興任務に向かわれてまして」



彼女は少し心配そうな表情をする。



「急に軍部からのご依頼で決まりまして、半年ほど戻られません」



「軍部……」



「あ、でも孤児院と監視の件、相談してみます! お持ちいただいたこの証拠があれば、勅命を頂けるかもしれません」



俺たちはカリンちゃんに資料を預け、頭を下げた。

一旦はここまで、どうなるか見よう。



エヴェラ:カリンちゃん、王にご意見なんてできるのかしら……



俺   :召喚の時もいた「巫女」だからな、意外と地位が高いんじゃないか?



エヴェラ:そうね。でも、きっとカリンちゃんを通せば——



俺たちは、元気に門を駆け抜ける彼女を見送った。





白い尖塔。



カリンは資料を胸に抱え、

赤い絨毯が敷かれた階段を駆け上っていく。



その目は、

人を助けることができる喜びで、緑色に輝いていた。



ノックの後、優雅に一礼し、

入室するなり、豪奢なデスクに座る男に話しかける。



「司祭様、お願いがあります!」

アーデスは書類から目を上げた。



緑色の髪の巫女が、

両手で紙束を差し出している。とびきりの笑顔だ。



「勇者様のお友達が、困っていて」

彼女は一息で全部話した。孤児院のこと。証拠のこと。



勅命があれば貴族に対抗できること。



アーデスはしばらく笑顔のまま資料を眺めた。

「……わかりました。すぐに王にいただきましょう」



「ありがとうございます!」

カリンの顔が、ぱっと輝く。



「それから——勇者様の監視も、やめてください」

カリンは真剣な顔で付け足した。



アーデスは孫に向けるような柔らかな微笑みを向けた。

「わかりました。止めさせましょう」



明るさを取り戻した笑顔が跳ねる

カリンは深々と頭を下げて、扉を閉めた。



アーデスは資料を机に置いた。

窓の外、城下を見下ろす。



——光。そして厄介な火種だ。



消すか、

それとも、燃やして使うか。



アーデスはまだ、答えを出していなかった。

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