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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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第16話 天使の台所

朝の陽が、川沿いの廃倉庫――いや、「食堂」の窓から差し込んでいた。



もう、ほぼ完成だ。

俺たちは開店に向け、細部をつめていた。



「ここ、テーブル置く?」



サリーが地図みたいな紙を広げて、みんなに聞く。レナは「うん、ここは家族席。奥はカウンターで、私とサリーが注文取る」そう言って、指で線を引く。



アマンは「俺は看板描く!」と言いながら、作ったばかりのテーブルにクレヨンで「ユウト食堂」って書いてる。……俺の名前でいいのかよ。



ヨルカは壁の隅に小さな棚を置いて、ハーブの鉢を並べ始めた。小さな身体で、歌を口ずさみながら作業するその姿が、愛おしい。



「これ、ここ、いい?」



俺は頷いて、頭を撫でる。



「いいよ。ヨルカのセンス、最高だ」



くすぐったそうに笑う。「さいこー」と呟きながら。



エヴェラ:ふふ、みんな楽しそうね。内装、9割完成よ。残りは看板と照明と、それとメニュー表だけね。……完成したら、ちゃんと写真イメージに残しておきたいわ。この景色。



エヴェラも喜んでいるようだ。





カリンちゃんからエルフの忌み子の話を聞いてから5日が経った。



今日の午後、彼女が俺たちの食堂に来てくれることになっている。認可の結果についての連絡と、ヨルカと会わせるためだ。



せっかくだ。

開店はまだだが、どうせなら、

記念すべき、初めての『お客様』として、もてなしたい。



俺がそう言うとみんなの作業も勢いを増した。



食堂とする1階部分の内装は、仕上がりがほぼ完了。

たった10席分だが、手作りのテーブルとイスは設置済みだ。



キッチンには3口のかまどに、氷冷式の冷蔵庫が設置されている。全て手作りだ。



床も壁もピカピカだ。

新たに設置した暖炉で、中も温かい。



薄暗くほこりまみれだった地下室も綺麗にし、ベッドやソファーを置いて、くつろぎスペースに変わった。



みんな思春期の真っ只中だ、全員一緒の部屋では、窮屈な夜もあるだろう。ここも俺たちの『家』とする。



地下道の『家』へと繋がるマンホールがこの地下室にある。その蓋にラグを被せて隠す。セキュリティを高める効果があるはずだ。



食堂の内装のデザインはレナとサリーが担当した。

彼女たちのセンスなのか、漆喰の白を基調にした壁に少しだけ薄いピンクが混じる。



よく見ると、ところどころ、かわいい羽や子供のような絵が描かれていた。アマンもこっそり絵を描いてるが……まあ、いい味になるだろ。



照明は、市場で買ったランタンにした。

オレンジの光が、木のテーブルに柔らかく落ちて温かい雰囲気を作っている。



トラと俺は外に掲げる看板を作った。

看板にも、大きめのランタンをぶら下げる。



その下には、大きな鍋の絵と『天使の台所』という文字が刻まれた。



これが、俺たちの食堂の名前だ。



みんなで意見を出し合って投票を行ったのだ。

俺はトラが出した『腹ペコ食堂』に清い1票を入れたのだが、レナの『天使の台所』が優勝したというわけだ。



トラとこっそり、看板の隅に「腹ペコ食堂」と小さく刻んだのは男同士の秘密だった。



今日のランチ。



最初のメニュー開発も兼ねて、アマン料理長が希望した3品を俺が作る。



たまにエヴェラのレシピで作る料理だった。それを普段よりお金と時間をかけて完全版を作るつもりだ。



これを試食し、問題なければ、カリンちゃんにも出そうという試みだった。もちろんエヴェラ監修メニューである。



俺が料理長と言い続けていたからか、アマンが料理を手伝いたがる。ナイフの危険性をしっかり説明して、野菜を切ってもらった。


いいぞ。



そして、ついに至高のメニューが完成する。



~~



お品書き



・『天使のハンバーグ』・・・一角イノシシを粗くミンチにしたものをスパイス・ハーブ・パン粉・鶏に近いコック鳥の卵と合わせ練る。それをこんがりと焼き上げてから、ガーリック系のハーブとバターソースをかけて仕上げた一品。



・『恵みのスープ』・・・この川でトラが獲った魚と根菜が入った優しいスープ。ハーブの香りが天使の祝福のように広がる一品。



・『川辺の彩り温野菜』・・・エルリーナさんに目利きしてもらった、スラム基準をはるかに超えた新鮮野菜と、川の対岸で採取したナッツやベリーがふんだんに使われている。レナの家で作っていたという、サワー系のソースが際立つ一品。



~~



俺が各テーブルにナイフとフォークを置いていく。これが思ったより出費だったのは内緒だ。レナが各テーブルにベリーとレモンで作った手作りジュースを注いで回る。



残りのみんなで料理を運ぶ。本当は順番に出せればいいが、俺たちはみんなで「いただきます」したいのだ。



実食。



「「「う、うめー!!」」」



もはや誰もレビューせずに、一心不乱に食べつづけた。トラとアマンが秒で食べ終わり、おかわりを要求する。



もう、食べる前から合格だったが、全員一致でこのメニューは決定となった。しばらくはこれらを看板メニューにしていこう。



『天使の台所』には笑顔と「おいしい」がこだまし続けた。





午後。扉がノックされた。開けると、カリンちゃん。

耳がぴょこっと揺れて、巻物のようなモノを持っている。



ふと、カリンちゃんの後ろを男が通りすぎていくのが見えた。ここを人が通るのは珍しい。……まあ、気のせいだろうが。少し気になる。



「勇者様!ご無沙汰しております。かわいい食堂になりましたねー」



カリンちゃんが元気いっぱいの笑顔を向けてくる。

緑色の瞳できょろきょろと見回す。



その笑顔に引っ張られるように、胸に詰まったものが溶けていく。今は、目の前のことだけ考えよう。



俺たちには、自慢の食堂がある。自慢のメニューがある。初めての客に、みんなが予定どおり、店員としてふるまう。



「ようこそ、天使の台所へ」



挿絵(By みてみん)





王城の一角。

白い尖塔の一つ。



司祭アーデスが、髭を撫でながら、城下を見下ろしていた。



元勇者が、王子を訪ねて来たらしい。



「力を失った元勇者、か」



近くの部下に指令を一つ。

影に潜む、隠密の一人が彼の前に膝をつく。



「念のため、所在を把握できるよう、監視をつけろ」



アーデスは元勇者の使い道を思案する。



もう、魔王はいないのだから。

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