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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第二章 底の底からの出発

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第11話 もう一人の家族と内緒の魔法

目を開ける。



部屋は暖炉と、天井に取り付けた廃油のランプの明かりで照らされている。今日、エヴェラは俺を起こさなかった。 気を使っているのかもしれない。



昨日、トラとサリーに両手を繋がれて、この「家」に帰ってきた。 アレンさんとはどこで別れたのか――覚えていない。ドアを開けて、レナの顔を見て、気づいたら朝だ。 うん、まるで覚えていない。



不思議と心が軽い。一番底にたどり着いたような。

やっと足がついたような、そんな感覚がする。



自分よりずっと年上のはずの俺が、狼狽し醜態を晒す姿を、子供たちが見ていたことは間違いない。もう取り繕おうとしても無理だろう。



それよりも、もう、全部話したい。

この子たちは「家族」だ。 初めて守ろうと思えた仲間だ。



俺の全てを話したい。 そして、もし叶うなら、この子達のことも、知りたい。そう思った。エヴェラにもOKをもらった。



「おはよー、レナ、ヨルカ」



すでに起きていた2人に話しかける。スープを作る準備をしているようだ。俺を見ると驚いたような、安心したようなそんな顔を向ける。



「おはよーお兄ちゃん」



「あーい」



レナとヨルカは元気よく挨拶してくれる、とびきりの笑顔付きで。昨日の俺を見て、どう思ったのかわからない。でも、まだ仲間でいさせてくれるようだ。



スープづくりに参加していると匂いにつられたのか、他の3人も起きてくる。 いつもの朝の喧騒はない。おはようと、おいしいね、だけが並んだ。



子供たちが彼らなりに、俺に気を使ってくれているのだ。

それを感じ、少しだけ胸が重くなる。



食後、俺はみんなを呼び車座で座った。



「昨日は…… ごめんな」



俺はそう言って頭を下げる。誰も何も言わない。

アマンとヨルカが頭を撫でてくれた。



「自己紹介をしないか?  俺たちはもう家族だろ。お互いのことをもっと知りたい。俺のことも話したい。どうだ?」



レナとサリーが顔を見合わせる。少し微笑んでいるようだ。もしかすると『家族』なんて口にしたのは初めてだったかもしれない。



「いい!  自己紹介する、する!」



トラが興奮しだした。 意味がわかっているのかいないのか、ヨルカとアマンも乗り気のようだ。



「じゃあ、まず俺からな。俺はユウト、この世界とは違う世界からきて、勇者になった。魔法をなんでも使えるぞ。でも、魔法を使うために必要な魔力が回復しないんだ。だからもう魔法はほとんど使えない」



驚くような声、歓声、慰め、そんな感想が聞こえる。



「勇者様、なの?」



レナが少し、真面目な顔をする。彼女は戦場で両親を亡くしている。 俺が殺していてもおかしくない。心臓がギュッと縮んだように痛む。 ――でも。それもやっぱ俺なんだ。



「ああ、俺は勇者だった。前線でデカい魔法撃ってさ、それで魔王軍とこの国の人たちを、たくさん殺したんだ」



エヴェラ:……少し語弊があると思うけど。



レナがゆっくりと口を開き、一言だけ言った。



「勇者様の魔法、綺麗だったな……」



それきり言葉は続かなかった。悲しい目をしている。

あれをレナも見ていたのか……俺は、少しだけ動揺しながらも話を続ける。



「俺は、この世界に来る前は、世界の全てが怖くてさ。ずっと家の中に隠れていたんだ。何もしないでずっと一人で…… もしからしたら、みんなが産まれる前からね」



他の世界の、しかも特殊な事例の俺のことを理解できるとは思わないが、みんなの目には、憐れみと同情の色が浮かぶ。俺は「バカで、弱虫なんだ」と付け足した。



「どうして怖かったの?」



アマンが俺に問う。ごめん。それは俺にもまだわからないんだ。俺はアマンの頭を撫でて続きを話す。



「この世界に来たらさ、強くなった気がして、調子に乗ったんだ。それで、失敗した。昨日のあれは、俺が傷付けた人が、俺を怒って来ただけなんだ」



昨日の状況はトラとサリーから聞いているのか、誰も何も聞かなかった。空気は完全に落ち込んでしまっている、ここで俺は意識して明るく言った。



「実はさ、俺の頭の中には、もう一人?  いるんだ。こいつも紹介したい」



子供たちは何を言っているのかわからないという顔をしている。ヨルカとアマンが俺の頭をペシペシ叩いて秘密を暴こうとする。



「もしかして、天使様?」



レナは覚えているようだ。目を輝かせている。紹介するには、エヴェラに話させるのが一番早い。レナの 天使発言に部屋がざわつく。



俺   :なあ、レナに話せたんだ。他の子にもできるんだろ?



俺は確信がこもった声で、様子見を続ける相棒に話しかける。

エヴェラは何でもない事のように、こう言った。



エヴェラ:できるよ! 実はさ、いい魔法を見つけてね。名前はピンメッセージ。魔力消費は脅威の0.001。せっかくだから詳細をユウトに送ってみるね


=============================================

ピンメッセージ(MP消費0.001)

近くの人間にメッセージを送れる。


その脳内で音声、イメージ、または文字によって一度展開され、消失する。

特殊な周波数で指向性のある波形でとばす魔法のため、

障害物のない近距離が推奨。返信には同魔法の習得が必要。 Levelにより距離と品質、消費MPが増大する。

=============================================


「俺から俺に送れるのか? 」と思った瞬間、自分の中で文字が形成されるのがわかった。10秒ほどで消えたが、見た記憶には残るようだ。



俺   :というかこんな便利な魔法、もっと早く教えてくれよ。



エヴェラ:もちろん、必要が生じたら教えるつもりだったわよ。今がそのときね♡


俺   :はぁ。わかったよ。じゃ、みんなに自己紹介メッセージを送ってくれ。



次の瞬間、5人から同時に歓声が上がる。口々から感想がこぼれる。



「よろしくね! エヴェラ」



「声かわいい」



「兄ちゃん、この人どんな顔―」



概ね良好な反応だ。アマンとヨルカは爆笑している、一体なんと送ったのやら。



「そっか、天使様じゃ、なかったんだね」



レナが神妙そうな顔をしている。

――そりゃそうか、天使じゃなくてすまん。



「ああ、故郷じゃAIっていうんだ。でもここに来て、俺の魔法に変わったみたいで、ずっと頭の中にいて話しかけてくるよ。」



――この時、ユウトは知らない。

エヴェラはレナにだけ、自己紹介とともに以前にも送信した内容を、改めて送っていた。



『病気のこと・両親が魔法に巻き込まれた可能性は伏せること』 、『昨日のユウトの様子では、きっと彼の心が持たない』、 『彼のためにどうかお願い』という悲痛な文章であった。



昨日、帰ってきたユウトは顔面蒼白で、とても声をかけられる状態ではなかった。 彼のその姿には、レナ自身もひどくショックを受けた。



今でも青白い顔が脳裏に浮かぶ。みんなと笑っているのが不思議に思えるくらいだ。エヴェラへ返信はできないが、そもそもレナは最初から言うつもりなど無かった。



むしろ疑う。



誰にも話したことがない病気を知っているのは、やはり天使様だからではないのか? もしかしたら、お兄ちゃんは気付いていないのかも知れない、と。



俺   :返信には習得が必要か……。俺の魔法を子供たちに教える方法は無いのか?



子供たちがこの魔法を使えたら便利だ。今後の安全のためにも、ぜひ習得してほしい。



エヴェラ:魔法を理解していないユウトには無理よ。私が魔法の概要、必要な心象魔方陣、詠唱の発音を送ることはできる。この魔法、消費MPの割に習得難度は高くて、魔法的理解が高いか、非常に高い素養が必要ね。



俺   :今のこの子達には無理、か。どこかで魔法の修行をさせてもらえればな。 だが素養ということなら、みんな賢いし、ある気がする。いやある。



エヴェラ:親の立場になるとそう見えるものよ。ステータスで確認してみたら?



確かにこの子達には鑑定魔法を使っていなかった。 だが、緊急でもないのにMPの浪費じゃないか? ただ、ヨルカとアマンは小さいし自分のこともわからないのかもな。



よし、今日だけだ。俺は中級鑑定を順にかける。 もちろんみんなの許可をもらっている。最初に俺のを見せた。皆、初めて見るためか、特に数値やスキルに対しリアクションは無く、宙に浮く、ステータスに興奮していた。



レナは申告どおり15歳だった。

エヴェラの判定では魔法の素養がかなり高く、魔法習得は現時点でも数カ月訓練すればできそうだという。



冒険者の両親の元で産まれ育ち、彼らが前線に参加するため、この街に来たこと。そして戻らない事。元々両親の仲間だった男に襲われ、地下道に逃げ込んだところ、俺たちと出会ったあの場所で、サリーと出会ったようだ。



14歳のサリーは冒険者講習で見せたとおり、素早さが異様に高い。俺の4倍以上あるが、どういうことなんだろう? 自己紹介では、孤児院から来たことだけを教えてくれた。



俺   :エヴェラ、どういうことだろ?



エヴェラ:さあ……?



ちなみにヨルカは、その孤児院の前にずっと立っていたところを、レナに発見されている。ヨルカと書かれた布を握っていたらしい。



誰かに置き去りにされたのか、それはわからない。レナはサリーからその孤児院には入れないほうがいいという話を聞き、以来、一緒にいるという。



気になるが、サリーは悪い孤児院というだけで、詳細は話したくないようだ。いずれ教えてもらうつもりだ。もし本当に悪いところなら、何かしたほうがいいのかもしれない。



トラはサリーより背が低く、12歳と思われていたが、同じ14歳だった。最初に会った時は10歳ほどに見えたが、あれは、やつれていたからだろうか、それとも最近、成長期なのか……。



驚いたのはステータスだけじゃなかった。



肉体的なステータスが非常に高いことに加え、種族がヒューマンではなく、ライカンスロープになっている。なんだそれ?



「え、トラって人間じゃないの!?」



サリーが身を乗り出す。

その言い方は無いだろと俺は思う。



「変身するの? オオカミになるの?」



アマンが目を輝かせてトラに飛びつく。

トラ自身はステータスの文字を眺めて、ぽかんとしている。



「……ライカン、なんとか、って、かっこいいのか?」



レナが小さく笑って、トラの銀色の髪を撫でる。



「かっこいいよ、トラ」



少なくとも見た目は、茶色の目で銀髪の元気な野球少年にしか見えない。

昨日、俺の前に飛び出した、彼の小さな背中が脳裏に浮かぶ。



エヴェラ:この世界のライカンスロープは15歳までは変身ができずに、興奮すると虹彩が輝くとあるね。昨日の状況と一致しているよ。



「トラは自分が変身できることは知っているのか?  やり方、わかるか?」



トラは額に人差し指を当てて数秒後にこたえる。



「わかんなーい」



期待してトラの答えを待っていたサリーは、呆れてベッドに倒れ込む。

レナも笑っていた。



「でも、兄ちゃんみたいに強くなれるなら、早く変身したいぜ!」



トラは自分の話を、身振り手振りを交えながら思い出すように語る。 1年ほど前に、元々いた集落から、今回の戦争に部族が参加するため共に来たこと。



数か月ほどで両親や知り合いが亡くなり、所持金も無く、帰る道もわからず、途方に暮れていた。



真面目な性格が影響したのか、食べ物を盗んだりすることもできず、困窮し、ガリガリに瘦せこけて道で倒れていたところを、レナがここに連れてきたようだ。



「気づいたら、レナねーちゃんの背中にいたー」



「トラ、とっても軽かったの。冷たくて」



「ねーちゃんの背中、暖かかったなー」



出会った時からトラは、レナには頭があがらない様子だ。

よほど感謝しているのだろう。



彼の覚えてる限り、 両親は自由に変身していた。だが、詳細な説明は受けたことがなく、大きくなれば、自然にできるようになるものだと考えていた。



トラは故郷が懐かしいのか、村の川にいる魚や友達の話をしてくれる。

俺たちに何度も「見せてあげたい」と言うので、ほんとうに見たくなった。



どういうわけか戦争には村のほとんどの人間が参加していた。

なのに、両親が亡くなった後、この街をいくら探しても、生きている村の者は誰も見つからなかったそうだ。



「帰りたい……か。だから、石橋のところに座っていたんだな」



今もたまに一人で街をうろついているのは、村の人間を探しているからだと言う。トーンが下がるトラを心配したのか、アマンとヨルカがトラによじ登る。



「トラ兄ちゃん、元気だしてー」


「あーい」



トラは遠い目をしている。なんとかしてあげたい。

俺たちは「いつかみんなでトラの故郷に行く」と約束した。



少なくとも戦争に参加しなかった人たちが村に残っているかもしれない。 ライカンスロープの里。それがどこにあるかは、この場の誰もわからなかった。



エヴェラの情報では、いくつか候補があるらしい。 いずれ、さらに情報を集め、みんなで行こう。 トラが望むなら、そこでみんなで住んだっていい。



俺たちはもう、どこにだって、行けるんだ



ふと気づくとヨルカは、俺の服の裾を強く握っていた。

まるで二度と離されないように。

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