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悪者  作者: P4rn0s


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2/8

気付かぬ足音に気づいた時

少しだけ曇っていた空を見上げながら、僕は歩く速度をほんの少しだけ遅くした。 


彼女が隣を歩く音が、ほんの少しだけ僕より遅れて響いていることに気づいたのは、たぶん三歩目くらいだった。 


僕たちは何も話していなかった。話さないことが自然で、けれどどこかに緊張感があった。何かを抱えながら、その輪郭を指先でなぞり合っているような空気。まるで、無音の会話をしているみたいだった。 


駅までの帰り道。もう何度も歩いた道。今日は少しだけ違っていた。季節が変わりかけているのか、風が乾いていて、空気が尖っているようにも感じた。 


「帰ったら、晩ご飯あるの?」 


ようやく彼女が言葉を落とした。 


「あると思う。」 


僕はそれだけ答えた。質問の内容なんて、どうでもよかった。ただ、沈黙に耐えきれなくなっただけの会話だったから。 


「そっか。」 


それっきり、また静かになった。 


でもたぶん、僕も彼女も、もうこの関係がどこかおかしくなっていることには気づいていた。 


目を合わせて笑うことが、少なくなった。 


話題が浮かばずに焦ることが増えた。 


笑い合っていても、その裏側で探っている。これって、続けていい関係? 終わらせるべきタイミング? そんなことばかりを。 


少し前までは、楽しかった。心から、安心していた。どこかにいてくれることが当たり前だと、そんなふうに思っていた。 


だけど、今は違う。 


たとえば、彼女が急にいなくなっても、僕はそれを「仕方ないこと」と思えるような気がしていた。 


そして、彼女も同じように思っている気がしていた。 


お互いがお互いを見ながら、どちらが先に「もうやめよう」と言うのかを、ただ黙って待っている。そんな空気。 


嫌いじゃない。きっと、まだ。 


でも、すれ違っている。確実に。 


それを修復するには、あまりにも遅すぎたのかもしれなかった。 


駅のホームが見えてきた。彼女が改札の方に向かおうとしたので、僕も同じように歩幅を合わせた。 


「……ねぇ。」 


彼女が声をかけてきた。僕は答えないまま立ち止まった。彼女も立ち止まる。 


その時、僕は思った。この瞬間、どちらかが何かを言えば、きっと何かが変わる。 


終わるか、続くか。 


どちらにせよ、何かが、決まる。 


でも、彼女は何も言わなかった。 


僕も、何も言えなかった。 


少しだけ視線が交わる。でも、そこにはもう、前みたいな安心はなかった。 


「じゃあね。」 


彼女が先に口を開いた。少しだけ口角を上げて、けれどそれは笑顔ではなかった。 


僕は「うん」とだけ言った。 


改札を抜けていく彼女の背中を見ながら、どこかで「終わったな」と思った。 


でも、それを言葉にしなかったのは、僕もやっぱり、ずるかったからだ。 


たぶん、彼女も。 


あのまま、何もなかったようにまた会えるふりをして、明日も過ごせてしまうのかもしれない。 


だけど、もう戻れない気がしていた。 


あまりにも遠くに来てしまった。 


静かな夕方のホームに、何もなかったような足音だけが響いていた。

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