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継の箱庭  作者: 福猫
9/24

●おやすみ、また明日

 まだこんなに明るいのにお店閉めちゃうんだ……なんて思いながら見てたんだけど、初めての環境と詰め込まれた情報に疲労したのか、いつの間にか、目が……閉まって…………。


 ――――パチリと目を開けると、また知らない部屋にいた。


 え……ここどこ? まさか全部夢だった……?

 なんて不安になったのはほんの一瞬、よく見ればすぐ近くにリューがいる。よかった。


 部屋の窓から差し込むのは暖かな日差し……ではなく、リューを照らす優しい月の光。

 外はすっかり夜を迎えていた。


 ふかふかした目覚めの場所から、椅子に座って本を読むリューのそばへ寄っていく。

 かなり集中してそうだったけど、二歩ほど前に出ただけで気づいてくれた。



「おはようございます、というのも変でしょうか」


「あはは、いつの間にか……こんな時間まで寝ちゃった」



 読んでた本を脇のテーブルへ置いたあと、伸ばした手でそっと優しく頬に触れられる。

 スリ、スリとゆっくりした手つきで撫でられうっとり……そういえば撫でてもらったことなかったかも。



「新しいことばかりで疲れてしまったんでしょう。眠っている間にまた移動させていただきました」


「朝の部屋とは違うね」


「ここは寝室です、もう夜ですからね。朝のあの部屋にあった階段を上がって二階へ」



 なるほど、このふかふかは布団か。



「せっかく美夜が起きたのなら、何かお話でもしますか?」


「お話……あ。ヒューゴが言ってたんだけど、この箱庭では怪我も病気も死もないって……でも、疲れたり眠くなったり。あとご飯食べたり…………生きてたときとどこまで同じでどこが違ってるのかよくわかんない」


「……美夜は勉強熱心というか、とても真面目なんですね。初日からそんなに詰め込まなくてもいいんですよ?」


「そうかな? でも気になるし、それに――」



 ちゃんと知っておかないと、箱庭のこと。

 だって……そうじゃなきゃ……。



「ちゃんと箱庭のこと知っておかないと、リューのお手伝いが……リューの役に立てないから」


「私の……?」


「うん」


「今日のお世話になった分……ということならどうかお気になさらず。私が好きでやったことですし、むしろとても光栄なことだとこちらが感謝したいほどです」


「あ、うん。もちろんそれもあるんだけど……っていうか、リューが感謝するの? ふふっ、変なの……そうじゃなくて、わたしがリューの役に立ちたいって思ったのは――」



 わたしという存在に意味があることを、誰かの役に立つことで示したかった。

 ずっと……何よりも自分に示したかった。

 それはあの最期のときに叶えられと思ったけど……ここに、箱庭に来たのはきっと……まだ……心に残ってるからなんだ。


 誰かの役に立って、褒めてもらって、幸せに暮らしたい……その願いがまだ心に残ってる。



「――わたしが生きてたときに密かに願ってたこと。心の奥底でずっと願ってたこと。誰かの役に立つなら、褒めてもらえるなら、幸せに暮らせるなら……その誰かは……相手は、リューがいいな」



 今日出会ったばかりだけど。

 拾ってくれたから、名前を付けてくれたから、優しくしてくれたから。

 生きてたときにはもらえなかったものを、初めて与えてくれた人だから。



「刷り込みでもいい……それでもリューに何かお返ししたい、役に立ちたいって思うよ。一緒に居たいって……わたしがそうしたいって思ってるんだよ」


「――美夜に」



 自分の気持ちを伝えられたたことへの安堵と、受け入れてもらえるかどうかの不安がグルグル混ざって渦となり、飲み込まれそうになったところへ声がかかる。

 ハッと顔を上げて続きを待つ。



「美夜にしか頼めないお願いがあるんです」


「わたしにしか……なぁに?」



 椅子から降りて床に膝立ちになったリューが、わたしの前足にそっと手を重ねた。

 目線がとても近い。



「――ここに……私のそばに居てくれませんか? ずっと……美夜が心ゆくまで、ずっと」



 あ……心が温かい。いや、熱い……かもしれない。

 また、動かないはずの心臓がドクドク脈打って、血液が体中を激しく巡っているような感じがする。



「うん……うんっ! もちろんだよ。わたしもリューと一緒に居たい、ずっと……そばに置いてください……」



 いつの間にか目から零れた涙を、リューが優しく拭ってくれる。



「なんだかプロポーズみたいになっちゃいましたね、ふふふ」


「ぷろ……?」



 よくわからないけど、リューの声がちょっと楽しそうだった。



「もう遅いですし、そろそろ寝ましょうか。美夜の疑問にはまた明日お答えします」


「わかった……わたし眠れるかな? お昼寝いっぱいしちゃった」


「横になって目を閉じていれば……おそらく自然と眠気がやって来るかと」



 カーテンを閉じて、ベッドへ横になったリューが言ったとおり、あんなにいっぱい寝たばかりでも……少しずつウトウトしてきた。

 ……リューが優しく撫でてくれてるおかげかもしれないけど。



「ふわぁぁぁ……よかった、眠れそう……おやすみ、リュー」


「ふふ。おやすみなさい、美夜…………また明日」



 また明日。

 そんな約束をしたのも初めてだな……。


 明日もまた会える。

 この素敵な時間が、空間が、明日も続くのだという喜びにワクワク…………するよりもうとうとが勝って、そのまま眠りに落ちていった。


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