●休憩とお勉強
紅茶とお菓子が楽しめるというティールームに入ったわたしたちは、その人気ぶりからたくさんの人が訪れている中、それでもさほど待つこともなく席へと案内された。
リューのお店の、昔懐かしさを感じる落ち着いた雰囲気とは違い、テーブルも装飾品もとても華やかで、お店の天井から吊るされたいくつものシャンデリア(教えてもらった)がキラキラと輝いていた。
「香ばしい匂いがするけど……珈琲とは違うね」
「ここでは主に紅茶が飲まれてますからね……私の店でも扱ってますから、もし気に入ったなら今度お淹れしますよ」
珈琲だけじゃなくて紅茶も淹れられるんだ。
すごいなぁ……いずれはわたしも覚えなきゃだもんね。
「何にしようかなぁ……これも、こっちもおいしそうだなぁ……」
「お前、甘いもんばっかじゃねぇか……さっぱり食べれるのもいるだろ」
「ハッ……そうですよね。じゃあ、これじゃなくて……こっちかなぁ」
あれもこれもと悩むモニカさんを、ヒューゴがうまく誘導しながらメニューを決めていく。そのあとサラッと注文も済ませてた。
「ヒューゴって友達多そう……すごく面倒見がいいっていうか……」
「ははっ、ありがとよ」
「適当なところもありますけどね……まぁ、仕事はしっかりこなすし…………いいやつですよ」
「おー、リュシアンが素直だ。デレってやつか」
「……うるさい」
「仲良しですね!」
リューに褒められたヒューゴが少しからかうけど、でもその顔はすごく嬉しそうだった。
「……っと、そうだ。美夜に通貨見せてやるって話だったな」
「あぁ、そうでした。今出しますね……」
そう言って、鞄の中から財布を取り出し、お金らしきものをテーブルに並べ始めた。
色の異なる四つの丸いお金……硬貨だっけ。紙のお金はないみたい。
「こちらから……鉄貨、銅貨、銀貨、金貨と呼びます。金額は鉄貨が一番下になり、この順で十倍ずつ上がっていきます。単位は特にありません……というのも、箱庭の全ての土地で共通なので必要ないんです」
「このメニュー表を見てみろ。ここに金額が書かれてるんだが……」
「銅貨五枚って……あれ、そういえばなんで文字が読めるんだろ?」
「箱庭じゃ動物の言葉がわかる、意思疎通が楽なほうがいいから……ってのは、人間同士でも言えることだ。様々な国の出身者がランダムに集まってくるんだからな。だからフランス生まれのリュシアンと日本生まれの美夜でも会話で来てるってわけだ。んで、それは文字でも適用される……自動翻訳ってこった」
「…………便利だね」
本当に便利というかなんというか。まぁ、ありがたいのはたしかだから……いっか。
お金について勉強してると、注文してたお茶とお菓子がやってきた。
「これが紅茶……いい匂いはするけど、カップの中空っぽだね」
「紅茶はこのポットに入っていて、カップには自分で注ぐんですよ。もちろんお店によって異なりますけどね」
「へぇぇぇ……」
珈琲とは全然違うんだ。
リューが注いでくれた紅茶を見つめながら、きれいな色だなと思った。
砂糖とミルクを好みで入れるらしい……とりあえず、そのままで飲んでみよう。
「………………苦い」
うっ……てなって、くしゃってなった顔に皆がおかしそうに笑いながらも、アドバイスをくれる。
お砂糖はほどほど、ミルクたっぷりでまろやかにするといいって。
「ん……おいしくなった」
「よかったです、お菓子もいただきましょうか」
届いたお菓子は柔らかそうな『ケーキ』と、山みたいな『カヌレ』と『スコーン』、そして口を落ち着けるためのサンドイッチ。
「これ、ケーキの上に乗ってるのってイチゴだよね……こんなにきれいな色だったんだ……これは何色? 今までに見たことないよ」
「これは赤色……ですね。人の視界になって認識できる色が増えたから、知らない色がたくさんあるんですね……それもゆっくり覚えていきましょう」
「うん」
これが赤色かぁ。
そういえばモニカさんの髪は赤っぽい……ちょっと違うかな……あ、紅茶の色みたいだ。
色について考えてたけど、お菓子を口に入れると吹き飛んだ。
ケーキは甘くてふわふわしてて、そこにイチゴの甘酸っぱさが入ってきて、口の中が忙しい。
カヌレはもっちり……? 不思議な食感で、スコーンは一緒についてるジャムとクリームをつけて食べると、サクッとしてるのにしっとりもしてて、やっぱり口の中が忙しかった。
皆で少しづつ分けると、いろんなのが食べれて楽しい。
「このあとはどうするんだ?」
「そうですねぇ……日用品や雑貨も見ておきましょうか。せっかく様々なお店が集まってることですし」
「それなら三階ですね」
このあとのプランが決まったみたいだ。
それにしても、モニカさんはいつの間にこのデパートの中を把握したんだろう?
案内を見たのは入ってすぐのあの時だけだったような……すごい人なのかもしれない。
「よし、そろそろ行くか」
「そうですね…………あ」
「どうしたの?」「どうしたんですか?」
立ち上がってすぐに止まったリューが気になって掛けた声が、モニカさんとかぶる。
お互い顔を見合わせて、ふふふと笑った。
「あー、いえ。すぐにわかりますから……お会計しましょう」
はっきりした答えは聞けないままお会計を済ませ、お店を出て少し歩くとその時がやってきた。
「上りよりも下りのほうが怖いんですよね……エスカレーター」
「あー……」
「なるほどです」
皆が、心配してるような苦笑いのような、何とも言えない顔で見てくる。
「おぉぉぉ……」
そういうことだったのか……と納得する余裕もなく、エスカレーターの流れていく様をただただ見下ろす。




