●わたしの終わり
新しいの書き始めました。毎週月曜アップを目指して頑張ります。
黒猫は不吉の象徴だ。
そんな迷信もあったなぁ……と、近所のご長寿がフワッと回想に思考を飛ばしたまま寝落ちた、暖かな日差しの今日。
塀の上を慣れた足取りで進みながら、縁側の寝落ちご長寿を気にすることもなく歩きつづける。
黒猫として、日本のとある町に生を受けてからおよそ一年。
集会所の爺様婆様方よりももっと古い世代とは違い、カフェやグッズその他諸々の人間たちのブームのおかげか、この毛色で忌み嫌われることはなかった。
それでも、いつかどこかの人間が話していた。
わたしの右目が白いのは病気のせいだと。初めから病院通いなんてちょっと飼う気にはなれないと……。しっぽもなんだか歪だし……と。
まぁそんなわけで。理不尽な暴力に晒されるような冷遇もなければ、ちやほやされるほど誰もが手を差し伸べてくれるような厚遇もない、平々凡々な毎日を送っている。
野良生まれ野良育ち、現在進行形で野良まっしぐら。今の生き方に不満はない。
…………。
とは言いつつも。
心の奥底の深い深いところでは。
温かな家庭で愛情たっぷりに暮らす家猫への、ほのかな憧れがないこともない。
…………。
望まれたい。誰かに必要とされたい。
わたしに何ができるかなんてわからないけど、きっと役に立ってみせる。
頑張ってみせるから、必要なんだといってほしい。
ここから拾い上げてほしい。…………誰かそばにいてほしい。
そんな思いがあることもたしかで。
白壁の大きな家の窓から見える幸せそうな光景に、つい足が止まっていた。
ハッ……と弱気な思考を振り払うように首を振る。
心の内を見せてしまった気恥ずかしさを、ツンとすまし顔で隠しつつ歩みを再開した。
塀付き戸建ての立派な家を三軒超え、挟んだ一本道を右に曲がる。
少し歩けばコンビニがある。駐車場で顔見知りの猫たちに軽く挨拶したり、たまにおやつを分けてくれる人間にニャアとお礼を言ったり。
いつもどおりの巡回だった、はず。
――ふと、足早に横切った存在を見上げる。
『この人間なんか嫌な感じがする…………』
そう思ったのは何分前だったか。
よく覚えてないというか、思い出そうとしても思考がうまくまとまらないというか。
仕方がない。
何故なら、わたしは。
今。
死にかけてる真っ最中。
――――あぁ、うん。なんだっけ?
……。
…………たしか、嫌な感じがするなぁと思いながら見てた人間がコンビニに入っていって。
その後すぐに、中からワーキャーと悲鳴が聞こえてきて……。
ビクッと体が震えたけど、なんだか気になってわたしも入ってみたんだ。
中の異様な空気は、やっぱり嫌な感じがしてた人間が原因みたいで、そいつが手を突き出して大きな声で叫んでた。
周りの騒めきから強盗とかナイフとか聞こえてきたから、そういうことなんだと思う。
状況を察したあとは。もう、なんというか体が勝手に突っ込んでいった。
自分でも驚いたけど、人間がよく言う「考えるより先に体が動く」ってやつかな。
爪を立てながら飛び掛かって、しっかりしがみついたまま、突き出してた手に深く噛みついてやった。
離されないように必死だったけど、勢いよく振り払われて床に叩きつけられた。あまりの衝撃と痛みで息が詰まって動けずにいたんだけど……。
そいつは手の痛みのあまりに苛立った様子で、店よりもわたしに意識が集中したみたい。動けないわたしにナイフを突き立てて、蹴りまで入れてくれやがった。
ただ、そいつがナイフを手放すという最高のタイミングがここで生まれたわけで。
このチャンスを逃すまいと動いた人間たちのおかげで、そいつは取り押さえられた。
はぁ、一件落着……。
――回想終了。で、今。
いやいやいや。役に立ちたいとは言ったけど、初回で命と引き換えなんて聞いてない。
役に立って、それを褒めてもらって、ニュフフなご褒美をもらって、幸せに暮らしましたとさ――。までのワンセットを夢見てたわけで。
感謝状とか、一日店長とか……よくあるじゃない?
……なんてね。
でも、まぁいいか。
一度も役立てずに未練たらたらよりも。
一度でも役に立ったって、胸を張って言える経験ができたなら。まぁ、それでいいか。
最後っていうか、もう最期だけど。子供たちの憧れだとかいうスーパーヒーローのごとく、颯爽と現れて悪に立ち向かったわたしは、なかなかにいかしたやつなんじゃないかな。
……自画自賛してもいいよね?
うっすら遠くで「ありがとう」って聞こえる。……気がする。
――わたしの都合のいい願望が、そうさせてるのかもしれないけど。
うんうん、なんだか気分がいい。
心がフワフワ、頭もフワフワ。
あぁ、今日は。
『よく眠れそうだなぁ――――』
なろう様の異世界定義を読んでほへーしか言えなかった。死後の世界は定義上は現実世界なんですね。
読んでいただきありがとうございました。




