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34 婚約指輪

長かった冬が過ぎた。

もうすぐ、私とヴォルフ様の結婚式だ。

ヴォルフ様は完全に元に戻ったということで、仕事に完全復帰している。

私の前で狼の姿を見せることは全くないので今の所、狼に対する恐怖は感じていない。

狼の姿をしたヴォルフ様と過ごした日々のおかげでだいぶ慣れたが、野性の狼などは怖くて見たくもない。

トラウマはそう簡単には治らなかった。


アーモットさんからは王様から報告が会ったそうでお礼の手紙が届いた。

ギレン君は治療のおかげでだいぶ良くなり精神も安定しているそうだ。

ヴォルフ様は何度か報告を兼ねて王都へと行き、王様と謁見をしていた。

魔女の事は口外しないようにとのことで、ヴォルフ様の狼の事も含め家族にも言っていない。


ザールさんが居なくなったことで、私とリリアンヌさんのお気に入りだった洋服屋さんが無くなってしまい、未だ良いデザインの服屋が町で見つからず王都へと今度買いに行く約束をしている。

ウエディングドレスは、リリアンヌさんとヴォルフ様が必死になって探した王都のドレス屋さんで作成中だ。

私はどんなドレスでもよかったのだが、ヴォルフ様とリリアンヌさんはこだわりがあるようで二人が中心になって結婚式の準備は進んでいた。

今週中にドレスは出来上がるという事で楽しみだ。

出張という名のウエディングドレスのデザインを見に王都に行っているヴォルフ様が今日数日ぶりに帰ってくるのでソワソワしながら待っているとアンソニーさんがお茶を持ってきてくれた。


「もうすぐヴォルフ様がお帰りになるころだと思いますよ」


アンソニーさんは普通の人なのに、ヴォルフ様の帰宅する時間が解るらしい。

さすがプロの執事だ。


「ありがとうございます」


お茶を受け取ってお礼を言うと頭を下げて去っていく。


「早くヴォルフ様帰ってこないかなー」


ウエディングドレスの様子も気になるが、大好きなヴォルフ様に会えないのは寂しい。

狼の姿でも傍にいてほしいと思ってしまう。

窓から外を見るが、まだ帰ってきてはいないようだ。

ソワソワしていると不意に左手を取られた。


「ただいまクレア」


ヴォルフ様の低い声が耳元で聞こえたかと思うと、後ろから抱きしめられた。


「おかえりなさい。気配を消して急に来ないでくださいよ」


ドキドキする胸を押さえて振り返るとヴォルフ様は微笑んで私にキスをした。

抱きしめたままの私を膝の上に乗せてヴォルフ様はソファーに座った。

既にここが私の定位置になりつつある。


「ドレスはどうでしたか?」


後ろから私を抱きしめながら首元に顔をうずめていたヴォルフ様が顔を上げた。


「綺麗に仕上がっていた。クレアに似合うものになって満足している」

「凄い楽しみです」


ヴォルフ様は私の左手の中指にはまっている狼の指輪を抜いた。


「もうこれは必要あるまい」

「代々伝わる指輪じゃないんですか?」


妻が持つものだと言っていたのを思い出して言うと、ヴォルフ様は軽く肩をすくめる。


「狼から戻れなくなった時用だとは思いもよらなかった。どこかに大切にしまっておけば十分だ」

「確かに・・・」


私たち以外にも必要な人が出るかもしれない。

私が持っているよりは大切に保管してもらった方がいいだろう。

ヴォルフ様は私の左手を持ったまま、私の薬指を何度も撫でた。

くすぐったくて手を引っ込めようとするが、手を掴んだまま放してくれない。


「なんですか」

「今更だが、婚約指輪をプレゼントしようと思ってな」

「え?」


振り返るとまたキスされ驚いていると、左手の薬指に冷たい感覚。

見ると左手の薬指にピンク色の石がついた指輪がはまっていた。

キラキラ光る石に見とれていると、ヴォルフ様の大きな手が重なった。

ピンクの色が好きだと言ったのを覚えていてくれたのだと嬉しくなる。


「ピンクダイヤモンドだ。希少な石らしくこの大きさを探すのに苦労した」

「狼の指輪よりも嬉しいです。ありがとうございます」

「気に入ってもらって良かった。結婚指輪は共に決めよう」

「楽しみですね。結婚式」

「そうだな」


ヴォルフ様の体温に幸せを感じる。

ふと、ヴォルフ様の背後を見た。


「・・・尻尾は出ていない」


うんざりしたように言われてしまい私は笑ってしまった。




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