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かぐや姫が語ることには

✳︎

 あなたが驚かれるのも無理はありません。ああ、これから話すことをあなたが理解しきれるとは思っていません。ただ、求婚目的でない男性が訪れるのが初めてだったので、少し語りたくなったのです。長い独り言だと思って聞いてください。頭のおかしい女だと吹聴してもらっても構いません。おじいさんは嫌がりますが、その方が求婚者が減って助かりますので。


 まず、わたくしはこの時代の人間ではありません。約2000年ほど未来から『タイムマシーン』という時間を超える……船のようなもので漂着してしまった、遭難者なのです。わたくしは、もともとこの時代よりも少し昔を調査する予定だったのですが、途中で動力源がおかしくなってしまって。それでたどり着いたのがたまたま、このおじいさんの仕事場だったわけです。

 ところで、わたくしが昔三寸ほどの大きさをしていて、竹から生まれたという話はお聞き及びでしょうか? あれはですね、タイムマシーンを作動させるためには相当な速度を出す必要があるので、中に乗っている人間ごと小さくする必要がありまして。さらに、機体……船には故障して動けなくなった際、現地人に簡単に見つからないようにステルス……隠れる機能が付いているんですね。だから、わたくしが乗った状態のまま、竹の一つに形を変えていたのですよ。それがまさか、現地人が斧で真っ二つに切ってくるなんて思わないじゃないですか。確かに軽量化に伴ってだいぶ薄い金属で構成されていましたけれど、どんな怪力ですか。頭の上スレスレに斧が通った時は死ぬかと思いましたよ。

 それで見つかってしまったのですが、おじいさんは物理的にサイズが小さいわたくしのことを赤子だと認識したらしいんですね。あのですね、本来はわたくしの体に埋め込まれている自動翻訳機で、すぐにでもちゃんとご説明出来るはずだったんですけれども、何しろ物理的に小さいものですから、おじいさんのお耳にはわたくしの声が遠くてですね……。小さくなった体は、通常ならば元の時代でタイムマシーンごと本来の大きさに戻すのですけれども、今回のような事故で外に出てしまった場合、体に負担をかけないようにゆっくりと大きくなるようになっています。かかる時間は個人差があるのですが、わたくしの場合は三月みつきで元の大きさになりました。

 初めのうちは大きさ的に動き回るのに支障があったので、わたくしの船や荷物を確認に行けませんでした。他の人に接触を図ろうにも、何しろド田舎でしょう? それにこの時代については詳細には存じませんでしたから、不確定要素が多すぎて。

 ある日おじいさんが……あの日のことは思い返すだけでめまいがするのですが……おじいさんが、わたくしのタイムマシーンを粉々にしてほくほく顔で帰ってきたのです!

 「光る竹を切ったら金があったぞい」とか言って。

 そりゃそうですよ。それ金属ですもの。わたくし、崩れ落ちましたよ。

 わたくしは自力で船を修理するのを諦めました。ここまで粉々になってしまったら手の付けようがありません。しかも売ってしまったし。

 動けるようになってから竹林に様子を見に行きましたが、誰かが持ち去ったのか何らかの機能が働いたのか、わたくしが船に積んでいた荷物もそっくり無くなっていました。落ち込みましたよ。

 そして、おじいさんとおばあさんは、わたくしを本当の娘のように思うようになり、この時代の基準でわたくしの幸せを願うようになってしまったのです。素朴な方たちだから、人がいいんですよね。


 そこから先は、あなたもご存知の通り。初めは物珍しさでしょう。次第に噂に尾ひれがついて、天女のごとき美しさだの鈴を転がすような声だのと言われるようになり、求婚者は増えていきます。

 でもわたくしは絶対に結婚するわけにはいきません。だって、皆さまとは生きる時代が異なる者ですもの。未来の人間が子孫を残す訳にはいきません。

 つれなくしているうちに求婚者は減りました。当然です。実物を見たことも無いのに、本気で恋をするなんて有り得ません。

 その筈なのに、五名だけ、どうしても諦めてくれませんでした。

 だから、わたくしは、この五名の方を……そうですね、正直に言えば、利用したんです。ああ、ご不快なのは分かります。でももう少し、詐欺師の告白をお聞きください。わたくしは、五名の方を利用して、失くした未来の品々をなんとか集められないかと、思ったのです。


 ──『仏のいしの鉢』とは、タイムマシーンの動力源です。炉のようなもので、エネルギーが生まれ続けているため常に光っているのです。伝説の鉢は光っているそうですから、ちょうど良いと思いまして。頼んだ石作いしつくりの皇子は似もつかぬ別モノを持ってきたのでサッサとお帰り頂きました。所詮あの人の気持ちもニセモノだったということです。


──『蓬莱ほうらいの玉の枝』は、時空を設定する時に情報媒体をセットするカプセル装置で……ええと、あの玉の一つ一つの中に、行きたい時代や場所の遺物を入れ、読みこむことで情報をより明確にすることができます。頼んだ車持くらもちの皇子は、壮大な冒険譚ぼうけんたんを語ってくれました。あの方は役者の方が向いているかもしれませんね。おじいさんがすっかり騙されてしまったし、わたくしも差し出された枝は、求めていたのとは別の……この世界に存在する本物の伝説の品かと思いました。しかし、ドケチだったのがこちらに幸いして、作り物だとわかりました。所詮、製作費すらケチるまがい物の気持ちだったということです。


──『火鼠の皮衣』は、未来の服です。耐火耐水耐寒に優れていますので、この時代の技術や力では破れませんし、火にくべても燃えません。安倍あべの右大臣が隣国から輸入したという高価な布は、ただの高価な布でしたね。火に投げ込んだらあっけなく燃えました。それと一緒に、右大臣の気持ちも燃えたようで、それ以来何も言ってよこさなくなりました。


──『竜の首の玉』は、操作ハンドル……船の舵のようなものです。丸い球体の上に手を乗せて使いますが、綺麗で気に入っていたんですよ。黒・白・青・赤・黄と、色が順番に変わるんです。でもまさか、大納言がわたくしと結婚するために離縁するとも、自ら荒れた海に航海に出るとも思いませんでした。別に殺そうとしたわけでも、社会的に地位を失わせようとしたわけでもありません。あの方が勝手にしたことです。一方的に離縁なんかされて、気分が悪いのはこちらです。


──『燕の子安貝』は…………。


 ……困りましたね。お顔が怖いですよ。中将。

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