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ロン

俺の主はおかしい。


いや、神だなんて言われてるやつらは大抵みんなイかれてる。俺もその末席にいるわけだから、正確には創造神に与えられた役目を持った神のことだ。そいつらの尻拭いをするのはいつも下っ端の俺たちなんだ。二つ名のある神には、いいか、関 わ る な。従順なふりして話を聞いて、隙をついて逃げ出すんだ。まあ、逃げるなんて不可能だろうけど。


世界って言うのは数限りなくあって、それぞれの世界の維持を数名の神が請け負っている。このアリアーデと言う世界の一柱が俺の主である女神フロンティーナだ。調停とかバランスとかを司っている。どこがだよって突っ込んだのは俺だけじゃないはず。お前絶対混乱とか混沌とか、とにかく混ぜると危険なやつだろっ、てな。しかし二つ名持ちを俺たちの枠組みで考えてはいけないのだ。「は此処に居りて、は夢幻の虚無なり」とか言ってんのが言語を司る神だって知って俺はそう悟ったのだ。あいつ白眼のない紫の瞳でどこ向いてるか分かんねえし。ずっとぶつぶつ呟いてるからまじドン引きだぜ。溌剌とした俺の同期は言語の神の眷属で、数千年ぶりにあったらが、が、しか言わなくなった。あれには泣いたね。まじで。惜しい奴を亡くしたぜ。いや、そんなのと比べるとフロンティーナでまだ良かったし。


下っ端の俺たちの仕事は、自分の主のお守りだ。神の中には世界に積極的に干渉する者と、そうでない者がいる。フロンティーナは基本はあまり世界に関わらないのだが、たまに気まぐれを起こす。十中八九、こいつ暇だったんだなって時にだ。


「ロンちゃん、間違えて加護をつけたみたい。おかしいわ?」

身に余る加護で周りを巻き込んでえらいことになっている。理由を説明して今生とはお別れしてもらい、加護を取っ払って転生させよう。その人間は涙して喜んだ。


「ロンちゃん、大雨洪水になったみたい。何故かしら?」

恵の雨が全ての大地を飲み込もうとしている。今すぐ精霊動かせよ!水が引き始めると、人間どもは涙してフロンティーナを讃えた。おい、元凶こいつだからな。


こんなのが数億、数千年続いてるんだから、俺のストレス耐性は大したもんだ。ちょっとのことじゃ動じねえぞ、なんて考えてたら。


「ロンちゃん、災厄が発生したみたい。ついてないわ?」

いつものノリでこいつが言うもんだから、またですか、とかうっかり言いそうになった俺は悪くない。


世界に終わりをもたらす災厄。

人間どもは魔王って呼んだりするんだろ。

命ある枠組みに入っているくせに、神々を脅かす存在。数多ある世界で不特定多数発生し、その異質ゆえに、存在するだけで文字通り世界を壊していく、俺たちの天敵だ。下っ端の間では、最高神である創造の神が気まぐれで造ったんじゃね説がまことしやかに噂されている。その災厄がとうとうアリアーデでも起こりやがった。

フロンティーナはこんなぽやぽやの言動とは裏腹に、一柱で世界を支えるほど神格の高い神だ。しかしこいつは戦闘向きの神じゃない。


「じゃあ流行りの勇者を召喚するわ。楽しみね」

「いや、地球の神々が禁止してます。搾取され過ぎたみたいっすわ」


「じゃあ戦の神に来てもらいましょ?」

「いや、あの方は別の世界で災厄と闘ってるみたいっす。終わり次第来てもらうように申請しますけど、いつになるか」

てかあいつ脳筋通り越して、ここ数百年「がっ、あがっ、が?」しか喋んなくなったし、言葉通じねえんだわ。申請しても意味分かる?って感じだし。


「困ったわ。まあ消滅させるぐらい、何とかなるでしょう」


おいおい、死亡フラグだよ。

そうしている間にも、次々と精霊が眠りについているのがわかる。


こいつにはいつも迷惑かけられっぱなしで。しばらく眠ってくれねえかなって何度思ったことか。それでもやっぱりなあ。俺の主はこいつしかいないわけで。だから。


俺が先陣切りますって言ったのに。


「フェアロンシェードは後援をお願いね。あなたが眠ったら、私のお世話をしてくれる子がいなくなっちゃうの」


俺以外にもあんたの眷属はいるくせに。あんたに、あんたに何かあったら。

初めて主に反論したぜ。懲罰ものだな。なのにフロンティーナは嬉しそうに笑うだけ。


俺はあいつの命令に縛られて、動けやしねえ。

こんな時だけ格の違いを見せつけやがって。


主の尻拭いはいつも俺なんだ。あいつに何かあったら…必ず俺が…それで消滅してもいい。



「彼と結婚したの。お互い一目惚れよ?」


おいいいいいいいいいいいいいいっ。俺の覚悟を返してくれっっっ。今すぐっ。



「枠組みを外すことはできなかったから、彼と世界の均衡を調節したわ」


おいおい、俺の主はおかしすぎる。どこの世界に災厄とうっかり恋愛結婚しちゃった女神がいるよ。それで実質無害にしちゃってるし。そう言えばこいつバランスの神だったな!


「それでね、ちょっと、力を、使い過ぎたみたい」


ゆっくりと瞼の閉じるフロンティーナを俺は潰れそうな心で見守っていた。


だから嫌なんだ。下っ端はいつもこき使われる。主が悠々と眠っている間も、俺たちは荒れた世界を戻すため走り回らなきゃいけねえんだろ。たまには自分でやってみろってんだ。


「おやすみなさい。女神フロンティーナ」

冗談じゃねえっての。


だから…早く目を覚ましてくれ……。……頼むよ…。



そこから呑気に寝ているこいつがいなくなったと思ったら人間に転生してたとか。本当に笑えねえ。


「ロンっていつも一緒にいるのね?」

「そりゃそうだろ。あんたの祖母の妹の息子の嫁の従姉妹の斜向かいに住んでいるピアノの先生の知り合いの友達の初恋の相手の子供なんだから」

「ねえ、それって、赤の他人じゃない?じゃあ、お友達ね!」


んなわけあるかっ!


本当にあんたって抜けてるよな。人間になったのに、その溢れる神気は何なんだよ。おかげで周りは信者だらけ。血肉を分けた家族は何ともなさそうだけど。これは災厄が見つけるのも時間の問題だな。俺が教えろって?それが出来たら手っ取り早いのにな。こいつの周りで俺に行動制限がかかってるみてえ。


あー、仕事たまってんだろうな。せいぜい十数年。されど、十数年だ。


なあ、早く記憶を取り戻してくれよ。

千年もの間…ずっと待ってたんだぜ…。


頼むから、俺のこと思い出してくれ。


呆れるほど間抜けでマイペースな俺の女神さま。

これで完結となります!ありがとうございました。

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