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12話「装備&移動」

 カラスが帰ってきて、町から出て少ししたところにかなり広い森があるとのことなので、俺は子供たちを連れて町を脱出していた。

 脱出方法は至って簡単。

 日が沈んだ後に子供を二人か三人ほど抱えて町を囲う壁を飛び越えるだけ。

 俺の腕の中で子供たちがワイワイキャッキャ騒ぐのはうるさいし、見つかるかもしれないと不安で仕方なかった。それも暗殺者アサシンのパッシブスキルの【音消し】で多少の音は消えるんだけどね。ていうか、【音消し】って……もうちょい名前……


 ともあれ、今俺はちょうど全員を城壁外へと運び終えたところだ。

 俺はこれからどこへ行って何を行うか、夜の闇に不安そうに怯える子供たちへ喋る。


「よ~しお前ら、これから俺たちは森へと向かう。そこでお前たちには一週間生き延びてもらう」


 この言葉にこどもたちは不安か恐怖か、体を震わせる。


「武器はこちらから支給してやるし、死にそうになったら回復なり救出なりしてやる。安心していいぞ」


 しかし続いた俺のこの言葉に安堵が広がる。

 まあ、一応死なせないって言ったしな~。このくらいは当然じゃん。


「だが、俺からの救出を受けた者はその時点で失格とする。またあのゴミだめへと戻ってもらう。説明は以上だ。あとは適当に頑張ってね~」


 そう言うと俺は質問はないかな~と子供たちを見渡す。

 子供たちは不安そうに互いを見合うだけで、質問をしそうな雰囲気にはない。


 うん、大丈夫そうだな。てか今更言っても俺は知らん。


「あの、しつも――」

「――受付時間は終了いたしました~。てなわけで、行くぞ~」


 どうせ命は保証してるんだ。

 万が一ってのもあるが、カラスに聞いた感じではその万が一もあり得なさそうだし。

 なんなら適当に召喚サモンして半分くらい見てもらえばいいんだし。


 そんなわけで、俺は質問をしようとしていたあの少女――リーシュを遮って森のある方向へ向かって歩き始めた。

 歩く、と言っても俺の場合はよく分からん特殊っぽい歩法でスススッと音もなく結構な速さで進んでいく。

 子供たちはそれにおいて行かれないように必死に俺を追いかけるのだった。




 そして数十分後、俺たちは森の入り口へ着いた。

 夜と言うこともあって道中には魔物っぽいものをちまちま見かけたが、それらはすべてサーチ&キルしてきた。

 子供たちに対処は無理だろうしな。

 しかし走り続けてきた子供たちはすっかりバテているようだった。


 俺は子供たちの休憩ついでに大きく肩を上下させている子供たちを改めて観察してみる。

 とりあえず人数は十五人。男が八の女が七、だと思う。小さい子は男女の判別が難しい。

 年齢はスリの少年――カテフが言ったとおり、十三歳ほどに見えるカテフが最年長、最年少は身長百センチちょっとの七歳くらいの子だった。

 そして驚くことに最初は見かけなかった獣人や、エルフがいた。


「おい、それって……」


 思わず俺は声に出して呟いてしまう。

 俺の言葉に反応して目があった八歳くらいのエルフの子は俺が指さしているものが自らの耳だと知って、慌てて魔法をかけ直した。


 するとエルフの子の耳は人間のものに、獣人の子の耳と尻尾は消えてしまう。

 まさかのまぼろし魔法である。ゲームでは完全にネタ魔法だったので警戒していなかった。


 暗殺者アサシンならば変装など思いつくだろう。

 そこで俺もちょっとした幻魔法は習得した。

 思えば運営配信の魔法と言う時点で地雷だと気づくべきだった。

 そしてある程度育てたところで、やはりというか欠点が浮かび上がった。

 それは魔物などに化けてもプレイヤーの上に表示されるネームは消えないし、変化もしないということである。

 前情報なしに手を出したせいで結構なスキルポイントを無駄にしてしまったあの屈辱…………


 しかし今、この現実となった世界でなら通用するようだ。

 俺は久しく使っていなかった幻魔法を使ってみる。


「【真の姿(トゥルー)】」


 これは幻魔法を解除させる魔法で、レベルに関係なく幻魔法を解除させる。ネタ魔法と運営も思っていたのか、ここらへんは適当だ。

 俺の魔法発動とともに再びエルフと獣人の特徴を現す二人の子。


「あぅ……」

「グルルルッ!」


 正体を見破られてか、反射的に二人はそれぞれの反応を示す。

 エルフの子は頭を抱えてうずくまり、獣人の子は四つん這いになって毛を逆立てながら威嚇する。


「………………面倒だな」


 そう思った俺はとりあえず二人を無視することにした。

 思わず声に出てしまっていたが、そんなに興味があるわけでもないからね~。あ、尻尾とかはちょっと触りたいかも。もふもふしてそう。


「…………ん?」

「グルルルゥ……?」


 俺が興味がないように視線を背けたからか、二人は不思議そうな声をあげる。

 だが、説明なんてしなくてもいいだろ。めんどくさいし。


 そんなわけで、俺は息も整ってきた子供たちに声をかける。


「さて、そろそろいいよね? これから君たちにはこの森の中で生き残ってもらいまーす! いえーい!」


 無反応な子供たち。

 結構空しい。ちょっとだけ残ってる現実の俺が馬鹿なことはやめろと囁いてくる。

 別に良いだろ、ここはゲームみたいなもんなんだから。

 俺は説明を続けた。


「ま、いっか。とりあえず初期装備は欲しいよね。てなわけで、ほいっ」


 俺はそう言って武器を取り出すと俺の周りの地面に次々と突き刺していく。

 剣、槍、弓、斧、杖、棍、刀、槌、ナックル、ナイフ。

 全部レア度は五。それ未満は自動で捨てている。五からはたまにスキルが付いてるからな。まあ俺の場合それも攻撃力アップ系しか受け付けないんだが……

 ちなみにカテフに見せたレア度六はモンスターが落とす最大レア度の一つ下だ。


 子供たちは目の前に広がるたくさんの武器に目を輝かせる。

 分かるぞぉ、武器はロマンだからな!

 ちょっと気分の良くなった俺は次々と必要なものを取り出していく。


「次にこれだ。これは経験値増加薬って言って、まあ成長を早める薬だ。副作用とかないから安心していいぞ~。これを一日一本、ちゃんと飲むんだ」


 そして一人七本ずつ紫色の液体の入った試験管を与えていく。

 ゲーム中期辺りで気合いを入れて大量に買ったんだが、案外早くレベルがカンストして無用の長物となっていたものだ。


「あとはこれだな。下級回復ポーションだ。どうかな~、一人十本くらいあげとくか」


 そう言って俺は渡そうとしたが、普通に考えれば試験管を二十本近く持って歩き回るなんて不可能であると気づいた。

 そこで、俺は子供たちに試験管をいれれる鞄みたいな物を渡していく。


 鞄は腰にくくりつけるタイプの物で、中は升目に仕切ってあるものだ。

 ギリギリの戦いの時はアイテムボックスで視界が遮られるのを防ぐためによく使っていたものだ。

 ちなみに、たまに攻撃を受けて鞄がロストすることもあるのでストックは大量にある。金も有り余るほど残っていたしね。


 しばらくして、すべての装備を装着し終えた子供たちが互いを見て少しだけ騒ぐ。

 防具は俺にとって必要ない物――使えないとも言う――なので全て捨てているため子供たちは襤褸ぼろのままだ。

 多分この訓練で破れちゃうんじゃないかな。

 俺は、服くらいなら支給してやるか、と少しばかりの優しさを出す。

 クズでも人間性は失ってないつもりだぜ~。ま、ゲームだしこのくらいは……いや、そう言えばここはもう…………でも、だけど………………


 そしてすっかり闇も深まり日を越えた頃、俺は手を叩いた。


「はいはい、注目! これから一週間、君たちはそれだけの荷物で生き残ってもらいま~す」


 さっきまで浮かれていた子供たちがキリッと顔を引き締める。

 だが俺の軽い調子の声は変わらない。


「じゃあ皆手を繋いで~」


 子供たちは俺の言うことに疑問を抱きつつも指示に従って近くにいる人と手を繋ぐ。

 そして全員が手を繋いで円になったところで俺は近くの子の肩に触れた。


「それじゃ、行くぞ~」


 そう言うと子供たちの疑問の声も無視して、カラスから通して見た森の奥深くへと【影渡り】で飛んでいくのだった。








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