風よ、声を乗せて
「俺たちは確かに進んでいると思うよ、お前の分も」
『風間辰人、ここに眠る』
そう書かれたプレートを真っ白なハンカチで拭いた少年は、しゃがみ込んだまま両手を合わせて黙祷する。
隣に立っていた少女も、アストロメリアの花束をそっとプレートの隣に置き、黙祷した。
風間辰人がいなくなってから、二年が経過した。
とても短いようで、とても長い二年だった。
けれどきっと、進んでいる。
少年が言ったように、彼らは前に進んでいる。そう――風間辰人の分も。
ささやかな風が吹いた。
ふと、少年――時神鈴は声が聞えた気がした。
風に乗り、懐かしい親友の声で。
――ありがとう、と。
黙祷をやめて目を開き、キョトンとした鈴だったが、ふっと笑って「俺の方こそ、ありがとう」と言った。
隣で黙祷していた少女――水無月飛鳥は目をぱちくりさせて鈴を見ていたが、鈴は「なんでもない」と立ち上がる。
「そろそろ行こうか、飛鳥」
「そうだね」
飛鳥もまた立ち上がり、二人は辰人へ別れを告げる。
「じゃあな、辰人」
「また、来るからね」
二人は、共に進んでいく。
守りたいものがあった。失ったものがあった。
しかし、この世に変わらないものなどは存在しない。どれだけ辛くても、苦しくても、人は前に進む事しかできないのだから、仕方ない。
風が、吹いた。
背中を向けた鈴と飛鳥の後ろで、風が吹いた。
その風は秋を思わせる涼しさで、この気温には心地よい。風は、散っていく色とりどりの木の葉を美しく魅せるため、それらを優しく抱きしめて、空へと昇って行った。
高く、高く、どこまでも木の葉を巻き上げて昇っていく風。風は誰にも止めることは適わず、その視界から外れても昇り続ける。まだ見ぬ世界へと、指をすり抜けて走り抜けてしまう。「今の景色を、明日も変わらず見たいから、風さんどうか、止まっておくれ」誰かが言ったが、やはり風は止まらない。
己の気の向くまま、流れるままに。自由奔放な風は空を舞う。
それはまるで、止めることのできない時間の流れのように。
それはまるで、前へ進んでいく二人見守る、今は亡き『風』の名を持つ少年のように。




