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夏の日の出来事 番外  作者: 夕部空波 
2 自分の中心
9/14

9

 実幸はふとした瞬間に起きた。気が付いたら時間はもうすでに8時を過ぎた、というところだった。駅を見てさっきもここに来たという感覚があり、そして自分が眠っていて、寝過ごしていたことに気が付いた。


 結構疲れていたのかと気付き苦笑する。友達といて気を張っていたということになるのだろうか。


 もうすぐ帰宅ラッシュになり人が増える。出口に近いところに移動しようかと考え、やめた。移動したところでまた眠ってしまったら元も子もない。目当ての駅はまだまだ先なところを見ると、寝過ごしてしまったのはつい2~3駅というところだろうか。一周するのにそこそこ時間のかかるこの電車に対して実幸は軽くため息を吐いた。もう一眠りしてやろうかと少し苛ついた気持ちで思っている。


 眠っているとき変な夢を見た。真希が何かを言って、自分を叩いて、そして離れていく夢だ。

 その時の真希が涙目で何を言っているのかさっぱり分からなかったけど、何かを訴えているような気がした。


 もともと角に座っていて、壁のほうに顔を向けていた実幸は、もそもそとまっすぐ向くように動いた。その瞬間に隣に誰かがいるということに気が付いて、反対向きになろうという考えは消えうせた。自分で握っていたのか、手袋をつけた手にはジンワリと汗をかいている。荷物置きがある方に目線を上げ、漏れそうな溜息をとどめた。


 さっき見た夢は、実幸が恐れていたことに似ていた。


 いつか、友達が離れていってしまうのではないか。そういう恐れだ。大きく深呼吸をしてさっきの夢を思い出そうとしたが無理だった。思い出そうとすればするほど、頭の中に流れていた映像はどんどん擦れて見えなくなる。

 なのに、悲しいと感じて、真希がどんな顔をしていたのか、これだけははっきりと覚えている。何か悪いことをしてしまったのだろうか。思い当たらず、嫌になる。先ほどまで、あんなに真希に苛ついていた。真希が嫌だった。それは自分勝手な感情だとわかっている。そんな自分勝手なものを真希は辛抱強く待ってくれて、それでまた真希が好きになれた。それと同時に、自分が嫌いになった。


 くだらないプライドと偏見を持って、親の言葉に縛られている自分が。


 拳を強く握った。唇をかむ。声を上げて泣きそうになるのを堪えながら、電車が動くのを待つ。


 何もかもが嫌になりそうになるのを堪えた。辛くて、悲しかったのだ、自分に。肩を抱き、顔を疼くめる。周りの人からの視線が刺さるが、そんなこと気にしない。というよりできない。自分でいっぱいいっぱいで、何をしたらいいのかもわからない。急に、周りのモノすべてが知らないモノのように感じた。自分以外信じられなくて、自分以外、だれもが周りのことを知っている。

 迷子になった子供のような感覚に陥り、余計強く肩を抱く。全てを投げ出し、逃げたいと思った。


 その時、実幸は顔を上げた。周りからの視線が強いことは分かるが一際強い視線が自分に刺さっていると感じたからだ。そして驚いた。嬉しく思って苦笑した。自分は思っていた以上に、相手のことが好きらしい。しかし、嬉しく思うことと同時に恥と悲しみ、恐怖を感じた。


 実幸の前には、真希が立っていたのだ。


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