13
朝が来た。カーテンの隙間から差す光で実幸が目を覚ました。軽く伸びをし、近くの床(結局布団で寝てくれなかった)で寝ているであろう真希を起こさないようにそっとリビングへ移動する。昨日は入れなかったシャワーを済ませ、着替え、カーテンを開ける。
清々しい青空が広がっていた。
窓からの冷気で少しぶるっと震え、朝食の準備をした。
両親は、帰って来ていない。
もうどうでもよくなってきた。その二人にさめ、自分が家にいる間にいない親に対して、どうなっても良いという感情が芽生えていた。どうでもいい。ただ、真希との時間を楽しみたい。そう思っている自分がいる。
少しあいているドアの隙間から真希の寝息が聞こえる。
何とも言えない表情を作り、実幸は誰ともなしに呟いた。
「ありがとう、真希」
***
その日はあっという間に終わった。
真希がはしゃいで、実幸の作った朝ごはんでやけどしかけたり(できたての味噌汁を一気に飲んだ)近場のショッピングモールではあれがいい、これが似合う、などと引きずられるように実幸は真希に連れられたり、なぜかはしゃぎ過ぎて転び、膝の皮をむいたり、休憩がてらに行った公園では真希が子供たちの注目の的になっていたり、昼ごはんはジュースをこぼしたりとなんだかぐちゃぐちゃになった感じの一日だったが、楽しかった。自信を持ってそう言える。
楽しい時はあっという間に過ぎるのは、少し悲しいがちゃんと自分が楽しめているのを感じられて実幸は時々泣きそうになる。そんな顔に気づいているのか、気づいていないのか真希がじっと見てくると気が何度もあった。
夕方の5時ごろに家に帰った。靴が増えていた。形から見て母親だと思った。自分がいない間に、帰って来ていたのだ。
真希を外に待たせ、一人で決着をつけようと思った。聞きたいことがいっぱいあって、言いたいことがいっぱいあった。
「お母さん?」
一応、問う形にしてみる。奥からんー? という返事がかえってきた。
「いつ帰ってきたの?」
玄関を静かに閉める。
「さっき」
なんでもないように答える母親の声にだんだんイライラが募っていく。リビングへ繋がる廊下を進み、扉をあけた。
「実幸ぃ」
実幸が声をかけずに、母親の方から声がかかった。びくっと体を止める。
「ごめんね、最近、忙しくって。お父さん、げんよりしてたわ。過労、っていってたけど。そろそろ倒れるのかも」
最後はふふんと鼻歌交じりだ。拳を強く握った。どういうつもりなのだろうか。
「それで?」
思いのほか言葉がとげとげしくなる。少しの間をおいて、母親が答えた。
「仕事、しばらく普通に戻るからさ、そんなツンツンしないの」
一瞬、言葉が理解できなかった。何を言っている、何を話している。すると楽しむような表情を浮かべ、母親が続けていった。
「みっちゃんには難しい?」
出た。子供のころから、実幸の言葉が詰まるとこういう台詞が来る。悩む様子をみて、にやりと笑うその顔に余計にいらっとする。子供のころから優秀な両親を持つと、苦労するものだと思っていた。しかし今回の問題は、確かに難しい。
「夜遅く帰ってくるのはいいわ。でも、なぜ朝帰り?」
一つずつ問題を解決していこうと思った。ずっと疑問に思っていたことだ。
「仕事。知ってるでしょ? みっちゃんもお母さんの仕事」
「……えぇ。知ってる。でも、あなたの仕事にお酒なんて関係ない」
母親の仕事は医者だ。正しく言えば看護婦で病院で医師を務めていた父と出会いそのまま結婚したという。昼と夜勤が続くとして、そこでなぜ酒が登場する。
「だって疲れるんだもん。ナースって大変なのよぉ、みっちゃんもやればわかるけど」
見透かされたような瞳で話を続ける。これだ、この目。すべてお見通しという子の表情がむかついて、余計に勉強を頑張って、そして今に至った。
ごめん真希、もうちょっとかかりそう。
心の中で自分の親友に謝り、次の質問を考えた。
少し長くなりました。誤字などの指摘、お待ちしております。




