12話 待ち構える要塞砲
曇天だった。陽の光を遮る灰色の雲に覆われた空は、今にも泣きだしてしまいそうだ。昼とは思えないほど薄暗い平野を踏み越えればバルダー要塞は目前にある。この要塞攻略の鍵を握るのは要塞に備えられた三門の要塞砲の破壊だ。
要塞砲は三機のアクトフレームからアクトの供給を受けることで強力なビームを発射する。陸上戦艦の装甲だろうが一撃でぶち抜いて撃墜する代物だ。それが三門ある。要塞砲をどうにかしない限り、陸上戦艦は要塞に近づけない。
この要塞砲を破壊するため、連合軍のアクトフレーム部隊は三つに分けられた。ローウェン・ハーバードの率いる部隊、カイリ・デルフィーニの率いる部隊、アルフレッド・ロダンの率いる部隊。知っての通りこの三人は連合軍が誇るエースパイロットである。ミィルを含むアークルス小隊は、レイアム基地からの付き合いであるハーバード中佐の部隊に組み込まれた。
「そろそろ要塞砲の射程圏に入る。各員注意せよ。回避時は散開するが、孤立しないよう小隊単位で固まること」
「了解。ミィル、フレディ。気をつけろよ。アークルス小隊は右に避ける」
ハーバードの通信の後、リンドの通信が入り、ミィルは短く「了解しました」と答える。不安や緊張感はセリアが拭い去ってくれた。今のミィルはリラックスした状態でありながらも適度に集中できている。小隊長のリンドの回避に合わせればミィルでも要塞砲を避けることは難しくない。
かくしてその時が訪れた。要塞砲が砲門をこちらに向け、今まさにビームを放とうとしている瞬間を望遠カメラが捉えた。「回避!!」というハーバードの通信が操縦席に響き渡る。予定通り、アークルス小隊は大きく右に避け、要塞砲の射線から外れた。
数秒経たずにミィルたちが先ほどいた場所を視界を埋め尽くすような光線が通り過ぎていく。要塞砲が放ったビームは遥か後方の岩壁に命中し、破滅的な熱エネルギーによって跡形もなく崩壊させてしまった。
「あ……あっぶねぇ~~……話に聞いてた以上の威力ですね。あれはアクトフレーム相手に撃つもんじゃないですよ」
「俺も同感だミィル。もし当たったらと思うとぞっとするぜ。っと……そろそろ敵のアクトフレーム部隊が迎撃に現れるはずだ。敵の機体はおそらく……」
「リンド隊長、レーダーに反応ありました。エリテイルを主力とした地上部隊と……空にも反応があります。これは……空戦型のエアドルートです。数は約50機!」
「空戦型? 第2部隊はそんなもんまで配備してるのか……!?」
リンドが驚いている。フレディの乗るライトフラムは索敵能力が強化されており、通常の機体よりもレーダーやカメラの性能が高い。フレディの声は通信機を通して他の小隊やハーバード中佐にも伝わった。すかさず中佐が新たな指示を飛ばす。
「空戦型は予想外だな。固まると格好の餌食にしかならん……各員は散開したまま要塞砲まで進め!」
ハーバード中佐の声を聞いた後、フローレスのカメラでも空戦型の姿を捉えることができた。フレディの言った通り、その特徴的なシルエットは帝国軍の空戦型アクトフレーム、エアドルートで間違いない。エアドルートは戦闘機に近い外観をしている。
人型なのは胴体と頭部だけで、腕は主翼となっており、足はスラスターとランディングギアなのでとても足に見えない。しかも飛行時にはその足も畳むから余計戦闘機らしい。武装は主翼の下に懸架されたミサイルと内蔵の機銃。近接武器による格闘戦は想定されていない。
さらにカメラは別の空戦型をも映している。それが何なのかミィルにはすぐ理解できてしまった。全身を赤く塗装し、翼を思わせる特徴的なスラスターを備えたその機体。間違いなくメリザンドだ。帝国の〈赤き翼〉ことアルヴィス・メリオネートが来ている。ということは50機のエアドルートは第1部隊である可能性が高い。
メリザンドはエナジーライフルを下に向けて三発撃った。前を走っていた別の小隊のライトフラム三機が瞬く間に撃墜される。相手の回避行動を読み切った完璧な偏差撃ちである。メリザンドはエアドルートの編隊から離れ、一気に下降する。
そしてエナジーライフルを下に向けて再び撃つ。フローレスを狙ったものだ。相手もこちらに気づいているはずだと思っていたので、この射撃には対応できた。盾を構えてビームを防御。続けて剣を抜いたメリザンドが、フローレスに肉薄して真上から振り下ろす。
「くっ……!?」
ミィルもまた剣を抜いてメリザンドの剣を受け止める。鍔迫り合いになりながら、こちらに通信を送ってくる者がいた。こんな真似をするのは一人しかいないだろう。〈赤き翼〉の異名を持つアルヴィスだ。操縦席に彼の声が反響した。
「まさかこんなところで会えるとはな! ミィル・ライズベーーーールッ!! これほど嬉しいことがあるだろうか! 今回は貴様と戦う予定などなかったが、この際だ。フローレスを持ち帰って私の名誉と誇りを回復させてもらおう!!」
「うるっせーーんだよ……! でかい声で通信を送ってくるんじゃねぇよ、編隊を崩してまで俺を狙うなんてどこまで根に持ってんだ……!」
「当然だ。根にも持とう! それに安心するがいい、断りは入れてある。私が離れる程度、些細な問題だ!」
これほど喋り倒しながらも、周囲の状況を完全に把握しているのか、突撃銃でメリザンドを撃とうとしたリンド機にエナジーライフルの銃口を向けてビームを発射する。牽制の一撃であるそれをリンド機は盾で受け止める。自分に隙はない。アルヴィスはそれを態度で表している。
「フレディ、リンド隊長! 先に行ってください! こいつをなんとかしてから追いかけます!」
「……仕方ないか。すまない、ミィル。優先順位は要塞砲の破壊が上だ。そうさせてもらう。フレディ、行くぞ!」
「了解です。ミィル、絶対追いかけてくるんだよ、待ってるから……!」
先に進むリンド機とフレディ機を見届けてから、ミィルはアクトを込めてフローレスの出力を上げる。拮抗していた鍔迫り合いが、フローレスのでたらめな機体出力によって優位へと傾いていく。このままだと押し負けると判断したのか、メリザンドはスラスターを吹かして後方の上空へと退いた。
空に逃げるなら追いかけるまで。アクティブウィングを起動し、背中から光の翼が展開する。翼を羽ばたかせて飛行すると、一直線にメリザンドへと突っ込んで剣を振るう。メリザンドは受けずに横に躱して、フローレスを蹴り飛ばした。蹴りが腕に命中して機体の高度が少しだけ下がる。
蹴りから攻撃を繋げるようにエナジーライフルを撃ってきた。ミィルはそれをぎりぎり盾で防御。剣を腰のハードポイントに接続して武器を持ち替え、突撃銃で撃ち返すものの、メリザンドには当たらない。
「ふっ。ミィル君は射撃が下手なようだな。そんな狙いのつけ方では当たるものも当たらんよ」
「う……うるさいな、これでも当てる努力はしてるんだよ!」
「面白い男だよ君は。この程度のパイロットになぜ私が負けたのか、理解できないな!」
メリザンドが再びビームを撃つ。ミィルは銃口の向きから当たるポイントを推測して機体を操作する。フローレスの高い機動力によって回避は成功し、ビームの光は肩を掠めて下へと消えていった。避けられたことに安堵していると、避けたビームが他の味方機に命中した。流れ弾を食らった味方機は轟音を鳴らして爆発する。
「……俺が避けることを計算した上で他の機体に当てたのか……!?」
「もちろん君に当てるつもりだったさ。だが君が避けても誰かに当たるように撃った」
「遊びのつもりか……!? 狙うなら俺だけにしろ!」
「断る。ここは戦場だ、どの敵を撃つかは私の勝手にさせてもらう」
アルヴィスの言う通りだ。味方機を撃たれるのが嫌なら、この男を撃墜する他ない。アルヴィスは巧みな射撃技術でミィルを追い詰めていく。だが残念なことにミィルは射撃がそう得意ではないので、撃ち合いになって勝つ可能性は限りなく低い。よってミィルの勝ち筋はたったひとつ。接近戦だ。




