自覚する想い
朝を迎えて、目の腫れた自分の姿にライラは驚いていたけれど泣いたなんてことは言えないまま、ライオネル様が護衛代わりに乗った馬車に同乗することとなった。
昨夜のこともあって彼とは目を合わせるのも恥ずかしくなっていた。そのせいでなかなか目を合わせられない。
それなのに、彼は昨夜と変わらず話しかけてくる。
「エリオット殿、昨夜は寝れたか?」
「ぁ、は、はい、問題、ないです」
「そうか。ライラはどうだ?寝坊しなかったか?」
「なんで私には寝坊したって聞くの……っ?」
「お前はよく寝ていたのを確認したからな。よく眠れたみたいで安心した」
「お顔見たの……?なら、お兄様と一緒に寝たかった……っ」
「流石にお前も淑女と呼ばれる歳だ。共に寝ることは難しいが、寝るまで話すことはできる」
「本当……っなら帰ったらお話したいっもっとたくさんっ」
「あぁ、俺もライラと話したい。その時にはエリオット殿も屋敷にいるだろうから安心しろ」
穏やかな兄弟の会話になり、邪魔にならないように黙って聞いていたけれど、突然彼の声で名前を呼ばれて顔を上げた。
「え!!お兄ちゃんも一緒に帰れるの!?」
「あぁ、俺の屋敷にと思っているが、それでいいだろうか、エリオット殿?」
「っそんな、ご迷惑になるのでは……っ?」
「皆には事情を話してある。彼らはライラ命の恩人である君を無下にするような者達ではない。もし、そのような者がいるなら相応の処分を下そう」
「そ、そんなことしなくても――」
「君のことを守らせてほしい。頼む」
言い返している最中、彼は真剣な表情になって念を押す様に言われてしまった。彼の頼みなんて断れないだろうことは分かっていたのだろう。退路を断たれた俺は大人しく頷いて、ライラを喜ばせた。
その前で喜びからか微笑んだ彼の顔に一瞬見惚れてしまい、そっと目線をそらしたが、頬の熱さを抑えることはできなかった。
それから長い時間をかけて馬車で移動し、ようやく彼の国
に着いた後は本邸に向かうライラと別れて彼の屋敷に入った。中に入ると使用人達は俺を歓迎してくれ、特に年老いていた執事とメイドはライラの幼い頃に世話をしていたらしく、彼らにはいたく感謝されてこちらも涙ぐんでしまった。
しかし、穏やかな生活が始まろうとした矢先、一度眠った俺は1日眠りにつき、起きれば発熱したとあって屋敷の中は慌ただしくなった。長い時間熱にうなされて記憶は曖昧で、ほとんど覚えていない。
そんな中でふと、夜中に目が覚めたことがあった。頬が何か濡れて、目を開くと、そこにライオネル様がいて驚く。
「――ライオ、ネル、さま」
「っエリオット……っ」
俺の名前を敬称を忘れて呼ぶ彼はひどく疲れた顔をしていて、心配になる。
それに、どこが不安そうだ。
「ど、うし、ました……?」
「無理に話さなくていい……っまだ苦しいだろう。今水をやる……っ」
そう言いながら水指から注いだ水の入った器を片手に、頭を支えながら飲ませてくれた。
喉が潤うと、彼は頬や額を触り、まだ暑いことを悟るとまた不安そうに顔を歪めてしまう。
「これ以上貴方が苦しむ必要はない……っなのに、なぜ……っ」
「――大丈夫、です、きっと、すぐ、なおり、ますから」
なんとか答えても、彼の顔は晴れることがなく、汗で濡れた手を、冷たい手が握ってくれた。
祈るように持ち上げた手を額に添えながら彼は、瞼を閉じ、苦しげに眉をひそめた。
「貴方を失うことがあったら俺は、自分を許せない……っまだ、何もしてやれてないのに……っ」
どうして彼はそこまで追い詰められてしまったのか。
騒動の余波で忙しくなって辛いのだろうか、と考えると彼の不安を少しでも取ってあげたかった。
「熱、下がったら……お、れ、ライオネル、さまの、お手伝い、します、から、だから……むり、しないで、ください」
俺の言葉に瞼を開いた彼は、かすかに息を吐いて俺の方を見ると、呆れたような顔になってしまった。
「――それは俺が言いたい。貴方はもう、何もしなくていい。これからは貴方の好きなように生きていけるようにする。だから、よくなってくれ」
「――は、ぃ」
その言葉を聞いた翌日、無事に熱が下がり始めた。そこでやっと自分が数日間も熱にうなされていた事を知って、ライオネル様がどれ程の不安を抱いたのかと思うと申し訳なくなってしまう。
食欲も出てきたが、まだ柔らかい食事を少しだけしか食べれないものの朝と昼を食べることができ、医者からもこのまま行けば大丈夫だと言ってもらえた。
次に彼に会えたら、なんて考えようとしたのに、知らせが行ったのか医者と入れ違うようにしてライオネル様が顔を出したものだから慌てて声をかけた。
「ライオネル様……っお忙しいのでは――」
「っ貴方の体のほうが大事だ……っ仕事なんてあとからどうにかする……っそれより、体調は問題ないのか……っ?」
「は、はい。お医者様はこのまま行けば大丈夫だと言ってくださって――」
「――っ本当に、良かった」
そう言いながら、体の力が抜けたらしい彼の姿に喜びと共に心臓の鼓動が早くなっていく。もう目を背けることはできない。
ノイアの頃から彼には助けてもらってきた。それが、ライオネル様になった途端に露骨に、積極的になって、ここまで大切にしてくれている。これまで女の経験もなく来てしまったせいか、こんな感情を男に向けるなんて想像もつかなかった。
けれど、彼とか関わるほどにその気持ちははっきりとしてしまう。これから先を思うと関係を崩すのは嫌でそれ以上を考えることはできない その代わりに、体を整えたその後は彼の力になりたいとそう思った。




