行方
「ん?」
体育の授業の後、食堂で昼食をと思い行ってみると何やら騒がしい。
「どうかしたのか?」
俺は近場にいる生徒に話しかける。
「あぁそれがな。購買部にある食料が誰かに盗まれたみたいで無いらしいんだって」
「は?」
聞いたところによると、二時間目前に搬入し準備を終えて購買部のおばちゃんたちが控え室で休んでいると物音がして、確認に行った時には購買で販売する食料だけがごっそりとなくなっていたとのことだ。
おかげで普段購買で済ませる生徒たちが食堂を利用しているためこんなに混雑している、というわけだ。
「マジか……ん?」
混雑し、未だに列が全然さばけてないでいる食堂をながら、俺も今日は購買ではなく食堂で済ませようかと思案しているとふとまたなにかの気配を感じてその気配を辿ってみると体育館の屋根。
(そういえば体育のときも誰かいたような気がしたが……確認してみるか?)
俺は食堂から離れ、誰にも見つからないようにこっそりと体育館の裏手に行く。
改めて辺りに誰もいないことを確認してから足に力を込めて一気に上空に跳躍する。
天辺まで10メートル以上ある体育館は普通なら無理だが今の俺ならひとっ飛びである。
「なんとなーく予感はしてたけどやっぱお前か」
「気付くの遅っそ」
屋根の上に降り立つとそこらじゅうにゴミが散乱しており、その中心には見慣れた姿のるながそこにいた。
「お前のせいで昼飯食い損ねてるやつ多いんだが?」
「るなしーらない」
俺の小言もどこ吹く風と左手に焼きそばパン、右手にかつサンドを持ち交互に頬張る。
美味しそうに食べるその姿に俺の腹の虫が鳴る。
(うまそうに食いおってからにこのガキ)
目の前で食われているとただでさえ空腹なのに余計にお腹が空く。
そしてお腹が空くと苛立ちも募っていく。
「ってかどうやって購買に忍び込んだし」
「あっきーに取ってこさせた。『ヒャッキ』は普通の人には見えないから取るのなんて簡単だし」
にししと笑うるなになんとも言えない表情をし頬をかく。
倫理観がバグっているため叱った方が方がいいかと考えてふともう1人が居ないことに気付く。
「なぁ、ヴァンはどうした?」
「おっちゃんは情報収集。るなは待機してろだってさ。除け者にされたみたいでつまんないと思わない?」
ヴァンのことを聞いてみたが、るなは不機嫌そうに頬を膨らませやけ食べるスピードを上げる。
業者レベルの量の食べ物がみるみるうちにるなの腹にの中に消えていく。
(なるほど。仲間はずれにされて拗ねてそれで、か。……でもなぁ)
「ひとまずはるな。それ以上食うな」
俺の言葉に食べる手を止め、るなはこちらを睨むように見上げる。
「……なんで? あんたがるなの食事止める権利ないんだけど」
「止めるだろ。金払わずに食うのは普通は犯罪だからな」
「『ヒャッキ』使える人は普通じゃないし。普通じゃないるなには普通の法律はてきよーしないもん」
なんというか、見た目通りの子どもじみた屁理屈を言いまた食事を再開しようとするるなにため息を吐きそうになるのを堪え俺は口を開く。
「お子さま発想やめんかい。それに『百鬼』であってもるなは普通だろ」
「るなが、普通?」
ピタリと手を止め再び俺を見る。
だが先程とは違い敵視はしておらず、何かを確認するような、期待するような目をしているような気がした。
「なんでそんなこと言えるの? るなの見た目も中身も普通じゃないじゃん」
「んー、まぁ髪色とか言動とか言われりゃそうだろうけど。少なくとも俺からするとお前って年相応に普通の感性してると思うけどな」
るなはじっと見つめるだけで何も言わないため俺は思ったままを話し続ける。
隠し事や冗談など言わず、あくまでありのままを喋った方がいいだろう。
「確かに最初見た時はすげぇ格好だな、ぶっ飛んでんなって思ったけどな。だからって別にそれだけだなって思うし」
「……言ってる意味わかんない。何が言いたいわけ?」
「言いたいのは、どんな格好や性格してても会話できて素直に聞く姿勢持ってるやつなら俺にとっては普通でしょってこと。そんだけだよ」
「…………」
うん。自分でも何言ってるか途中からよく分かんないや。
話が最初の頃から脱線しまくってしまった。
ひとまずそれは端に置いといて購買での窃盗の件は片付けておこう。
(しかしさっきからなんか妙に静かだな)
先程から下を向いて動かなくなり沈黙しているるなとのこの空気感が気まずくなり、顔を覗きこもうとすると彼女は立ち上がりこちらにポイッと何かを投げて寄越した。
「おっとと。……焼きそばパン?」
それは購買で売られていた焼きそばパンだった。
「おい、これーーー」
渡された意図がわからず顔を上げるとすでにるなの姿はなかった。
「くれた、と解釈していいのか?」
理由は分からないが好意的に考えることにする。
「てか結局あいつは何しに来たんだ?」
るなの読めない意図行動に疑問を持ちつつ、貰ったこれを戻すべきか。
でも戻したら追求どころか俺が犯人扱いになってしまうしでどうしようかとあれこれ考えた俺は証拠隠滅するために誰にも見つからないようにこっそりと焼きそばパンを口に入れたのであった。
「うん。るなのこと悪く言えんな、俺も 」
誰に言い訳するでもなく、俺はそう1人呟いた。
「あとでこっそりお金だけ置いていこ」
凛は数瞬悩んだが、とりあえず自分の食べた分だけは払っておこうということで自身を納得させることにした。




