敗北
「やい! ドロシー今日は逃げずにやってきたようだな!」
次の日の朝俺はレオンおじさんの店の前に来ていた。
「逃げずにも何も起きたばかりなんだけどね。おや、それはどうしたんだい?」
まだ眠たそうに目を擦っていたドロシーだったが俺が持ってきた秘密兵器を見ると驚いたようだった。
「ふっふっふっ、この剣に気付いたかドロシー! この剣は俺の憧れの人から貰った剣だ!」
この剣をくれたのは俺が冒険者になりたいと思うようになった理由を作ってくれた人だ。
そして勿論刃が出ては危ないから鞘に紐を括り付けて絶対に剣から出ないようにしてある。
「そうなんだ。それは……ふわぁ……凄いね」
「真面目に聞けよ!」
「うんうん。聞いているさ。それより始めようか。寝起きの運動……にはならないと思うけど、ちょっとは目が覚めると思うからさ」
「ムカつくー! お前のそういう余裕ある感じ大嫌いだ! 喰らえ!」
顔面に剣を当てるべく、踏み込んで剣を振るう。が、簡単に避けられてしまった。
「へぇ、ちゃんと振れるんだ。てっきり振り回されると思ったんだけどね」
この剣の大きさは俺の身長とほぼ一緒だ。ドロシーの言いたいことはわかる。でも……
「この剣を使えないんだったら持ってこねぇよ!」
「それもそうだね。ところで、このままだと昨日と同じ負け方になるけどそれでもいいのかい?」
この上からの物言いに腹が立つ。でもドロシーの言っていることは正論だ。このまま直線的にドロシーを攻撃したとしても避けられるだけだろう。
俺の目標は剣をドロシーに当てること、だったらやるべきことは隙を作ること!
「……ふっ!」
さっきと同じようにドロシーへ向けて駆け出し剣を振おうと踏み込む。
「うぉぉぉ!」
「また同じ手を……これは?」
昨日あれから家に帰って考えてみた。それは俺の動きが直線的すぎたからだ。
俺は剣を地面に擦らせながらドロシーへ向けて振るった。が、剣はドロシーに当たらない。避けられたわけでも防がれたわけでもない。ただ間合いが足りてないのだ。
でもこれで狙い通りだ。砂がちょうどドロシーの視界を遮った。
今なら当てれる!
「はぁぁ!!」
砂の煙幕ごとドロシーを切り伏せる。が、剣がドロシーにあたることはなかった。
というより煙幕が晴れるとそこにドロシーの姿はなかった。
「え?」
「……子供ながらの思い切りの良さもあるし、昨日の反省を踏まえて考える力もあるようだね。でもそれじゃ私に届かないよ」
後ろから声が聞こえた。そしてその言葉が聞こえた後に頭に感触を感じた。どうやら手を乗せられたようだ。
「…………」
ドロシーの姿は確かに見えていた。そのはずなのに振りかぶった一瞬で俺の後ろをとったのか? 目にも止まらぬ高速移動で? 嘘だろ?
「ありがとう、ちょっと目は覚めたよ。まずは朝食を食べてか。朝食はとったのかい? まだだったら一緒に食べないかい?」
少し前に移動して微笑みかけてくるドロシーが途轍もなく遠いところにいるような気がするのだった。
「あっ! こんなところに居た! ドロシー様も一緒だったんですね!」
それから少ししてドロシーがご飯を食べ終わるとサムがやってきた。
「……おう」
「おはよう、サム。この後調査に行くけど食事は済ませてあるかい?」
「えぇ!? グレンってば、もう負けちゃったんですか!?」
その後ハッとしたのか口を押さえたがもう遅い。
「……悪りぃかよ」
「……負けず嫌いのグレンが負けを認めた?」
なんでサムはこの世の終わりみたいな顔をしているんだ。俺だって負けを認めることくらい……なかったような気がする。
「ど、どうしたのさ。もしかして体調が悪いとか?」
「そんなんじゃねぇよ」
チラリとドロシーを見ると昨日よりも大きく感じた。
「…………」
サムとの間になんとなく気まずい沈黙が流れた。
「ドロシー様ちょっと待っていてくれますか?」
「うん? 私は構いけどどうしたんだい?」
「ちょっとグレン借ります!」
「え!? あ、ちょっ!? おい!」
サムは俺を無理やり引っ張ると店を出るのだった。
「本当にどうしちゃったのさ! いつものグレンらしくないよ!」
サムは少し離れた広場まで来るとようやく足を止めた。
「別に……いつも通りだろ?」
「いつものグレンならたとえボコボコにされたって負けだって認めないだろ。バクーと喧嘩した時だって負けを認めなかったじゃないか!」
「あん時は……最終的に勝っただろ」
「それは勝てるまでバグーに挑んだからでしょ! その時の負けん気はどこに行ったのさ!」
「……それは」
「それに初日からドロシー様に負け続けているけど今まで諦めなかったじゃないか!」
「それは勝てると思ってたから……」
今までは心の中で勝てると思っていた。
最初に気を失った時は油断してたし、昨日は俺の攻撃を止めたり避けたりするだけで多少は強いけど大したことないと思っていた。
でも今日のは別だ。目の前に居たドロシーの動きが分からなかった。こんなの勝てる勝てないの話ではない。その土俵にすら居られなかったのだ。
「今日何があったのさ!」
「それは……」
俺は今日あったことをサムにボツボツと話し始めたのだった。
「ふーん。で、それが理由で諦めるの?」
俺の話を聞いたサムの第一声はこれだった。
「諦めるってそれ以前の問題だろ」
「みんなドロシー様がグレンの勝てる相手じゃないって事くらい知ってるよ! それにドロシー様は手を抜きまくってるよ! 叡智の魔女と言われた人が一回も魔術を使ってないんだよ!」
そういえば自己紹介の時に全ての魔術をとか言ってたな……
「なら余計に勝てるわけが……」
「でも、僕はグレンに勝って欲しいんだよ! バグーの時もそうだったじゃん! 誰1人子供のグレンが大人のバグーに勝つなんて思ってもなかったよ! なのにグレンは馬鹿だから馬鹿みたいに修行して勝っただろ!」
サムは涙目になっている。
貶してるのか褒めてるのかどっちなんだよ。
「それにモニカのことはどうするの! 最強になって迎えに行くんでしょ! それからグレン冒険団で世界中を回るんでしょ! いつも馬鹿みたい言ってたじゃん!」
……そうだ。俺が諦めたらモニカはどうなるんだ? 凄そうな人達がモニカの周りにいるってドロシーは教えてくれた。でも、強い人がいたらモニカは無事なのか? 体は無事かもしれない。でも心の方は? ビビりで泣き虫なあいつが魔物と毎日戦って普通のままでいられるわけがない。それにあの時見た涙を俺は忘れることができない。
「グレンは馬鹿みたいに最強を目指してて欲しいんだよ! この馬鹿ぁ!!」
ついに泣き出してしまったサムに申し訳ない気持ちになるが馬鹿馬鹿言い過ぎじゃないか?
「ふー……悪かった! 心配させてごめん!」
頭を思い切り地面に叩きつける。おでこから温かく嫌な感触を感じるが今は無視だ。
「えっ、ちょっと……何してるの?」
「見て分かれよ! 謝罪だよ! それとついでに一瞬でも最強を諦めた馬鹿な自分を目覚めさせる為に頭に衝撃を与えたんだよ!」
「えぇ……血が出るくらい力を入れるのはやりすぎだと思うけど……」
やっぱ出てたのか……
「うるせー! 気にすんな! さっさとドロシーのとこに戻るぞ!」
「……うん!」
俺達はレオンおじさんの店に戻るのだった。




