最強を目指す少年
「488…499…500!!」
「……まだ特訓してたんだ」
日課である腕立て伏せをしているとそばかすと眼鏡が特徴的な茶髪の少年が呆れながら声をかけてきた。
「当たり前だろ! 俺は最強を目指してるんだ! 1日も休むことは許されないぜ!」
「……それは聞き飽きたよ」
そういうと茶髪の少年もといサムは人が座れるくらいのサイズの岩に腰を下ろして本を開いた。
「サムは本当に本が好きだよなぁ……つぅかここだと本読みづらいだろ」
今日の修行場所は洞窟だ。普段は外でしてるから読みやすいだろうけどここは薄暗い。
そんな状態で字が読めるのだろうか?
「読めてるから大丈夫だよ。それよりグレン、修行は終わりでいいの?」
「いいわけないだろ! 休憩中だっての! いくら最強を目指すとはいえ連続で筋トレしたら体がもたないって!」
「……それもそうだね」
「だろ? ってことで休憩終わり! 次は腹筋だな! 1、2、3……」
「1分も休んでないよね!?」
「8、9、10……」
サムの鋭いツッコミをスルーして俺は腹筋を続けるのだった。
「ねぇ、本当にまだ諦めてないの?」
修行の帰り道にサムが突然そんなことを言ってきた。
「ん? なにを?」
なんの話か分からずに聞き返してしまう。
「……モニカのこと」
「当たり前だろ! 勇者になろうがアイツはグレン冒険団のコックだからな! モニカより先に魔王ぶっ飛ばして俺とサムそれからモニカで世界中を冒険するんだ!」
モニカは俺が結成しているグレン冒険団のコックだ。
聖剣っていうのに選ばれて勇者なんて言われているが、冒険団の団員であることに変わりはない。
「でも、グレンよりモニカの方が強いじゃん」
「それはアイツが聖剣を持ってからだろ! それまでは追いかけっこでもチャンバラでも負けたことはなかった!」
「モニカが聖剣に選ばれてからは全敗だけどね」
思い出すのは苦い記憶だ。モニカが聖剣を手にしてからこの村にいた期間は短かかったが、勝負を挑んではその全てにおいて負けているのだ。
「うぅ、だから今こうして修行してんだろ! それに生涯戦績で言えば俺の方が上だしー」
「それは勇者になったモニカが王様に呼び出されたからでしょ。……もうモニカのことは忘れようよ。僕達よりずっと強いんだし、こんな田舎の村にいる僕達がどうにかできる話じゃないよ」
「うるせぇ! モニカは絶対に連れ戻す! 俺が成人して村を出たら真っ先に魔王を倒してやるんだ!」
「なんでそこまで……」
「……お前も見ただろ。アイツ、旅立つ日に1人で隠れて泣いてたんだよ。ビビリなのにみんなに笑顔で大丈夫って言ってさ。団員にそんな無理させられないだろ? だから俺が助けるんだ」
今でも昨日のように思い出せる。別れの日モニカは俺達に見つかると涙をかみ殺して笑顔を見せた。
あの時俺が強ければモニカがあんな辛そうな笑顔をする必要もなかったのだ。だから俺は勇者や魔王に負けないくらい強くなる必要があるんだ。
「……グレンは凄いよね」
「なにが?」
「んー……諦めないところ?」
サムは少し恥ずかしそうに答えた。
「まっ、俺はグレン冒険団の隊長だからな!」
「……それをいうなら団長じゃない?」
「まっ、そうともいうな! にしても腹減ったなぁ。今日もレオンおじさんの店に行くか!」
レオンおじさんはモニカのお父さんで俺が住むドンカーク村で唯一の酒場兼宿屋だ。
酒は飲めないが、行くといつも美味しいご飯を出してくれる。しかも何故かタダでだ。
「うーん。いつもタダでご飯出してもらうのも悪いよ。今日は大人しく帰らない?」
「むー……それを言われると確かにそうだな」
そんな話をしていると村へ着いてしまった。
「じゃあ今日は各自家でご飯を」
「おっ、グレン達じゃないか。また村の外へ出てたのか」
言いかけた時にこの村に住む青年ザックが声をかけてきた。
基本狭い村なので全員が顔見知りだ。
「ザック兄ちゃんこそこんな所でサボってんの?」
ザック兄ちゃんがこんな昼間から村の入り口にいるのはおかしい。
ザック兄ちゃんは採掘場で働いて生計を立てている。つまり普段ならこの時間は村の外に居るはずなのだ。
「まあそれはそうなんだけどな」
そういうと手をクイっとして近くにこいと合図を出した。
俺とサムは不思議に思いながらも近づいてみる。
「実は今王都から超大物がこの村に来てんだよ。その人を一目見たくて仕事をサボったって訳さ」
「超大物?」
「ああ、そうだ! 聞いて驚け! ドロシー・アンバー様がこんな辺鄙な村に来てるんだぜ! ちょっと前に俺もレオンさんの店にいたドロシー様を見てきたんだけど気品というかオーラというか、全てが俺達と違うって感じがしたなぁ」
ドロシーアンバー? 誰だそれ?
「えー!? それ本当なの!?」
サムは隣で驚いている。そんなに凄い人なのか?
「それ誰?」
「は? お前知らないの?」
「グレン、ドロシー様は凄い有名だよ! 本とかちゃんと読んでる!?」
2人から驚かれてしまった。というより、引いているみたいだ。
「あのなぁ、ドロシー様は……ってこれ以上サボってたら親父に怒られちまう。詳しい話はサムから聞いとけ! じゃあな!」
ザック兄ちゃんは忙しそうにその場から去ってしまった。
「んで、誰なのそれ」
気になった俺はザック兄ちゃんの背中から視線を外して質問した。
「ドロシー様といえば僕達が今よりも小さかった時に起きた魔族との戦争をたった1人で勝利に導いたとまで言われているんだよ。そしてその功績を讃えられて付けられた二つ名が……叡智の魔女」
「えっちな魔女?」
やばいどんなやつか想像がつかなくなってきた。服とか着てないのだろうか。
「叡智の魔女! 魔女しかあってないよ! そんなこと本人の前で言ったら殺されちゃうから絶対言わないでね! 何せドロシー様は人類最強とまで言われてるんだから……」
その言葉を聞いた俺の足は自然と動き出した。
「えっ、ちょっ、グレン? どこ行ってるの!?」
「人類最強がこんな近くにいるんだろ? なら俺が倒して俺が最強になってやる!」
そう答えると悲鳴のような叫び声が聞こえてきたけど、俺は止まらない。
レオンおじさんの店にいるってザック兄ちゃんは言ってたよな。……そこに行けば最強に会える!
「えっちな魔女!」
バンッと店の扉を開くと見慣れた店内と常連の顔が目に入る。そしてレオンおじさんを含めた全員が目を点にして俺を見ている。
その中で1席だけ異様な雰囲気だった。周りに人はおらずこの村では見かけたこともない金と銀の混ざった綺麗で長い髪の女の人がいた。
顔は見えない。が、確信はある。こんな髪の人村で見たことないのだ。ドロシーというのはこの人しかいないだろう。
「うん?」
振り返ったドロシーと目があった。見たこともないくらい綺麗な翠色の瞳に吸い込まれそうになる。
こいつが最強……
思わず疑いそうになる。顔や体、少なくとも見える場所には傷一つないのだ。
でも村の誰よりもいや、今まで出会った中で誰よりも強い。その風格と余裕オーラがある。
「おい、グレン何を言ってるんだ。叡智の魔女様に失礼なことを……」
レオンおじさんが驚いたように声を出した。それを皮切りにその場にいた全員が俺に注意し始めた。何故かドロシーに謝罪し始める人までいる。
「すみません。ドロシー様。グレンはバカなやつでして……」
「ああ、子供の言うことだ。私は気にしていないよ」
意に返していないのか俺から視線を外して笑顔で対応するドロシー。俺はその行動がとてもムカついた。
何故かと言うと俺は一目見てこいつを強いって分かったのにこいつは俺に何も感じていないと言うことだ。
「お前が最強だってんなら俺の一撃を止めてみやがれ!」
俺はできうる限りの力を足にこめてドロシーに向けて駆け出したのだった。




