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第3話 店舗に到着。従業員も待っていた。

「……ここが俺の店か」


 帝国の一等地。


 少し目を動かせば皇帝が住まう宮殿が見える位置であり、かなり広々とした空間になっている。


 大きな門をくぐる必要があり、それ以外はかなり頑丈な壁に囲まれているので、何かと『分けられている場所』だ。


 広々とした空間をある程度の数の高位貴族や大商人に用意しようとしているためか、一等地と言っても全体の広さはかなりの物。


 そんな場所の一角に、三階建ての新築が建っている。


「そうですね。午後五時でもうそろそろ暗くなってきますから。簡単な準備を済ませて、明日からの営業になります」

「それもそうか」


 店の看板すらない場所だ。

 流石にこれで店を開くのは……可能ではあるかもしれないが勇気が必要である。


 中に入った。


「すー……すー……zzz」


 十歳くらいで黒髪を伸ばした白いワンピース姿の女の子が、カウンターの上で酒瓶を抱いて寝ていた。


「……誰だ?」

「フィーテルさん。何やってるんですかねぇ」


 シズクはカウンターで寝ている幼女のところに歩いていく。


「フィーテルさん。起きてください。先生が来ましたよ」

「zzz……ううーん。二週間後じゃなかったかのう?」


 目をゴシゴシとこすりながら、女の子がシズクに反応する。


「先生に常識を求めないでください」

「そういえばそんなことを言ってたような……で、おぬしがリクナじゃな?」


 幼く、ぱっちりとした目でリクナを見る少女。

 どうやらフィーテルと言うらしい。


「とりあえず初めましてじゃな。ワシはフィーテルという。この店で働くことになったから、よろしくなのじゃ」

「彼女にはこの店の守衛を務めてもらうことになっています」

「はぁ……」


 守れるのだろうか。という視線を、リクナは向けて『いない』様子。


「錬金術に関しては俺の方が上だろうけど、『魔法全般』で見ればとんでもないな。どうやって引っ張ってきたんだ?」

「何で見ただけで分かるんです?」

「鑑定スキルが阻害されてて見えにくいからな。錬金術ってとにかく『物体』を扱うから鍛えてるんだが……『肝心な部分』がほぼ見えない」

「先生が『鍛えている』スキルで見えない……なるほど」

「まあ、そういうわけじゃから、この店を守るのはワシに任せるのじゃ。あと、たまにいい酒を用意してほしいのう」

「……ワインセラー型のマジックアイテムなら、錬金素材の『現地調達』で時々見るんだがなぁ」

「ほう、『超長期保存用』じゃろうな。何かいい感じの瓶に入ったものはあったかのう?」

「『聖杯歴1720年』物の『青き竜の涙』なら」

「300年前に作られた世界十大名酒ではないか! どこにあるんじゃ!?」


 興奮するフィーテルを尻目に、リクナは持っている鞄からメモ帳を取り出して紙を一枚とると、指を鳴らして文字を記載する。


「そんなサラっと『念筆』スキルを使わないでくださいよ。結構難しいんですよそのスキル」

「知らんな」


 書いたメモを指で弾く。

 それをフィーテルは受け取って内容を確認。


「ほう、ここか。なかなか盲点じゃった。ちょっと行ってくるからの!」


 そういって、フィーテルは視界から消えるレベルの加速と空気制御で店内から出ていった。


「……酒好きのロリババアか。で、どうやって引っ張ってきたんだ?」

「フィーテルさん側から寄ってきました。まあ、何かと凄い人ではあるので。皇帝陛下も断れなかったでしょうね」

「そうか……まあ、いいか」


 皇帝陛下ですら断り切れない相手ともなれば、『権威』と言う意味でも、この店を守れるだろう。


 そんな考えが浮かんで、リクナはとりあえず納得した。


 とはいえ……初見で誤解を招く人であることに間違いはないが。


「むっはー! 掃除が終わったです~~~っ!」


 二階に続く階段の上から元気な声が聞こえた。


 リクナが振り向くと……そこには、緑色の髪を腰まで伸ばしている、小っちゃい身長で元気いっぱいの表情をした少女が階段の上に立っていた。


「カメリア。お久しぶり」

「あ、シズクさんです~~~っ!」


 階段を速攻で降りてきて、シズクに抱き着く。


 おそらくシズクよりも大きいであろう胸を押しつけつつ、『えへへ~♪』と抱きしめている。


「フフッ、カメリア。こちらがリクナ先生ですよ」

「むっ! 店長さんですね! むっふっふ~! 私はカメリアって言います!」

「彼女には売り子を任せます。まあ基本、どんな相手でも物怖(ものお)じしない子なので、大丈夫かと」

「なんか、『豊穣国』の大精霊の匂いが漂ってるけど……まあいいか」


 フィーテルには通用しなかったが、それでも、これほどの店を開けるリクナの観察眼は相当な物。


 その影響で、カメリアが宿している『何か』に気が付いたようだが……。


「……で、スタッフは以上か?」

「そうですね。店長の先生と、会計と管理の私、守衛のフィーテルさんと、売り子のカメリアの四人です」

「そうか」


 とりあえず状況が分かったのか、リクナは頷いた。


 そしてシズクを見る。


「なあシズク」

「……何か足りないものが?」

「いや、フィーテルとカメリア見てて思ったんだけど……ツッコミ役はシズクに任せていいのかな」

「嫌に決まってるじゃないですか」


 シズクから即答されたリクナ。


 まあ、このメンツだと、多分シズク以外の三人は『ボケ』か『馬鹿』を担当することになるので、必然的に『常識的』であるシズクがツッコミを入れる必要があるだろう。


 ただ、捌き切るのがちょっとめんどくさそうではある。


「馬鹿なこと言ってないで、準備しますよ。先生」

「むはは~! 明日から開店ですね! 店の名前はまだ聞いてないんですけど、何にするんですか?」

「うーん……そうだなぁ」


 目を閉じて考えるリクナ。


「……『素材屋エースライト』ってのはどうだ?」

「どんな意味が?」

「最も優れた光。この店で買った物を使えば、凄い奴に、光を浴びる奴になれるって意味だ」

「おお、なんかいいですね!」

「パッと出てきた名前だけどな」

「パッと考えたにしては良い名前ですね。というか考えてなかったんですか?」

「てっきりもうすでに決まってると思ってたから全然考えてなかった」

「むー……店長っておバカさんなんですね!」

「なんでだろう。カメリアには言われたくない」


 店名が決まった。


 そこからは、世間話も同然のよくわからない話に発展する。


 とはいえ、初対面なのだからそんなものか。


「そういえば、フィーテルさんはどこに行ったんですか?」

「酒の在りかを教えたらすっ飛んでいった」

「む、そんなにいいお酒なんですか!? 私も飲みたいです!」

「カメリアってお酒飲めるの?」

「私は十八歳ですよ!」

「「年上!?」」


 リクナとシズクは十七歳。

 カメリアが十八歳なら、彼女は年上である。

 ……フィーテルは知らん。


 ちなみに、帝国では十六歳からお酒が飲めます。


「時々、フィーテルさんがお酒を持ってきて、私も一緒に飲みますよ!」

「へぇ……」

「大体フィーテルさんが先に寝るので、私がベッドまで運んでますね!」


 この子の方が強いのだろうか。


 ……まあ、なんか強そうだが(謎)。


「俺にはツッコミ役として力不足だろ。シズク、頼んだ」

「……はぁ」


 溜息を吐くシズク。


 ……マードックのことを苦労人呼ばわりしていたが、リクナと一緒にいる時点で、彼女自身も変人慣れしているし、苦労人の資質があるということだ。


 地獄のような話である。


「……ただ、明日から開店となると、素材をどうにかする必要があるな。一時間で調達してくるから、シズクが主導で内装を整えてくれ」

「わかりました。必要な棚や機材は全てあらかじめそろえて倉庫に入れてありますから、カメリアに頑張って出してもらいましょう」

「むっふっふ。頑張りますよ! むっはー!」


 というわけで、『素材屋エースライト』開店に向けて、準備を始めていく。


 ……というか、本来の予定より二週間も到着が速くなって、普通に『営業』って始められるのだろうか……まあ、出来るんだろうね。メンツのスペックだけは高そうだし、うん。

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