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第2話 帝国で開業届を出す。見せておく実力の自重はしない。

「ここが帝都の商業ギルドの本部……アーガリア王国と比べて凄いな」

「王国の本部は三階建てですが、こちらは八階建てですからね。敷地面積も三倍以上です。ここを行き交う『物』の量はともかく、契約によって動く『未来の金の量』はすさまじいことになっているそうです」


 アーガリア王国の隣国であるソルロード帝国。


 その中枢と言える帝都の敷地に巨大な建物が建設されており、リクナもう一人、スーツを着た少女がが見上げている。

 アルカイックスマイルを浮かべているやや幼い顔立ちで、黒髪のショートボブ。

 シャツのボタンを二つ開けて、Dはありそうな胸を少し晒している。


「で、シズク。まずここに来るって話だったけど、どういう用件なんだ?」

「店を開くのには許可と、それを成文化した『書類』が必要なんですよ」

「ほう……ここに来る馬車の中で、シズクが帝国側と交渉したって言ってたよな。そこで書類は纏められなかったのか?」

「帝国側が現地で確認したいことがあるそうで……とりあえず入りましょう」


 シズクが話を中断させて、建物の中に入っていく。


 カウンターがいくつも並び、かなり順番待ちが多いのか、整理券を手に書類を確認しているものもいる。

 ……とはいえ、誰の目に触れるのかわからないロビーであり、見ている書類そのものの重要度は中途半端な物だろうが。


「商業ギルドっていうけど、凄い規模だな」

「帝国の年間の所得の総合計は、王国の百倍みたいですし、まだ落ち着いている方では?」

「裏側から怒鳴り声が聞こえるけど」

「それは先生の耳が聞こえすぎるだけです。というより、防音性が高い壁なのになぜ聞こえるのか……」


 そんな話をしつつ、ギルド内のカウンターの中でも、つかわれている用具の質と外見がかなり高そうな場所に、シズクが歩いていく。


「なんでこんなカウンターが?」

「大商会や貴族を相手にするためですね」


 そういいつつ、シズクは封筒といくつかのカードを取り出してカウンターに置いた。


「新しく素材屋を開業する者です。上につないでもらえますか?」


 そういって見せたカードを職員の女性は確認し……少し『不思議そう』と言える表情をしたが、直ぐに表情を戻した。


「少々お待ちください。すぐにギルド長に報告します」


 そういって、職員は奥に走っていった。


「……なんか不思議って感じの表情だったぞ」

「予定よりも移動時間が二週間縮めば誰だってそうなります」

「……あと、階段使わずの奥に行ったな。こういう時、ギルド長って最上階にいるもんじゃないのか?」

「階段で八階に上がるのなんて怠いだけですし、低い場所に執務室を作ってるだけかと、こういう時にすぐに対応できますし」

「そんなもんか?」

「そんなものです」


 そんなことを話していると、スタッフ側の通路から一人の青年が来る。

 金髪を短く切りそろえており、高そうなスーツをしっかり着こなしている。


 鞄を手にこちらに歩いてきた。


「リクナ様。シズク様。お待たせしました」

「……ギルド長?」

「あ、いえ。私はマードック・ハイヴェインと言います。今回リクナ様が開く素材屋の担当官です」

「へぇ……」

「こう見えてハイヴェイン公爵家の次男ですよ」

「大貴族じゃないか」

「そして苦労人です」

「「……」」


 シズクが言ったあんまりな表現にリクナとマードックは頬をひきつらせたが、直ぐに表情は戻った。


「と、とにかく、部屋を用意していますので、まずは移動しましょう」


 マードックが先導する形で、リクナとシズクもついていく。


「……今更なんだけどさ。俺らってタメ口で大丈夫か?」

「本当に今さらですねぇ。まあ問題ありませんよ? 『皇帝認可特別商会』の候補ですし」

「なんだそれ」

「皇帝陛下から認められた『特別な地位の商会』であり、陛下自らが、この商会、ひいては商会長である先生に『高い権威を保証する』ということです」

「どれくらい高いんだ?」

「陛下の一つ下。すでに次期皇帝と決まっている皇太子殿下よりも上で、陛下以外のありとあらゆる権威と権力からとやかくいわれません」

「凄いな」

「まあ、皇帝陛下が、先生を何らかのプロジェクトに噛ませたいということだと思いますが」

「なら宮廷錬金術師にすればよかったのに」

「先生を上司にしたいなんて物好きはそうそういませんよ」

「シズクはどうなんだ?」

「私は物好きなだけです」

「あっそ」


 情報は出てはいるがあまり有益なことはない会話が続き、マードックが頬をひきつらせながらも先導している。


 確かに彼には苦労人の素質があるかもしれない。


 そこからも移動して、地下にある一つの部屋に到着した。


「ここで正式な書類を作成しますので、どうぞ」


 ドアを開けて、二人が中に入ると、マードックも入ってくる。


 リクナとシズクを上座に座らせて、マードックは下座に自ら座った。


「まず、これらの書類にサインを入れていただく必要があります」


 三つの書類を出した。


 それぞれ、『帝都一等地利用届』『帝都開業届』『皇帝認可特別商会証書発行届』となっている。


 まあ、意味としてはそのままだろう。


「……帝国の一等地で、特別な認可された商会を経営するための法的根拠みたいなもんか?」

「まあそんなものですね……事前の交渉から内容は変わっていませんね。このままサインしましょう」

「だな。変な偽造魔法もかかってるが、まあ別に気にするほどでもない」

「……え、どこですか?」


 リクナの呟きにシズクは首をかしげる。

 マードックも困惑しているようだ。


「事前の説明だと、陛下からしかとやかく言われないって話だけど、このままだと第一皇女からもとやかく言われそうだが、陛下が抑えるだろうから問題ないって話だ」


 指をパチンと鳴らすと、書類の一部分にモヤが出現し、それが砕け散った。


 認定証書を発行するための書類の一番下に、『割り込ませている』ようだった。

 そこには新しい一文は刻まれており、邪魔されない相手に陛下以外の名前、『エリザ・ソルロード』が記載されている。


「ま、全く気が付かなかった……」

「確かに皇女様ですね。帝国の中でも百年に一人の天才とされる腕前、見事。まあこんなものは消してしまいましょう」


 シズクが遠慮なく近くのペンを取り出して線を引くと、一文が消えた。


「あとは、ここにサインを書いたら、『契約魔法』が発動して、この紙は高い保護機能が発揮される。ということだな?」

「は、はい……」


 雰囲気に呑まれつつあるマードック。


「で、さっきシズクは『候補』って言ったよな。あれってなんだ?」

「現地で確認したいことがあるそうで……ああ、とりあえずそれを確認しましょう」

「マードックが錬金術師として高い素質を持ってるから彼が判定するのか?」

「……私、先生に言いましたか? 彼が錬金術師だと」

「いや、ただ、錬金術……と、剣術に特化した魔法制御か? それらに関することは、実力を隠してる状態のシズクよりも上なのはわかったから、多分優秀なんだろうなーと」

「……なんとなく、リクナ様のことが分かってきました」

「まあ、先生はこういう人なので……」

「遊びで自分の心臓を弄ってたら緊張しなくなっただけだぞ」

「……」

「後で胃薬渡そうか?」

「……シズク様。リクナ様のこれは確信犯ですか?」

「いえ、おそらく天然です」

「……わかりました。私も腹をくくりましょう」


 溜息をつくマードック。

 彼には苦労人の才能がある。


「さて、判定なのですが、隣の部屋に鉄鉱石を大量に置いています。これらを使って……」


 リクナはマードックが話を終えるよりも早く、隣の部屋に視線を向けた。


「……」

「……」

「すみません。見に行っても?」

「構わんぞ」


 マードックは隣の部屋に入っていった。


 そしてすぐに戻ってきた。


「はぁ……一トンに及ぶ鉱石が、全て私が知る限りの最高品質になっていました。正直脱帽ですよ」

「優秀な人間が判定員だと話が速いな」

「嫌味か」


 素が出るマードックだが、多分リクナは『そういう口の利き方』に対して執着はないだろうし、ここまで好き勝手されてはマードックだって言いたいことはいろいろ出てくる。


 最も、自分にこの役を押し付けた実家の人間と皇帝陛下に対しての文句なので、苦労人である彼の口から出ることはないだろうが。


「……とにかく、私の名前で、『実力は十分すぎてあとはもう知らん』と報告書を書いておきます」

「それでいいと私も思いますよ。フフッ、頑張ってくださいね」

「……憂鬱だ」


 結局、リクナが全てを振り回して、書類の作成は完了した。

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