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溺愛してくる領主様は前世の宿敵でした  作者: 二階堂まりい


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第7話 破滅への序曲

「グラーリド・リンドートとかいう奴!

 なんなのだあいつは!」

 ラケルで用意された居館に帰り着くなり、ルトレフは不満を叫んだ。


「グラーリド様は王家の中でも代々古参の将軍家だそうです。

 ご先祖は騎士から身を起こされて……」

 ルトレフ不在の間に情報収集をしていたのか、マッティが説明してくれる。


 それを聞いて、ルトレフは唇を尖らせた。

「ほお、だから新参外様の俺に失礼な態度をとっても許されると思い上がっていたのだな」

「まあまあ、落ち着いて。

 グラーリド様は有能で鳴らしているお方ですが、失言の一度や二度ございましょう。

 これから長く付き合って行く同輩なんですし、ここはルトレフ様がご寛大になられては」

「むう……」


「それより、リーフ様がこちらに来られるそうですよ」

「リーフ様が? 何故?」

「紹介された貴族と結婚なさるとか」

「へえ……」

 政略結婚なのは分かりきっていた。

 それでリーフとガスタフの人生が良くなるなら良いが……と、ルトレフは心配になる。



「リーフ様以外にもラケルの貴族と結婚するエイカ人が多いようですね。

 結婚以外にも、ラケルで新しい漁を試さないかと誘われて移住してくるエイカ人は多いとか。ゲッタ様とか」

「ゲッタ様まで?」

 ゲッタと言えば、エイカの合議制自治の一角を成していた有力商人だ。

 そんな彼まで王都に招かれて移住していたとは。



「経緯は強引であったが、エイカ人もラケル人も仲良く出来るのが理想なのだろうな……。

 俺も腹を括らねばなるまい」


 

 その時は、マッティの言う通り、今度グラーリドと会ったら対話しようと思った。



 しかし大陸侵攻という出来事は、ルトレフとグラーリド二人の運命の歯車を狂わせていく。



 普通の会話をする間も無く、二人は大陸侵攻のための会議にてまみえることとなった。



「遠回りしてでも大陸の諸公を味方につけ、あちらの王に神器の明け渡しを迫ろう。

 それが最も血を流さずに住む方法だ」

 そう言ったグラーリドに、ルトレフは反論する。

「敵は人間だけではない。魔物の襲撃だって予想される。

 兵を消耗させないためにも最短距離で王家に乗り込むべきだ」


 グラーリドとルトレフは睨み合った。


「調略した諸公を含む大軍で王に圧をかければ良い」

「その諸公を調略するためにどれだけの血が流れると思っている?

 避けて通れる砦は避けるべきだ」

「昨今の情勢だと大陸の諸公は弱体化している。

 軽く脅すだけで恭順するだろう」


 グラーリドの眼はルトレフを見下ろしていた。

 ルトレフは眉根を寄せる。

「エイカのように、と言いたいのか?」

「そんなことは言っていない」

「ふん。とにかくグラーリド殿は、弱って後がない奴らが死に物狂いで向かってくる強さを知らない」


 モンスターに海賊、その手の類をエイカの貿易商人はいくらでも見ている。


 すると、グラーリドが言った。

「エイカは向かってこなかったくせに」


 奥歯を噛み締めながら、ルトレフは答える。

 正直、痛いところを突かれたと思った。

「損得勘定をしたからだ。戦争するよりも、ネツァーリク様についた方が人も金も守れると考えたのでな」

 それは半分本当で、半分は恐怖に屈したからであった。

 グラーリドはきっと誰よりも、ルトレフの本音を見抜いている。


 するとグラーリドがため息混じりに言った。

「腐れ商人が」

 あまりもの図星についカッとなり、ルトレフはそれに応戦する。

「侮辱するか!」

「おう!」

「よーし、決闘だ決闘!」



 思わず剣の柄に手がかかったルトレフとグラーリドを、トーキが制止した。

「その辺になさってください!」



 数秒睨み合ってから、二人とも剣から手を離した。

「トーキに免じて黙ってやる。

 しかし、俺の考えは変わらんぞ。

 どうやら大陸の諸公たちは騎士のように忠義を重んじる連中だ、死を覚悟すると本当に怖いぞ。

 俺たちのような商人とは違ってな」

 ルトレフは皮肉混じりに言った。


「そいつらを調略して束ねるのが我々の仕事だろうが。

 任せておけ、私には実績がある」

 グラーリドがそう言うと、部屋の隅で縮こまった将軍が数名居た。

 彼らこそ、グラーリドの調略を受けてここに居る者たちなのだろう。


 意見の合わないグラーリドに、再びルトレフの苛立ちが募ってくる。

「お前は人を帳簿の数でしか見ていないのか!

 騎士様は帳簿に弱いと聞いていたがな」

「何を!? 商人風情こそ腰抜けのくせして功を焦って正面突破する気か!」


 結局、その日の会議はルトレフとグラーリドのせいでまとまらなかった。



「はあ~……誰かとあんなに激論を交わしたのは初めてだ。 疲れるのなんの」

 屋敷に帰ったルトレフが机に突っ伏して呻くと、マッティは笑った。

「ルトレフ様と同じレベルで議論が出来るお相手なんて貴重です。

 グラーリド様と意見は合わなくても、気は合うのでは?」

「馬鹿言え!」


 ムカつくからなのかなんなのか、グラーリドの真剣な顔が、理知的な声が、頭から離れてくれない。

 ルトレフは小声で奇声を発しながら、黒髪を掻きむしった。





「ルトレフ、我のことを恨んでおるか」

 謁見の間にルトレフを呼びつけたネツァーリクが、そんな意外なことを言った。


「いえ、滅相もございません……」

 勿論、嘘だった。

 合議制自治というエイカの誇りを奪ったネツァーリクには恨みばかりだ。



「我はな、神器を手に入れたあかつきにはオルエルン王家の永遠の栄華を望むつもりだ。

 強大な王家の庇護の元に天下を統一し、争いの生まれない世を作る。

 そのためには我は悪ともなろう。

 だが、なるべく血は流したくない。

 だからエイカのことも武力を見せつけて仲間に引き入れるほかなかった」

 ネツァーリクは言う。


 確かに一滴の血も流れてはいない。

 少なくともエイカでは、だが。


 ラケルの武力の名声が高まった影には何万人もの血の跡がこびりついているのだが、ネツァーリクにとってはそれは必要な犠牲だったのだろう。

 ルトレフがネツァーリクの立場でも、そうした気がする。


「そう、だったのですね……」

「大陸の人々についても、なるべく血は流したくないと思っている。

 ルトレフとグラーリド、どちらの案を取るかは任せよう。

 しかし期待しているぞ」

「しかとお応えいたします」


 そうは言ったものの、ルトレフはネツァーリクに共感も感謝も出来ずにいた。




 数年後。

 王都から多くの有力な将軍が消えた日があった。

 大きな領地で農民が反乱し、その鎮圧に向かったのだという。

 グラーリドも、王都には居なかった。



「ラケルで神器が発見された!?」

 そんな折にマッティから知らされたのが、その知らせだった。

「はい。しかもネツァーリク様は前代未聞の、永遠の栄華という願いを叶えられたそうなのです」

「情報は確かか?」

「はい。トーキ様から聞いたので」

「ではネツァーリク様に祝賀を申し上げねば」


 平和な世が訪れること自体はめでたい。

 何より、国内で神器が発見された上に願いが聞き届けられたということは、大陸に侵攻する理由は無くなる。



 しかし同時に、きな臭さもあった。

「マッティ……大きな領地で農民が反乱したという件について調べてほしい」




 

 ルトレフは王都に残った将軍らを集め、ネツァーリクに謁見した。

 しかし祝賀を述べる前から、ネツァーリクの機嫌は悪かった。


 将軍たちは何も言えず、謁見の間に跪いたまま固まる。

「……貴様らの領地で信仰する神は何だったかな」

 ふいにネツァーリクがたずねてきた。


「はい。我らエイカ人は自然を信仰しております」

 ルトレフが口を開いたのを皮切りに、各々が信仰するものを挙げていく。

 今ここに居るのは、王都から離れた場所から連れて来られた外様の将軍ばかり。

 皆、王都とは異なる神を信仰していた。



 すると突如として、ネツァーリクは椅子の肘置きを激しく叩いた。

「国教はハルビッヒ・オルエルンを最高神とするラケル正教と決まっておる!

 それを何だ、海だの木だのを崇めおって!

 この野蛮人どもが!」



 何を言われたか一瞬では理解出来ず、ルトレフたちは言葉を返せなかった。

「あ、あの、国教があるなんて初耳でした。

 制定されたのはいつなのですか」

 やっとのことで、一人が口を開いた。


 ネツァーリクはせせら笑う。

「一昨日に決まっておるだろう。

 追って沙汰を告げる。

 屋敷に籠って待っておれ、野蛮人どもめ!」



『ああ、俺はネツァーリクに裏切られたのだ』



 ルトレフが王都にある屋敷に居ると、マッティが部屋に駆け込んできた。

「大変です! 戻ってきた密使が伝えるところによると……有力な将軍たちは農民の反乱に向かってなどいなかった!

 先んじてエイカなどの外様の領地へ攻め込んでいました!」


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