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溺愛してくる領主様は前世の宿敵でした  作者: 二階堂まりい


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4話 前世の記憶

「ジェミール様、なんか面白い話は無いですか?」

 私室で政務をこなすジェミールが少し休憩している間、ルリウスはうっとうしく絡んでみた。


 これも嫌われ作戦の一環だ。


 するとジェミールは少し考えてから話し始めた。

「先日スヴェン様から神器を借りたが、そもそも神器とは何かちゃんと知らない民も多い。

 神器とは、この世にある物質が突然変異を遂げて、人の願いを叶えるようになったものだ」



 なんかこいつ社会の話を始めたぞ!? とルリウスは内心驚愕した。

 面白い話をしろと振られてするのがそれとは、ジェミールはつくづく退屈な……ある意味面白い人間だ。



「神器の存在は巫女によって預言される。

 預言の儀式を行う神殿と、神器の出現箇所にはある程度の近さが必要だ。

 だから神器の出現を見逃さぬよう、国中に神殿がある」



 巫女……「ルトレフ」の母も巫女であったなと、ルリウスは思いを馳せる。

 母はルトレフの死後、どう過ごしたのだろうか。

 穏やかに生きたことを願いたいが、きっと史書はそれを語らない。



「スヴェン様もおっしゃっていたが、神器は全ての願いを叶えられる道具ではない。

 特に歴史を変える願いや、害意のある願いはほとんど叶わないというルールがある」


 ほとんど。

 それはつまり、例外が一部あるということだ。



「歴史を変える願いが叶ったのは、王家オルエルンが神器「オルテミア」を手に入れた時だけだ。

 二百年前、当時の王ネツァーリク様はオルテミアにこう願った」


 ネツァーリク……ルトレフとグラーリドの主君であった人だ。

 そしてルトレフを切り捨て、死に追いやった人。



「オルエルン家が永遠の栄華を手にしますようにと。

 すると神器は見たこともないような光を放ち、その願いは叶ったという。

 事実、この国はほうぼうの大陸から攻め込まれても退けてきたからな」



 ジェミールはちらりとルリウスを見る。

「どうだろう、面白かっただろうか」

「うーん、よく分かりませんでした!」

 てへっ、と満面の笑みで返すルリウスは、ルリウス本人から見ても心底うっとうしかった。


「そうか。ではこれからは少しずつルリウスに歴史を教えるとしよう」

 ジェミールは淡々と言った。


 ルリウスの「よく分かんなかった」にジェミールは怒らなかった。

 それどころか、教え導くことを勝手に決めたようだった。


『何でそうなる!?

 そのうちルトレフ将軍の話が出てきて歴史的評価がボロクソだったら、どんな顔すれば良いんだよ!』



 しかしジェミールは、無知を装うルリウスを見捨てなかった。

『こういう所で、嫌いになれない部分を出してくるなよな……』

 ルリウスが思い出すのは、出会った日に交わした口付けと、ジェミールが発した「運命」という言葉だった。




 城の中庭でジェミールが木剣を持ち、師匠と打ち合いをしている。

 ジェミールの剣筋はブレがなく静かな剣だ。

 ヒット・アンド・アウェイで敵に攻めかかる足さばき。


『平和な時代になったもんだなあ……』

 庭の端に控えながら、ルリウスは思う。

 乱戦の中では同じ方向を向いたまま進んだり退がったりしている暇は無い。

 ジェミールの前世である「グラーリド」は、こんな上品な戦い方はしなかった。




「ルリウス、水を頼む」

 休憩のためにジェミールが呼んだ。

 その時、ルリウスは新たな作戦を閃く。


「ジェミール様。

 私もジェミール様を守るために強くなりたいです。

 お手合わせ願えますか?」

「ああ、良いだろう」


「ルリウス様はお強いですよ?

 まずは手加減した私から始めませんか?」

 師匠が忠告してくる。

 しかしルリウスより早く、ジェミールがそれを断った。

「いや、恋人には手取り足取り教えたいのでな」

 それを聞いた師匠は、面白がって口笛を吹いた。



 恋人、と口に出して言われたのは初めてだ。

 少し嬉しくなってしまった自分が悔しい。


 本来の目的——ジェミールを負かして恥をかかせ、嫌われる作戦を忘れてはならない!




 休憩の後、ジェミールとルリウスは木剣を手に向かい合う。

 ジェミールの構えに対して、ルリウスの構えは剣先が小刻みに揺れていた。


「全くの素人のようですが、大丈夫ですか?」

 師匠が心配しているが、ルリウスはうなずいた。

「やる気あります!」

「そ、そうですか。では、はじめ!」


 師匠の合図と同時に、ジェミールが容赦なくルリウスに斬りかかる。

 風を切る音まで聞こえる、素早い剣だ。


 しかしルリウスの振るう剣も、素早くそれを受け止めた。

「おおっ」

 師匠が感嘆するのが聞こえる。



 ジェミールが退がった瞬間、ルリウスの剣が流れるようにジェミールの手元に降ってくる。

 そこからはルリウスが先手を打ち続けた。


「何だ!? めちゃくちゃな打ち方に見えて的確……」

 師匠が驚いている。

 ジェミールも息を呑んでいるようだった。



 ルリウス、いや「ルトレフ」や「グラーリド」たち昔の人々の剣術は、戦場での乱戦を前提としたものだ。

 だから退くことなく、四方八方に気を配りながらも攻めかかる。


 さらに言えば「ルトレフ」は対人だけでなく、海で魔蛸(クラーケン)相手に戦っていたこともある強者だ。

 魔蛸は人間よりも得物が多いので、流れるように攻めかからねば倒せない。

 なのでこれはルトレフ、ひいては今のルリウスが得意とする戦い方であった。



「実力が拮抗している……」

 なかなか決着がつかないところを見て、師匠が呟いた。

 その時、やっとジェミールに疲れが見えた。


 ルリウスは全く疲れていない。

 素人のように剣がぶれていたのは、実は筋肉に余計な力を入れずに疲れを溜めないための作戦だったのだ。



『とどめ!』

 ルリウスはジェミールの胸元に、こつんと木剣の先を当てた。


「勝負あり……!」

 師匠が震える声で言う。


「ルリウス、き、君は……」

 ジェミールの声も揺らいでいる。



『恥をかかされたことで俺を嫌いになったか?』

 ルリウスが次の言葉を待っていると、ジェミールはルリウスの手を握ってきた。


「素晴らしい……!

 侍従としても恋人としても誇らしい存在だ!」


『まさか、喜ばれている?』

 予想外の反応に、ルリウスの顔は引きつった。



「でもどうしてだろう……君にだけは負けたくないと思ってしまう……」

 ジェミールの言葉に、ルリウスの心臓が跳ねた。

 まさか、剣をぶつけ合ううちにジェミールにも前世の記憶が甦ったのか?

 何故なら前世で「ルトレフ」と「グラーリド」は剣をぶつけ合い、その果てにルトレフが戦死したのだから。



 緊張感で黙り込んだルリウスの前で、ジェミールはふっと笑った。

「格好悪いところを見せたくないからかな」

 とりあえず前世の記憶は甦っていないらしい。


「い、いえ、格好悪いなんて思いません。

 私めのめちゃくちゃな剣を受け止めていただき、ありがとうございます」

 ルリウスが頭を下げると、ジェミールはその頭をそっと撫でた。



「師匠、ルリウスに負けないようにもっと鍛えてほしいです。

 それに、ルリウスの強さをもっと伸ばす方法が知りたい」

「わ、分かりました……! どうにか考えます!」

 ジェミールが師匠に無茶振りをしている。



 撫でられた余韻の残る頭を掻きながら、ルリウスはまた嫌われ作戦が失敗したことに軽く落ち込むのだった。

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