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溺愛してくる領主様は前世の宿敵でした  作者: 二階堂まりい


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10話 嫌われた?

「何だか最近、ジェミール様が暗くないですか」

 ルリウスが言うと、イオはぎくりと肩を弾ませた。

「そ、そうかな?

 元々冷静沈着って感じのお方だし、明るいか暗いかで言ったら暗く見えちゃうのも仕方ないかもじゃん」

 多弁になって誤魔化すイオに、ルリウスは確信した。

 ルリウス以外は、ジェミールに覇気が無い理由を知っている。


 解雇されて処刑ルート回避が叶うのは嬉しいが、理由が分からないままというのもモヤモヤする。



 恐らく、ジェミールに近しい者は皆口止めされている。

 かといってメイドや庭師のようにジェミールから遠い者が事情を知っているとは思えない。



 かくなる上は、とルリウスはある人物の元に足を運んだ。



 彼が居たのは城の一室であった。

 そこではジェミールの甥のオセラムが、今は一人でぬいぐるみと遊んでいる。

 そしてルリウスが目星をつけた人物こそオセラムだった。



 まずルリウスはオセラムの側にそっと跪く。

「こんにちは、オセラム様」

「こんにちは!」

 2歳のオセラムは、辿々しくも元気に挨拶してくれる。


「ジェミール叔父様が元気ない理由、知らない?」

「んー。『だいじ』、壊したんじゃない?」

 オセラムの返答に、ルリウスは苦笑した。



「オセラム様ってばお若いのに、大事なものを壊した悲しみが分かるんですね」

「? ぼくは分かんないよ」

「え……?」



 ジェミールとは別方向に不思議な方だ……と思いつつ、しばらくオセラムとかけっこをしてから退室した。



 結局手がかりは無しだ。

 ジェミールに直接問いただすのも有りかもしれない。

 そう考えつつ次の会合で使う書類を棚から出していると、書類の隙間から何なら紙が舞い落ちてきた。


 スケッチだ。

 それも、美しい女の肖像。



 頭を殴られたような衝撃がルリウスを襲った。

『いやいや、これで良いんだ! 確かに俺はジェミールに惹かれている……でも前世のことを考えたら、別れなくちゃいけないんだから……』


 振られなくてはいけない。

 なのにそれが怖くて、先延ばししてしまいたくなる。

 その日とうとうルリウスは、ジェミールに問いただすことが出来なかった。




「ええと、今日はマイザへご出立の日ですね」

 マイザは、以前訪れたフォグリよりもさらに南にある土地だ。


「うむ……戻れるのは三日後か四日後くらいだろうな」

 外出の用事を確認し合いながら、二人は天守を出て馬に乗る。

 今回は二人旅であった。

 城を出ると、冷夏なエイカにしても暗すぎる、どんよりとした灰色の雲が一面に広がった。


「雨用の外套は持っておりますので、ゆっくりと安全に参りましょう」

「ありがとう、ルリウス……」


 やはりジェミールの様子は変だった。



 一日かけてマイザの城に辿り着き、ルリウスは驚いた。

 会合の間に領主と共に現れた令嬢が、あのスケッチの人物その人だったからだ。

『もしやこれは、ジェミール様の本命!?

 俺を振るのが億劫で機嫌が悪かったか、俺を振るために冷たくしていたな!』


「お久しぶりです。遠路はるばるお越しいただきありがとう」

「お気遣いありがとうございます」

 女性と挨拶するジェミールの表情は、どことなく強張っている。

 やはり本命を前に緊張しているのだろう。



 ルリウスの胸が、締め上げられるように痛む。

 侍従として立っているのも嫌で、今すぐにでもここから逃げだしたくなった。




 女性の目線がルリウスに向いた。



「あら、侍従のお方が変わったのね。

 私はカリン・ヒェルツェン。

 マイザの領主、ゲイル・ヒェルツェンの娘です。よろしくね」

 カリンはなんとも清楚な女性だった。

 亜麻色の髪に、淡いイエローのドレスがよく似合っている。


「初めまして、カリン様。

 どうぞよろ——」

「申し訳ありません、カリン様! ゲイル様!」

 ルリウスの挨拶を遮る勢いで、ジェミールは二人に頭を下げた。


「ゲイル様からカリン様とのお見合いの話をいただいた頃にはもう、私はこのルリウスと交際していたのです。

 なので今回はお見合いを断りに来たのです……」


 しばらく間があって、ゲイルとカリンは笑い始めた。

「なんだ、そんなの書面で送ってくれたら良かったのに」

「わざわざ来てくれるなんて律儀ね!」

「当然のことをしたまでです……。

 お申し出に沿えず、本当に申し訳ございません」

 ジェミールは鎮痛な面持ちをしたままだ。


「じゃあ政略結婚の話は無かったことにして、これからも友達として仲良くしましょう。

 今日は泊まっていくでしょ? みんなで宴会よ!」

 カリンはにこやかに言う。

 空元気という訳ではなさそうだ。


 その間ずっと呆然としていたルリウスは、やっと口を開いた。

「ジェミール様がここ最近暗かったのってもしかして……カリン様とのお見合いをどう断るか考えていたからですか」

 ジェミールにだけ聞こえる声量で言う。


「そんなに暗かったか?

 でもまあ、そのことについて考え事をしていたのは事実だな」

 ジェミールの返答に、ルリウスは小さな溜め息を吐いてしまった。



 そして気付いていた。

 ジェミールとカリンが話しているのを目の当たりにした時の、あの感情。

 あれが嫉妬だということに。

 恋が無いところに嫉妬は生まれないということにも。



 さらに、ルリウスと交際しているとジェミールが言った瞬間、駆け出してジェミールに抱きつきたいほどに嬉しかったことにも。




『……もう、前世とか何とか考えるのはやめよう。

 万が一ジェミールがグラーリドだった時のことを思い出しても、俺はルリウスとして愛の言葉を伝える。

 そうすれば俺の愛しているジェミールは、分かってくれるはずだから。

 俺は前世のことなど忘れて、今を幸せに生きるんだ』





 一日マイザで歓待を受けてから、ジェミールとルリウスはエイカへの帰路に付いた。


 魔の森を通り、もう少しでエイカというところで、周囲の木々が揺れる。

 一斉に小鬼(ゴブリン)が飛び出してきた。

 犠牲となった者から奪ったのか、そこそこ上等な剣を手にして襲いかかってくる。



 驚いて暴れる馬から二人はひらりと下馬し、馬はその辺に繋いでおく。

 そして二人も剣を抜き、並んだ。



 先に突出していったのはジェミールだった。小鬼達は当然のようにそちらへ群がる。

 しかしジェミールは数匹を斬ると、するりと木立の陰に退いた。

 間合いの取り方が完璧で、小鬼たちの剣はひどく空振る。



 瞬間、ルリウスが小鬼の群れに突っ込んで行くと、ジェミールよりも大量の数を流れるように斬り捨てた。



 恐れをなした小鬼たちは、道をフォグリやマイザのある南の方へ逃げて行く。

 追いかけようとしたジェミールを、ルリウスが制止した。



「ジェミール様、深追いは良くありません」

「だが、このままでは道を通る民が……」

「危険に晒されるのはジェミール様も同じです。

 良いですか、弱って後が無い奴らが死に物狂いで向かってくるのが一番怖いんですよ。

 城に戻り、罠を取ってきましょう」



 その時、ジェミールは頭を抱えてうずくまった。

「っ……! 私は……俺は……!」

「ジェミール様!?」

「なあ、ルリウス……奇妙なことだが、その『死に物狂いが一番怖い』という言葉……昔、誰かに言われた気がするのだ。

 だが昔といっても、その頃の私は今と変わらない青年で……」


 まずい、ジェミールがグラーリドだった頃の記憶が初めて甦る兆候を見せた。



 その言葉、うっかり口にしてしまったが、「ルトレフ・ヴィオレツク」もグラーリドに言ったことがあった。

 大陸を攻める進路について話していた時のことだ。



「……その言葉、誰に言われたのですか」

 例え前世で殺し合った仲でも、今世でなら話せば分かる。

 微かな希望を胸に、ルリウスはたずねてみた。


「……分からない……。だが、恐ろしいことだが……私はそいつを殺せて良かったと安堵しているらしい」



 ジェミールの言葉を聞いたルリウスから、希望は失せる。

 王命で仕方なく殺したと言ってほしかったのかもしれない。

 殺せて良かった、だなんて聞きたくなかった。


「そう……ですか。

 小鬼狩りの手筈は私が進めますので、ジェミール様は城に帰ったら休まれた方が良いです……」

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