Last Case そして本編へ③完
【女神様視点】
訓練が終わったあと、私たちはハンバーガーショップに入った。
店の扉を開けた瞬間、油の香ばしい匂いがふわりと鼻をくすぐる。
鉄板の熱、ポテトの塩気、炭酸のはじける音。
人間の世界の食べ物は、いつだって騒がしい。
トレーを持って席に着き、紙に包まれたハンバーガーを開く。
温かい蒸気が頬に触れた。
ひとくち。
パンの柔らかさ。
肉の塩気。
ソースの甘さ。
「……おいしー」
思わず声が漏れる。
神としては、食事なんて必要ない。
食べなくても困らない。
栄養も、空腹も、関係ない。
それでも――
友人と一緒に食べる食事は、こんなにも美味しい。
「大袈裟だなぁ、凛ちゃん」
翠鳥が笑いながら言う。
「いや、こういうの久々でさ」
隣で頬杖をつく彼女の赤い髪が揺れる。
この子とは、なぜかすぐ打ち解けた。
距離の近い笑い方。
遠慮のない口調。
でも、不思議と心地いい。
「こんど、バレーの試合あるんだ。応援に来てよ」
「いいよー」
私はバレー部に入っている。
体を動かすのは好きだ。
この学校は強豪ではないけれど、
実力があれば普通に試合に出られる。
それに――
鉄平とソフトバレーでラリーしていた時間を思い出す。
反省会の空間。
漫才みたいなやり取り。
あの、少しだけ楽しい時間。
胸の奥が、ほんの少し温かくなる。
そして、土曜日。
体育館の床が、ワックスの匂いを放っている。
観客席のざわめき。
靴底が床を擦る音。
応援席には三人。
鉄平。
翠鳥。
そして白狼。
勇と、白狼のヒロインのひとり――未来は来られないらしい。
(未来ちゃんには会ってみたかったな)
審判の笛が鳴る。
「選手交代!」
私の出番。
コートに足を踏み入れた瞬間、空気が少し変わる。
視線。
ざわめき。
期待。
ポジションはセッター。
でも今回はテストも兼ねて、ワンポイントサーバー。
ボールを受け取る。
掌に伝わるゴムの感触。
軽く弾む重さ。
助走。
トン、トン、と床を叩くボールの乾いた音。
体育館が一瞬、静まり返る。
そして――
腕を振る。
ボールが鋭く飛ぶ。
ネット際を、鋭角に射抜く。
サービスエース。
「ナイッサーーー!!
いいよ、凛! カンペキ!!」
鉄平の声。
思わず口元が緩む。
ふふふ。
いい声援ね。
合格。
そのとき。
「ピィィィィーーーーーー!!」
甲高い指笛。
体育館に響く。
白狼だ。
なるほど。
あなたも合格あげるわ、白狼。
応援よろしくね。
じゃあ――
とっておきを見せましょう。
もう一度、ボールを受け取る。
助走。
高く跳ぶ。
打点を上げて、ボールの下側を叩く。
――無回転。
ジャンプフローターサーブ。
空気を裂いて飛ぶボール。
相手コートで、不規則に揺れた。
落ちる。
連続エース。
観客がざわめく。
私は、ゆっくり応援席を見る。
ドヤ顔。
どうよ、鉄平。
惚れた?
惚れ直した?
観客席に向かって、指を銃の形にして構える。
バン。
(どう?鉄平。私カッコいいでしょ)
調整試合らしく、すぐに交代が来た。
でも、満足。
体育館の空気。
汗の匂い。
歓声。
全部が、少しだけ楽しい。
人間って、楽しい。
神としてではなく。
一人の少女として。
私は今、
鉄平の世界に立っている。
そして――
物語の結末は、本編にて語られる。
To be continued.




