第225話 ウィルブロード入国
『魔王、いいから力を寄越せ!』新章投稿中!
「君を必ず迎えに行く――!」
"勇者"との別離は最後の旅路の始まり
”転移者”と“聖女”はいま、青き都で再生の道を征く
第七章 ウィルブロードへの路編、開幕
国境の街リヒテンハルへと到着した俺とティア。
現在午前9時ごろで、今日も朝から国境を越える人々で街は賑わっている。
教会の尖塔が俺達を出迎え、訪れるのは2度目でしかないのに妙な安心感がある。
平和な街並みを馬車で通り抜けながら、俺たちはひとまず医者の元へ向かった。
比較的大きな街というだけあり、大きな病院があるので助かる。
診察の結果、俺は痛み止めや回復薬などを処方され、時間をかけて治していくしかないという想像通りの容態だった。
問題はレオナだ。
「何故意識が戻らないのか、よく分からないというのが正直なところです。一応薬剤を使用された形跡はありますが……何とも」
それが医者の回答だった。
「何か、方法はありませんか?」
ティアの質問にも、壮年の医師は困ったように頭をかいた。
「もう少し詳しく検査をできる設備があれば……。ここからだと王都が一番近くですが……エンディミオン総合病院は先日魔獣発生の事件で設備が一部破損したようです。ウィルブロードの皇都まで行く必要がありますな」
ゼファーの件でロレンツの病院にも聖獣が発生していたことを思い出す。
サリーやシュルトが討伐しており怪我人もいないと聞いたが、さすがに施設は無傷とはいかなかったらしい。
というわけで、当初の予定通り俺たちはレオナも連れて皇都まで行くことになった。
ティアとしても、どうせ目的地だからと納得している。
「レオナどうしたんだろうね」
俺はレオナをおんぶしつつ病院を出て呟く。
幸いと言っていいのか、彼女の身体は驚くほど軽く、背負っていても余裕で走れるレベルだった。
ティアでも抱えられる重さなのはいざというときありがたい。
この小さく華奢な体で、魔獣との戦いや過酷な旅をこなしていたのだと思うと、大した奴だと感心する。
「毒か薬か……物理的な傷によるものじゃないみたいだし」
頭を強く打ったとか、そういうことではなさそうだった。
気になるのは、やはり村ですれ違った金髪の男。
彼には、レオナのナイフが突き刺さったと言われても納得の傷が無数にあった。
俺は今さらながら、ステータスを覗き見ておくんだったと後悔する。
まああの時は俺にもそんな余裕は無かったが。
「皇都まで行くしかないね。そこまで行けば王室お抱えの医師と設備で診てもらえるし、聖庁で看護もできる」
つまり俺たちの旅の目的地は、皇都ということだ。
ティアのいた聖庁があるという『ベアトリス』の街はその近くだそうなので、旅の終着点は大体その辺だ。
もっとも、リヒテンハルからウィルブロードまでは光導列車が出ており、まる1日もあれば皇都に着くらしい。
あと少しの辛抱だと思った矢先のこと、俺たちの耳に衝撃のニュースが飛び込んできた。
「え!? 列車が運休?」
借りていた馬車を返しに行こうとしていたところ、国境越えの駅の周りに人だかりができているのが見えた。
何事かと思い、俺は馬車を降りて近くまで行くと、駅員が光導列車の運休を知らせるアナウンスを行っているところだった。
「申し訳ありません。途中で線路が破壊された痕があり……しばらくウィルブロード行きの列車は出ないんです」
駅員は疲れた顔でそう言った。
怒号が飛び交っているということはないが、客たちの対応に追われているといった感じだ。
「そうなんですか……復旧にはどれくらいかかりそうなんですか?」
俺が駅員に尋ねると、14日程度かかるとのことだった。
2週間もリヒテンハルで足止め? 冗談じゃない。
とはいえ、列車の復旧を待った方がかえって皇都に早く着くということはないだろうか。
俺は確認のため、一旦馬車で待つティアの元に戻った。
「14日か……絶妙ね」
ティアの第一声はそれだった。
俺はどっちとも取れる答えに首を傾げる。
「絶妙って?」
「馬車でも皇都までは大体14日弱。まあ普通にいけば12日くらいで着くかな。若干馬車旅の方が早いかもだけど……」
確かに絶妙だ。
この二択は迷うが、ここで手を、いや足をこまねいているわけにもいかない。
気分的には一歩でも前に進んでおきたいところだった。
「どうしよっか」
困ったときのティア頼みは俺の悪い癖かもしれない。
ただ、ウィルブロードの土地勘の無い俺にとっては、ティアの判断の方が正確だと思ったのだ。
「そうね……まあ幸い足もあるし、光導列車の駅のある都市に向かって馬車で行くのがいいんじゃない? 途中で復旧したら乗り換えればいいわけだし」
先に馬車を返してしまわなくてラッキーだったとはティアの談。
この調子だと馬車で国境を越える旅人や冒険者が増えそうなので、下手をすれば馬車が借りられないということにもなりかねない。
俺たちはすぐに馬車屋に行ってレンタル期間の延長を申し出る。
また、一応馬も変えてもらった。
最悪ここからまた14日くらいの旅が続くので、潰れてしまうと困るからだ。
必要物資を買い足してすぐに出発することにする。
「私も馬車で国境越え初めてかも」
「そうなの?」
「列車が楽だしね」
俺も国境を越えるのは2度目だが、馬車で通り過ぎるのは初めてだ。
リヒテンハルを出て数百メートル先には国境がある。
金属のフェンスのようなもので覆われたその場所は、さすがの牧歌的なリヒテンハルの近くでも物々しい気配が漂っていた。
色々なサイズや形状の馬車が列を作っており、乗っている人々もさまざまだ。
商人や冒険者、馬車の中は見えないが恐らく貴族もいるだろう。
検問は複数の窓口があったが、国境警備の騎士が1台1台中を調べているのでやや進みが遅い。
通り抜けるのに小一時間かかりそうな雰囲気だった。
「線路が壊されるってよくあるの?」
列に並びつつ、ティアに訊いてみる。
俺のいた現代日本では、電車が遅延することはままあったが、線路が破損とはなかなか聞かない。
ゼロではないのだろうが、そもそも簡単に壊せるようなものではないからだ。
ただ、この世界は本当に何もない荒野に線路が敷かれていたりするので、まああり得るかなとは思っていた。
「魔獣が壊したりするのはたまに聞くけど、14日も止まるのは相当だよ。かなり広範囲に、復旧が困難なくらい壊されてるってことだから、人為的なものかもね」
ティアが不穏なことを言った。
なんだか幸先の悪いスタートだと思いつつ、大人しく列を待つ。
警備の数も多いため、特に騒ぎやもめ事などが起こることもなく、淡々と列の処理が進められていった。
「よし次!」
俺たちの番が来た。
やや高圧的な王国騎士に、俺とティア、そしてレオナの分のギルドカードを渡す。
別の騎士が、俺たちの馬車の中をざっと確認している。
この世界でも国境の警備自体はそこそこ厳しいが、さすがに元の世界とは比べるべくもない。
ギルドカードもティアが素性の分からない俺の分を適当に発行してくれたものだし、これで国境を越えられるのはやや警備がザルな気もする。
まあ、今はBランク冒険者なので、ギルド側でしっかり実績も保証されているということなのだろうが。
何やら警備兵は俺のギルドカードと俺の顔を交互に見ているが、何だろうか。
「あなた方はもしや王都の魔獣討伐をされた……」
兵士の顔つきがちょっと変わった。
何というかこう、驚きと羨望が入り混じったような……。
俺の顔を見るなりそんなことを言いだした。
先日のアストラルの一件のことだろうか。
「え? あ、はい、そうだと思いますけど……」
「失礼いたしました! どうぞお通りください!」
さっきまで高圧的だったくせに、いきなり胸の前に手を置いて敬礼の体勢を取られた。
なんなんだ。
「いいから、行こ」
ティアもOKが出たようで、俺たちは馬車を走らせる。
「国境まで名前が届いてるってすごくない?」
俺は驚きを率直にティアにぶつけてみる。
彼女も頷いた。
「いいんだか悪いんだか。私たちの動きってもう結構色んな人に筒抜けなのかもね」
「行く先々でクエストを解決するとこういうことになるのか……」
Sランク冒険者のミユキがいたら、もっと強烈な歓待を受けたかもしれないな。
俺たちは国境のゲートを馬車でガラガラ音を響かせながらくぐり、無事ロングフェローを出た。
そしてついに、案外あっさりと、ウィルブロードに入国を果たしたのである。
本日より新章が開幕となります。
よろしくお願いします。
お読みいただき、ありがとうございます。
モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。
評価は下の「★★★★★」から行えますので、よろしくお願いたします。




