56.人の皮を被った"運命"
……読者の方々からすれば"誰やそいつ"的な話になりますが、一応そういう人物が居たってレベルの認識で大丈夫です。
(金村 冥堂視点)
「……さて、これで"獄落姉妹"は安定して使える様になるかのう……」
「ん?……何言ってんだ、ベイビ~?」
「ああ……明の奴がゴムを必要としてたからのう。……ヤリ部屋のコンドームを転送してやったのじゃ」
「……うん、詳しくは聞かねぇでおくぜ、ベイビ~」
……やっぱ食われたか……
ま、パッと見た様子では明も心の底から"獄落姉妹"を拒絶してた感じじゃなかったとはいえ……ちょっと同情しちまうな……
「……って、そんな事より話を戻すのじゃ!」
「先に逸れたのはそっちだぜ、ベイビ~」
「こ、コホン!……で、本当にそ奴は"希望の役者"を模した西洋人形じゃったのか?」
「多分そうザマス。……まあ、私が碌に"希望の役者"を覚えてないから何とも言えないザマスが……」
……"希望の役者"、って奴を模した異能生命体が現れたって案件で連れて来られたは良いが……俺っちにはチンプンカンプン過ぎて困ったちゃんだぜ……
「なあ、1つ良いか?……俺っちはその"希望の役者"とやらを知らねぇ……なのに何で呼ばれたんだ、ベイビ~?」
「な~に、単純な話じゃよ。……冥堂、お主は死者を蘇らせる方法を知っとるか?」
「……知らねぇ事はねぇが、ありゃ魔法の領域な上に条件が鬼厳しい……少なくとも、この世界じゃ存在すらしてねぇだろうな、ベイビ~」
「「「「……?」」」」
「……なら良いのじゃ……」
……兼人さんのアレは条件が鬼厳しいし、何より今回の異能生命体とはまた勝手が違う……
何より、この世界にゃ存在しねぇ。
「……何の話か分からねぇが、それならオレ達は何で呼ばれたんだァ?」
「それは……武音子先生とエレジーには、元"異能の夜明け"構成員としての意見を、真梨亜には【聖女】を使った調査をして貰おうと思ってのう……」
「承知しましたわ!」
「うわっ!?……急に大声を出すなよ、ベイビ~!」
……ま、ラヴィの考えは分かった。
ただここから先、俺っちはお荷物と化すがな。
と、そこへ……
「う~ん、どうだかなァ……その情報だけで考えられるとすればァ……"No.4"か"No.7"が怪しいなァ……」
「ほう……その2人の異能は確か……」
「"No.4"は【思考出力】で、"No.7"は【式神召喚】だなァ……」
「あ~……俺っちはあんま知らねぇんだが、それはどんな異能なんだ、ベイビ~?」
……【思考出力】に【式神召喚】?
ほんと、訳ワカメだぜ……
「知らねぇのかァ?……まず、【思考出力】は脳内で想像した物を現実世界で構築出来るって異能だァ。……ある意味じゃ影華の【兵器錬成】に似た異能ではあるが、【思考出力】の方は物理法則だの何だのを完全無視して構築出来るのが強みだなァ」
おいおい……
そりゃ凄いってレベルじゃねぇぜ……
……って、待て待て!
「……逆に影華の嬢ちゃんはアレで科学的に作ってるのかよ、ベイビ~……」
「そうザマスよ!……影華は科学的に吸血鬼を殺せる兵器や、嘘みたいなトンチキパンジャンを作れる天才なんザマス!」
「……その点じゃ、影華の嬢ちゃんの方が凄そうって認識になるな、ベイビ~……」
「ふふふ、そうザマショそうザマショ?」
影華の嬢ちゃんが作った兵器とやらをちょいと見せて貰ったが、アレを物理法則やらの範囲内で作るとかマジかよ……
カミラエルが惚れるのもおかしくねぇ頭脳だな……
「話が逸れたなァ……つっても、【思考出力】で会った事もねぇ相手を再現するのは難しい話だァ。……少なくとも、"No.4"の年齢は常識的な人間の範疇だって確認されてやがるし……」
「なら、違うのかのう……」
……いくら脳内で想像した物を再現出来るからって、出会った事もねぇ相手を再現すんのは無理だろう。
100年以上前の英雄ともなれば、仮に長生きしてても会えるかギリギリだろうし……
「それなら、まだ【式神召喚】の方が現実感があるだろうなァ」
「そっちはどんな異能なんだよ、ベイビ~?」
「次に【式神召喚】はその名の通り、【裏十二天将】とかいう式神って建前の異能生命体を具現化させちまえる……【聖騎士】や【聖女】、それから【禍神招来】や【魔術百科】なんかと同じスピリチュアル系異能だァ」
「それの何処に、今回の件との関連性があるんザマスか?」
【式神召喚】の解説を聞いてた俺っち達だが、そこにカミラエルが質問を投げかけた。
「分かってねぇなァ……建前とはいえ式神の名を冠する異能だぞォ?……【裏十二天将】の中に死者を真似られる奴が居たっておかしくねぇだろォ?」
「た、確かに……私の異能が割と無法的なのも相まって説得力があるザマスね……」
……吸血鬼の名を冠する異能を持つカミラエルが不死身レベルの再生能力を持っているのと同じく、式神の名を冠する異能がどれだけの非科学的現象を起こせるかも未知数、って訳か……
「ところで今更だが……"希望の役者"はどんな奴だったんだ、ベイビ~?」
「ん~?………誰もその事を聞いて来ぬから話を進めておったが……やはり気になるかのう?」
「まァ、かつての英雄なんて歴史でもあんまり出て来ねぇからなァ。……ま、政府としてもあの独裁政権はマジで黒歴史なんだろうなァ……」
「それで掘り返されたくないのも分かりますが、英雄側もあまり紹介されないのは嫌な気分ですわね……」
英雄は大々的に知られるべきってか?
でも、当事者の奴等は何か言いたげだな……
「……そうは言っても当事者としては、大々的に知られて持ち上げられるのもあまり気分の良い話じゃないのでございますよ。……バンバン罪もない人が死にまくったあの時代は、本当に凄惨を極めていたのでございましたから……」
「そうザマス。……この数百年、興味本意であちこちの戦いに首を突っ込んだザマスが、どれも後味は最悪だったザマス……」
「争いなんてそんなものじゃ。……寧ろ、後味が良い争いなんぞないぐらいじゃ……」
……まあ、気持ちは分からんでもないぜ……
いくら最終的に勝ったとしても、その過程で守れなかった奴等を思うと手放しでは喜べねぇんだろうな……
「……それはそうと、"希望の役者"を教えてくれよ、ベイビ~」
「おお、そうじゃったそうじゃった。……あ奴はそうじゃのう……【未来予知】という異能を持って生まれてしまった、運命の奴隷とでも言うべき……いいや、そうとしか言えぬ哀れな奴じゃった」
「そこまで言うか、ベイビ~」
【未来予知】ねぇ……
それで運命の奴隷は言い過ぎじゃねぇか?
……と、思ってたんだが……
「……あ奴の【未来予知】は常時発動型でのう……何をするにしても未来が見え、遂には現在すら碌に見えぬ様になってしもうたという……それでも言い過ぎじゃと?」
「じょ、常時発動型って……本当かよ、ベイビ~!」
「本当じゃよ。……常にトロッコ問題を選ばされ、未来が見えぬ時間などないに等しい……凄惨なトロッコ問題と脳がパンクする程に膨大な量の未来を見せられ続ける人生じゃったからか、"希望の役者"本人の人格は物心がつく前に廃人同然になり、以降はただただより良い未来へと運命を導くだけの操り人形になったとか……」
「おえっ!……胸糞悪い話だぜ、ベイビ~……」
聞けば聞く程、救いがねぇじゃねぇか!
英雄の1人が歩んだ人生としては、最悪そのものって感じだな……
「……なあ、何故ワシが頑なに"希望の役者"としか呼ばぬか分かるか?」
「ん?……何でなんだ、ベイビ~?」
「……さっきも言った通り、"希望の役者"本人の人格は物心がつく前に廃人同然になったと聞いておる。……以降のあ奴は言うなれば、人の皮を被った"運命"そのもので本人とは別じゃったからじゃよ……」
「え?……い、意味が分からねぇぜ、ベイビ~……」
人の皮を被った"運命"そのもの?
何を言ってんだ?
とか思ってると……
「あ、ラヴィ・リンスゥ様!……私の【聖女】で確認したところ、少しだけ痕跡が見つかりましたわ!」
「そうか……」
真梨亜が痕跡を見つけ、話はそっちに逸れちまった。
……ってか、どうして俺っちがこの世界の問題に首を突っ込んでんだろうな~……
ご読了ありがとうございます。
"希望の役者"を一言で表すなら、人の皮を被った"運命"というレベルで人格が破綻していました。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。