はじまり
その日、第六皇女サラは迫りくる死にただ何もできずにいた。
祈ることすら許されず。
「右に進め!」
アールは疾走する馬車のの上で指示を飛ばすが、その指示も意味もないだろうと悟っていた。
汗に塗れた金髪は乱れ、その美しい顔は焦りで歪んでいた。
「くそっオークとゴブリンの群れか、キングかクイーンがいるのかよ。」
ここまでで、騎士6名と馬車2台を失った。
第六皇女の乗る馬車も損傷が激しい。あと数刻も走れないだろう。
馬車の中を覗き込み、第六皇女の様子を伺う。
ピンクプラチナの髪は美しく、白い肌は陶器の様で透きとおる。
茶色の瞳は大きく、潤んでいるが強さがある。
「アール、もう、覚悟はできています。」
「私も、覚悟はできております。」
二人の覚悟は全く違ったとしても、死の匂いは二人を濃く包んでいた。
「後ろに3、前に1、正面を突破します。」
御者に座る騎士が叫ぶ。
おかしい、前に5はいたぞ?
「まてっ」
アールの声は御者に届かない。
馬車側面からの強烈な衝撃にアールは飛ばされ、木にぶつかる。
馬車は横転している。
「あ、あ、ちきしょう、キングかよ。」
ひときわ目立つ巨体のオークを目にとらえてアールは為す術もなくつぶやいた。
剣を握りたいと思ったが、吹き飛ばされた衝撃で、どこかへ行ってしまっていた。
アールはこれまでの人生に想いを馳せていたが、歪に笑うオークキングに、怒りを感じ考えるのをやめた。
「最後まで、、、守る、、、」
振り上げられる見事なオークキングの上腕二頭筋を見つめながら、馬車を背にして立ち上がる。
その日、金碧の騎士アールは自身の運命を受け入れた。




