一本道を歩く人たちを見送って、俺たちも目的地へ。
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十字路をいくつか超えて、駅前のアーケードの入り口が視界に入る場所まで来た。
煌々と明かりが残るのは、角に構えるファストフードのバーガーチェーン。
彩葉が口を開く。
「……いやぁ、ビックバーガー食いたいっすね」
「俺は揚げたてのポテトがいいな」
汗をかいたからか、無性に塩気が欲しかった。
「もう一生食えないのか」思わず呟いていた。
彩葉が目を凝らし、にやける。
「ほら、まだ明かりついてるっすよ。注文すれば出てくるかも」
遠目だが、ガラス越しに覗き込む。
客席は散らかったまま、カウンターに人影はない。
厨房の奥も暗い。稼働の気配は、もう無い。
「寄らないわよ?」と美咲が冷たく遮る。
「ポテトの値段が《命》じゃ釣り合わないもの」
「……冗談だ」肩をすくめて言い、視線を外す。
「昨日までならワンコインで幸せだったのに……今はワンミスで地獄行きっすからね~」
結局、アーケードには入らず脇道に逸れた。
歩きながらも、油の匂いが鼻に蘇る気がして仕方なかった。
もう二度と手に入らないもの──そのひとつが、目の前に転がっていた。
*
「アーケードの奥、大山駅前にも人がいたっすね」
脇道を進みながら、彩葉が言う。
「あそこも家族連れが多かったな。電車の再開を待っているんじゃないか?」
「再開するんすかねぇ」
「しないだろ・・・」
「これ以上進めないわ。アーケードに入るわよ」
美咲の言葉に隊列を組みなおす。
左手に川越街道。右手にアーケード。
これ以上大通りに近づくのは不味いという判断だ。
暗闇のアーケードかと思いきや、ライトは煌々と照らし出している。
この格好が恥ずかしいくらいだ。
槍を掲げる美咲、長槍を肩に担ぐ彩葉に続いて、人ひとり通れるくらいの細道からアーケードに入る。
無人だ。営業しているような店もちらほらあるが、人が中にいるかどうかまでは分からない。
美咲が一直線にアーケード街を横切り、向かいの細道に消える。
暗がりに溶けていく黒装束。
彩葉も消える。
俺にはもうこの明るい世界の方が落ち着かない。
二人を追って闇の中へ飛び込んだ。
*
「病院を通り過ぎた。汚染源から離れられる。これで少しは安心ね」
先導する美咲の声が明るい。
駅、大通り、アーケード、病院の密集エリアを抜けた。
ふぅと肩の力を抜く。正直、拍子抜けではあった。
右手を見ると道の先に線路が見えた。
踏切は上がりっぱなしになっている。
「線路を歩いてるっすね」
彩葉の声に目を凝らす。
ぞろぞろというほどではないが、人波は途絶えない。
数人くらいの集団が次々と現れては消えていく。
線路を歩けば確かに効率的に郊外に行ける。
でも、横道がないな。
「挟まれたらと思うと一緒の流れに乗りたいとは思わないわね」
美咲も線路に沿って歩く避難民を見つめた。
「でも、線路を歩きたくなる気持ちはよく分かるよ」
人が歩いているなら、猶更だ。
まっすぐ歩くだけで郊外まで行くことができる。
元々人気のない場所だ。ゾンビも少ない。
少なくとも公園で座り込むよりも、マシな選択肢だろう。
「アタシたちはアタシたちの目的地に」
行くわよと美咲が進みだす。
電灯を避け、暗闇を伝って。




