第39話 褒美
2人は途中の街で1泊をして、また馬車に揺られる。長い長い休暇のような気がしていた。穂乃花と旅をしアストル村にも行った事で、尚一層穂乃花という1人の女性を理解し、より絆が深まったように思える。今まで弱い部分を見せ合ってきたが、これからはもっと自分をさらけ出す事に躊躇わなくなるだろう。いつも「大丈夫」と声をかけてくれる。その言葉の根源が何処から来るものかは分からないが、安心をもらえる魔法の言葉だった。若しかすると穂乃花が好きでいてくれる事に、俺は甘えているのかも知れない。
「もうすぐ皆に会えるね」
穂乃花は俺が喜ぶであろう言葉をくれた。本当に優しい人だ。自分の事を好きだと言ってくれなければ、普通は諦めるはずだ。だが彼女には揺らぎが無かった。本当に強い人なのかも知れない。
彼女と歩む未来を考えてみた。優しさに包まれた俺と子ども達はきっと幸せだろう。時々アストル村に帰って両親に孫を見せる。そして夜には秘密の場所に家族で行き、星空を楽しむ。こんなに幸福な事が他にあるだろうか。
「皆も休暇を楽しんでるでしょうね」
「ほのは楽しめたの?」
「もちろんよ。久しぶりにお父さんとお母さんと話せたし。健と秘密の場所に行けたし。本当に楽しかったわ」
思い出すかのようにうっとりしながらそう答えた。
「ほの、ありがとう。凄く癒されたよ」
「お礼はお星様に言って」
そう言って笑った。
違う!穂乃花と一緒にいたから……。
そう伝えたかったが、また中途半端な発言になるだろうと、言葉を飲み込んだ。
やがて懐かしい城が見えてきた。ここへ戻る日を決めてはいなかった。果たして誰か帰っているのだろうか。春の風が心地いい。馬車は城門に入りやがて広場で止まった。2人で飛び降り荷物を降ろしお礼を言った。
「帰ってきたな」
なぜかもっと旅を続けたかったようなそんな切なさが俺にはあった。穂乃花はどう思っているのだろう。そう考えていた瞬間穂乃花を抱きしめていた。びっくりしていたようだがそれに応え俺の背中を強く抱いた。どれ位そうしていたかは分からない。お互い見つめあった。言葉はもういらなかった。目を見ればわかる。いきなり抱きしめた行為を、謝りたい気持ちと謝りたくない気持ちがあった。穂乃花は理解しているかのように微笑んだ。
そをな2人を、出迎えに出てきたリリア姫がそっとみていた。
ーー王室ではーー
夕食を国王とリリア姫がとっていた。
「なんとも元気がないのう。食も進んではおらんではないか」
「そんな事ありませんわ」
そう言いながら静かに涙を流した。
「私の大切な姫をそんなに悲しませているのは一体なんじゃ?ん?」
「私は……建様が好きなのです……」
そう言いながら食卓に蹲った。
「おうおう。可哀想に。私はもう反対なぞせぬわ。だから泣くのは止めなさい。見ているこっちが辛くなるでな」
リリア姫は大きく首を振った。
「無理でございます。建様は私の事など……」
「そうなのか、この国王に任せておけば良い。リリア姫の幸せな顔を見たいでな」
勇者の家に入ると豪と琴音が食卓についていた。一瞬邪魔かなと思ったが、豪が肉にかぶりつくのを見てそんな考えは吹っ飛んだ。
「おかえりなさい。健さん、穂乃花さん」
琴音は笑顔で出迎えてくれた。
「どう?楽しかった?」
「はい。でも、馬車の中で豪さんがお腹を空かせて大変だったんですよ」
琴音はまだがっついている豪を見て言った。
「腹が空いたら戦は出来んです!」
全く2人だけのまたとないチャンスを棒に振りやがって。豪の頭を後から叩いてやろうかと思ったが、琴音に気づかれてしまうので止めた。
それから程なくしてユキナとホイットが帰って来た。皆申し合わせたかのように同じ日に帰って来るとは。
ホイットが帰って来ると場が明るくなる。皆もお腹を空かせていたらしく夕食を楽しんだ。
翌日、国王に6人が呼ばれ玉座の間に集まった。隣にはリリア姫とハレルヤ、ロバートがいた。
「休暇を頂きありがとうございました。無事に戻って参りました。皆今後も王国を守る所存でございます」
「そうかそうか、それは心強い。時に健よ、お前にまだ褒美を与えておらぬな」
「褒美など滅相もございません。私は自分のしたい事をしたまでです」
「したい事とは国の平和か?」
「はい、それと国民の幸せを願っております」
「では、丁度良い。お前の考えをリリア姫と結婚し反映させよ」
「それが褒美でございますか?」
「そうじゃ!世界一美しい嫁を貰うこと、加えてお前の夢も叶えられよう。これ程の褒美は他にないであろう!」
半ば押し付けるように言い放った。びっくりしたのは俺だけではない。ここにいる全員、それに本人であるリリア姫をも驚かせた。
「国王様、姫のお気持ちも考えて上げてください」
「その心配には及ばん。話しは以上じゃ」
リリア姫と結婚?まさか、俺が?俺の気持ちは?リリア姫は本当に俺と結婚したいのか?あれほどまで結婚は自分で決めたいと言っていたのに。国王に決められて大丈夫なのだろうか。いや、人の心配をしている場合ではない。休暇で穂乃花の事を好きになった。未来も描いた。愛しているかどうかはまだ分からないが、今1番側にいたい女性だった。なのに何故こうなるんだ。自分の運命を恨んだ。
皆勇者の家に戻るまで一言も話さなかった。家に着くとすぐにユキナが穂乃花の手を取り自室に連れて行った。琴音もそれを追いかけるように付いて行った。
俺の頭は混乱していた。すぐに庭に出て大きく深呼吸をした。ホイットと豪が追いかけてきた。
「全くびっくりやなぁ。結婚て言うたら大変な事やで?そんなんも国王が決めてええんかいな……」
「勇者様、ようく考えた方が良いと思いもす」
俺は考えが定まらず黙ったままだった。
「まずやな、リリア姫と話す事やで。そこから考えたらどうや?」
それは一理ある。本人が嫌なら話しは早い。
早速リリア姫宛に書いた手紙を執事に渡した。
穂乃花達も困惑し話し合いが続いていた。
「穂乃花、お前はどうするつもりだ」
心配したユキナが尋ねた。
「そうですよ、大変なご褒美ですよね」
琴音も心配してそう言った。
「私は大丈夫よ。決めるのは健だもん。健の方こそ大変だわ」
穂乃花は案ずるような表情を浮かべた。
「お前は全く!もっと自分を大事に考えろ!結婚したらどうなると思う?もうここには健はいなくなるんだぞ!それでも穂乃花はここに留まって2人を遠くで見ていれるのかっ?!」
「本当にそうですよね。そんな辛いこと穂乃花さんにはして欲しくありません」
「ううん、大丈夫って言ったでしょう。私は健が好き。それだけ。これからもずっとずっと好き。結婚してもここにいたいの。」
「穂乃花……、自分と結婚して欲しいと言えばいいじゃないか」
「そんな事したら、もっと健を苦しめる。そんなの嫌なの。2人の心配は分かる。こうして一生懸命言ってくれる友がいるのが、凄く嬉しいの。ありがとう。でもね、健が決めた事に従うつもりよ。その結果がどうあれここにいて、国の為に働く事は変えない」
翌日、『西の庭園』でリリア姫を待った。
「お待たせしました」
リリア姫は丁寧な言葉で話し、少し緊張しているのか顔を強ばらせていた。
「先日の国王様からのご褒美の件で、是非ともリリア姫の意見を聞きたい」
「驚かされましたが……、先日申したように私は健さんの事が好きです。なので心から嬉しく思います」
そうだったのか、返す言葉が無かった。
「健さんは嫌なのですか?それともどなたか好きな人でもいるのですか?」
「いや、突然の事なので……、もう少し時間を下さい」
一礼してその場を去った。今すぐにでも会いたいのは穂乃花だった。抱きしめて穂乃花の肌の温もりを感じる事が出来たなら、きっと俺の気持ちは固まるだろう。




