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リヤン 〜魂の絆~  作者: ゆめ猫
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第20話 自分の撒いた種

 馬車はゆっくりと赤く色づいた木々の間を抜けて行く。

 穂乃花が仲間になった事で、皆自己紹介と挨拶を交わした。彼女の髪はピンク色のボブなので一見幼い印象だが、ロンの言う通りしっかりしている。白魔道士は回復役、多いほど良いかも知れない。皆すぐに打ち解け仲良くなった。


♪君が微笑む その目には♪


 琴音は上機嫌で歌い始めた。ここでは有名な歌なのだろう。皆も一緒に歌いだした。


♪はるか遠くの 道が見える♪

♪果てしなく辛い道なれど♪

♪険しく困難な道なれど♪

♪君がいるから乗り越えられる♪


 もしかすると傭兵達の歌なのかも知れない。外の景色を見ながらそう思った。


♪さぁー行こう。君の道へ♪

♪さぁー行こう。皆が待つ夢の奇跡へ♪


 馬車は夢と希望を乗せ進む。砂漠を超え橋を渡り山を超えた所で、すっかり辺りは暗くなった。灯りのない中、馬車に灯された火だけが明るく輝いている。

 ここで野宿となった。持って来たパンとチーズで食事をとった。やがて皆寝てしまったのか静かになる。虫の声だけが響きわたる。

 皆は明るい未来を想像し、夢を膨らませている。だが、俺は逆だった。不安しかない。弱くてもろい自分がいた。


「眠れない?」

隣に座っていた穂乃花が訊ねた。


「あ、いや大丈夫」


「辛い事があったら何も考えないで、目をつむるの。楽しい事があった時は目を開けて、その時間をいっぱい吸い込むの」


 俺の不安が分かったかのように、彼女は小声でそう言った。


「それは良いかもな」


 そう言うと「うん」と答え、俺の肩にもたれた。温かい。人肌がこんなに温かかった事を、初めて感じたような気がした。安らぎの中、俺は眠りについた。


 明るくなるとまた馬車は動き出した。太陽が少し傾いた頃、盆地が広がる中に街が見えた。強そうなモンスターが街を囲む。きっとまた皆とここで狩りをするんだろうな。

 近づくとその街はレンガで出来ている事が分かった。立派な門の前で馬車は止まった。


「バッサンに着きました」


 皆急いで降り笑顔でその街を眺めた。荷物を下ろしハレルヤに家の場所を確認する。門をくぐり右に行くと勇者の家があった。コマンスマンの村に比べるとかなり豪華な作りだった。

 各自長旅の疲れを癒した。この世界に来て初めて入浴が出来た。食事をとると力が湧いてくる。


「街の中心に行ってみようか?酒場にも寄りたい。」


皆の目は輝いていた。


 どの道も舗装され、花壇に植えられたパンジーが色鮮やかに咲いている。街の中心だろう。広場の真ん中には大きな丸い噴水があり、それを囲むように店が並んでいた。食材屋、レストラン、ホテル、雑貨屋など豊富にあった。もちろん物々交換ではなく、お金を払っている。コマンスマンの村とは大違いだった。同じ国とは思えない。

 中心から離れ真っ直ぐ進むと、武器屋、防具屋、薬品店があり端に酒場があった。レンガ作りでとても綺麗だった。

 重い扉を開けるとレストランのように丸テーブルと椅子が沢山あり広い。だが傭兵の姿はなかった。右端に受付のカウンターがあったが人はいなかった。


「すいません」


 俺が声をかけると扉が開き、中から女の人が出て来た。その人は俺達を見ると眼鏡をツンと上げた。


「なんでしょう?」


「健といいます。お名前は?」


「ケーティ」


「ここの店主ですよね」


「そう。で、いったい何の用があってノコノコやって来たんだい!」


ケーティはまた眼鏡をツンと上げ、声を荒立てた。


「俺は勇者としてこの世界にやって来ましたが、疑問を感じーー」


「あんたが何をしたか知ってる。見てごらん!閑散とした酒場を!何の疑問があったか知らないが、あんたがした事はこういう事なんだよ!」


 俺の言葉を遮りケーティは怒鳴った。そうか……俺が勧誘しないと決めたから傭兵は来なくなったんだ。それはたぶんこの街だけじゃないだろう。

 王が作り上げたシステムを根底から狂わせてしまったのか。俺の責任の重さ、浅はかさを痛感した。


「悪いけど家は傭兵から貰う入場料で生計を立ててきたんだ。ここずっとこの有様。どうやって生きろと言うんだい。あんたは私達を勝手な振る舞いで追い詰めたんだ!酒場だけじゃない。武器屋も防具屋も薬品店もだ!」


返す言葉がなかった。


「分かったらさっさと出て行ってくれないか。あんたの顔など2度と見たくはないね!」

 そういうとケーティは扉を開け奥へ入って行ってしまった。

 6人は無言で酒場を後にした。むろん武器屋などに立ち寄る気力はない。また同じ理由で追い返されるだけだろう。

 コマンスマンの村は王の撒いた種かも知れない。だが、ここバッサンでは違う。俺の撒いた種によって街人を苦しめてしまった。俺が自分で刈り取らなければいけない。

 今向かっている家も王が用意してくれた物。俺はやはり甘えているのだろうか。街の賑わいも美しさも、もう目には入らなかった。

 直接王に会おう!それが最善の方法に思えた。


 家についても皆押し黙っている。馬車の中や街に着いた時の華やいだ雰囲気はどこにもなかった。

 食卓の椅子に皆座るよう促した。


「こういう結果になってしまって、本当に申し訳ない。酒場の店主に迷惑かけたのは俺のせいだ。明日国都に行って国王に直接話をしようと思う」


 皆すごくびっくりしていた。王に背いておいて会いに行こうと言うのだから、そりゃそうだ。


「捕えられるかもしれへんで?」

ホイットが心配した。


「かも知れないな。だが、俺の力では酒場や武器屋の人達を助けてあげることが残念ながら出来ないんだ。勧誘をまた始めたら傭兵が集まり、酒場は潤う。でも、傭兵はまた同じ苦しみを味わう事になる」


「おいも行きもす。」

豪は言った。


「いや、1人で行きたいんだ。」


「おいは勇者様と同じ道を行きもす。それが夢です。」


「豪……」

豪は言い出したら聞かない。困った。


「私も行くよ。」

穂乃花が笑顔で言った。


「牢屋に監禁されるかも知れない。だからーー」


「いいの。分かってる。」


 俺の話を遮り穂乃花は言った。笑顔はなく真面目な顔をしている。


「3人で行けばいいさ。ここはあたしに任せろ。」ユキナが言った。きっとユキナも行きたいはず。琴音を気遣いそう言ったのだろう。


「でも国都だよ?王様に会えるかも知れないんでしょう?」

琴音が言った。


「いや、その機会はこれからいくらでもあるよ。今回は招かれてないし、ちょっと手荒だからね」


「そう、じゃ待ってる」

琴音は素直に応じてくれた。


「そうや、待ちましょ待ちましょ!男は僕1人やぁ、なんか最高やな」

ホイットが言った。


 ユキナに頭を叩かれ、皆が一斉に笑った。ホイットのおかげで場が和んだ。多くは語らなくとも皆は誰かを気遣っている。有難いと感じた。





やっと皆様のおかげで20話まで進める事が出来ました。ありがとうございます!

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