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プロローグ
昭和23年
伊東隆は、
野球の話になると妙に機嫌が良くなる男だった。
町工場の社長なのに、
工場よりグラウンドにいる時間の方が長いんじゃないか、
と陰で言われるほどだった。
「君、三愛商だって?」
初対面でそう聞いた。
小橋伸夫は頷く。
隆は嬉しそうだった。
「野球やっとったんだろ。」
「ええ。」
「うち野球部あるんだ。」
そこまでは良かった。
小橋は当然、
硬式だと思った。
中東商、南邦商、栄商と並び「愛知四商」と呼ばれ甲子園優勝経験もある三愛商業から社会人へ来る人間なら、普通そう考える。
だが入社して初めて知る。
軟式だった。
練習初日。
キャッチボール。
小橋は軟式球を受け取って、
しばらく黙った。
「……なんだ、
ゴム毬か。」
思わず口から出た。
周囲が苦笑いする。
小橋は少し拍子抜けした。
硬式上がりから見れば、
軟式は別競技に近い。
打球も違う。
バウンドも違う。
音も違う。
何より、
軽かった。
だがその日の帰り道、
小橋は少し考え直す。
肩を壊していた。
三愛商時代からだった。
硬式の送球は、
もう長く続けられないかもしれない。
その点、
軟式は軽い。
「あぁ……
まぁ、肩にはええか。」
誰に言うでもなく呟いた。
それが、
泉町精工での始まりだった。




