エピローグ 【リセ:ット】
勇気は目を覚ます。
病院のベッドだ。
隣には美咲も横になってる。
看護婦が慌てて
「 目を覚ましました!」
医者が駆け寄ってくる。
「目を覚ましてよかったよ、交通事故だったんだ」
どうやら2人は事故に遭い
最初にリセットされた
トラックに轢かれた場面。
あの時本当に轢かれて
1ヶ月も意識を失っていたらしい。
だが、死を乗り越えた感触は
今でも手の中に残っていた。
【1ヶ月後】
勇気と美咲は、退院し、共に生き続けていた。
あの日から、
すべてが簡単に元通りになったわけではない。
勇気の部屋で起きた爆発事故は、
大きなニュースになってた。
通り魔が侵入し
その場に居合わせた勇気の母と
もみ合いになった末にガス管が破損し、死亡。
そう処理されてた。
証拠はほとんど残らなかった。
あの時間に何が起きたのかを正確に知る者は、
勇気と美咲しかいなかった。
信人の実家にも行った。
意識を失っていた1ヶ月の中で
本当に発作が起きて亡くなってた。
信人の母は、勇気を見るなり泣き崩れた。
責められなかった。
それが余計に苦しかった。
「信人はね」
信人の母は遺影を見つめながら言った。
「勇気くんのこと、本当に大事に思ってたの」
勇気は何も言えなかった。
ただ、遺影の前で何度も頭を下げた。
ごめん。
ありがとう。
その二つの言葉しか浮かばなかった。
父の墓参りにも行った。
どうやらアパートの一室で
孤独死しているところを発見されたらしい。
汚れた墓だった。
誰も手入れしていなかったのか、雑草が伸びていた。
勇気は黙って草を抜いた。
美咲も隣で手伝った。
線香の煙が空へ昇っていく。
勇気は墓石に手を合わせる。
「父さん」
声に出すのは、まだ少し照れ臭かった。
「俺、生きてるよ」
それだけ言った。
大学にも戻った。
最初は周囲の目が怖かった。
母を亡くした学生。
親友を亡くした学生。
事件に巻き込まれた学生。
そう見られているような気がした。
けれど、勇気は通い続けた。
朝起きる。
大学へ行く。
講義を受ける。
課題を出す。
美咲と帰る。
それは特別なことではなかった。
でも、勇気にとっては生きる練習だった。
美咲も変わった。
彼女は心理学を本格的に学ぶようになった。
死にたいと思う子どもたち。
生きる意味を見失った人たち。
かつての自分のような人たちに寄り添いたいと言った。
勇気は最初、心配した。
美咲自身が壊れてしまうんじゃないかと思ったからだ。
でも美咲は笑った。
「大丈夫」
「死にたいって言葉の奥に、本当は何があるのか」
「少しだけ分かる気がするから」
その言葉通り、美咲はカウンセラーを目指した。
何度も泣いた。
何度も自分の過去と向き合った。
それでも逃げなかった。
【5年後】
勇気は一般企業へ就職していた。
特別な仕事ではない。
毎朝満員電車に乗り、上司に怒られ、
資料を作り、疲れて帰る。
過去の勇気が言ってたとおりの人生
こんな人生をつまらないと言っただろう。
でも今は違った。
帰る場所がある。
待っている人がいる。
明日が来る。
それだけで十分だった。
そして、二人は結婚することになった。
結婚式を一週間後に控えた日。
勇気と美咲は式場の打ち合わせを終え、街を歩いていた。
夕方の街は人で溢れている。
スーツ姿の会社員。
買い物袋を持つ親子。
信号待ちの学生。
どこにでもある日常。
その中を、二人は並んで歩いていた。
ビルの前を通りかかった時、
ガラス張りの窓に二人の姿が映った。
勇気はふと立ち止まる。
「どうしたの?」
美咲が聞く。
勇気は窓に映る自分たちを見た。
5年前とは違う。
顔つきも。
服装も。
目の奥も。
何もかもが違っていた。
美咲の指には指輪が光っている。
勇気の指にも、同じ指輪。
勇気は少し照れたように笑った。
「幸せそうだな」
美咲が窓を見る。
そこには、確かに幸せそうな二人がいた。
「俺ら」
美咲は笑った。
「うん」
勇気は美咲の手を握る。
「これからも強く生きていこうな」
美咲は頷いた。
「うん」
その瞬間だった。
上から金属が軋む音がした。
キィ。
嫌な音だった。
勇気は反射的に顔を上げる。
ビルの上。
工事現場。
足場。
そして。
鉄筋。
長い鉄の棒が、空から落ちてくる。
誰かが叫んだ。
「危ない!!」
時間がゆっくりになる。
勇気は美咲を見る。
美咲も勇気を見ていた。
避けられない。
そう分かった。
恐怖より先に。
悔しさが来た。
まだ生きたい。
そう思った。
心の底から。
まだ生きたい。
勇気は美咲の手を強く握った。
美咲も握り返した。
次の瞬間。
世界が暗くなった。
⸻
目覚まし時計が鳴っている。
ピピピピ。
ピピピピ。
勇気は目を開けた。
見慣れた天井。
古い蛍光灯。
カーテンの隙間から差し込む朝の光。
隣には美咲が眠っている。
勇気はゆっくり顔を横に向けた。
時計を見る。
【8:00】
完
読んでいただき、ありがとうございます。
これにて【リセ:ット】は完結です。
続編があるのか、ないのか。
乞うご期待・・・




