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54 ヤマタイラ国の皇族

ヤマタイラ国には、(すめらぎ)という国家元首がいる。

公式には天皇と言われ、国民からは『現人神』と敬われている。

私たち庶民が、ご尊顔を拝めることなど叶わない、雲の上のお方だ。

皇族から降嫁して華族に移る方々もいらっしゃるという。

この頃知ったことだが、魔調整学園で知り合ったユウカもその皇室の血を引くという。


私がプロイスタン国から戻って一番驚いたのは、マミヤ商店が様変わりしていたことだった。

たった数ヶ月、家を留守にしていただけだったのに。

パパは大博打を仕掛けていたのだ。

パパが新しく作った「マミヤ商店・首都支店」はすごく立派だった。

いつの間に、官庁街に出店場所を見つけたのか。

商店などほとんどない石造りの街の中に、一棟まるごと借りていた。

この筋向かいには白鷺財閥の商社が、でんと構えているのに。

ここに店を構える勇気があったと、逆に感心してしまった。


そのマミヤ商店にユウカが尋ねてきたのだ。

「ユウカ。どうしたの。魔調整学園は再開したって聞いたけど」

「……もう行かない事にしましたの。何となく不穏な空気で、学園全体がピリピリしているのですもの。魔を頂いてすぐに帰還したのです」

何となく言葉遣いが丁寧になっている。

そうか、学園では気を許していたのだろう。今は華族に囲まれた生活に戻って、以前のような気軽さは消えてしまった。

少し、距離ができてしまったことに、立場の違いを思い知ることになった。

気を取り直して、私は接客モードに切り替える。


「ユウカ様。本日はお洋服のお仕立てでございますか?」

「いいえ。サクラさんにお願いがあって、参りましたの」

そういうことならと、応接室に案内し、腰を落ち着かせて話を聞くことにした。

この応接室は、店の二階に広く取られた豪華な一室だった。

店の一棟は縦長で間口が狭く奥に長い。

そのほとんど半分を占める広さが、高貴の方々のための応接室だった。


私自身はプロイスタン国のローゼン商会の豪華さを知っているので、「自慢するほどではない」とこっそり思っている。

だけど、パパにとってはご自慢の部屋のようだ。


お茶を出して話を聞こうと椅子に腰を下ろすと、ユウカの話しぶりがまた変わった。

私の顔を見るなり、いきなり笑い出したのだ。

「ねえ、びっくりした?」

「……びっくりと言うより、距離ができて悲しくなった」

「フフ。サクラがいつもいないのが悪いのよ。会いに来たくても、忙しそうだったし。それに世界中を歩き回っていると聞いていたのですもの」

確かにそうだった。去年から今年にかけて、ヤマタイラにいたのは年に半分くらいだろう。


「お手紙でも、とは思ったのよ。でも、先頃帰国したと聞いたから急いで会いに来たの」

ユウカは、メイリーンのことを聞きたいという。

転移の記録を調べれば、私がポルトン国へ行っていたことは、簡単に分かるだろう。

「あの大人しかったメイリーンが国を背負って聖女を名乗るなんて、とても信じられなかったですわ」

ユウカは、華族のお茶会で学園の話になったおり、メイリーンと親しかったと自慢したようだ。

お茶会に参加していた皇族の一人が、ユウカに頼み込んできた。

「ぜひ、口添えしてほしい。内親王がご病気であらせられる」


しかし、メイリーンは今、東の辺境など来ることは出来ないだろう。

メイリーンの国は西の辺境だ。

転移で一瞬だと言っても、国を立て直している途中なのだ。

治癒のスキル持ちを増やしているとも言っていたが、果たしてどれほどの成長があるかも未知数だった。

一瞬、私の脳裏に浮かんだのはメイリーンの伝言だった。

『いくらでも私の名を使ってくれて、構わない』


私が黙り込んでしまったのを気にしてか、ユウカが慌てて話し出した。

「迷惑ならいいのよ。いくら皇族と言っても、世界を見てきたサクラから見れば優先順位が下がるわよね……」

「そういうわけではないの。少し考えさせて。ところでユウカ、スキルは身に付いたの?」

「それがまだなの。ただ、魔を飲んだだけではだめだったようです」

いや、十分だろう。この際知っていることをユウカに話してしまおう。

そうすれば、帝国の欺瞞も、変化した帝国の不安定さも、ユウカの口から中枢に知ってもらえるかもしれない。


「ユウカ、今日、時間ある? あるなら、私がいいことを教えてあげる。スキルが簡単に身につく方法、どう?」

「……サクラ……夢みたいなことを言って、ふざけた私に仕返しのつもり?」

「いいえ。私、この方法でスキルを身につけたの。本当に簡単なの。まず、欲しいスキルを言ってみて。適性があればすぐだから」


半信半疑ながら、ユウカが口にしたスキルは「鑑定」だった。

でも、ユウカはお勉強が苦手だった。これは難しいかもしれない。

第二候補は「転移」。第三候補はメイリーンのような治癒や浄化だと、恥ずかしそうに小さく口にした。


浄化は、いいかもしれない。今まで試してきた数少ない例だが、光は女性に身に付きやすい属性だと私は感じている。

次に身に付きやすいのは、言語理解。言語理解は水の属性だから、いずれ鑑定にも繋がるのだ。

「ユウカ、よく聞いて。魔の属性のことは習ったわよね。私がある人に教えて貰った新しい理論なの。転移は、闇に分類されるの。そして浄化は光。鑑定は、水に分けられる」

「ええーっ。幾ら勉強が苦手でもそれは聞いたことがないわ。分類できる? 知られていたのは光と火、水? くらいだったような……」

「だから、新しい理論なの。どれにするか……いえ、どれなら本当に欲しいか考えて」

「そうね……そう言われると、困ってしまうわ」

「じゃあ、ユウカは何が好き? 例えばお花を生けるのが好きとか、歌が好きとかということよ」

「ああ、それなら、わたしは歌が大好きよ」

おっと、これは、風の属性に適性があるかもしれない。


私はユウカに、風の属性を試してみようと説得した。

初めは渋っていたユウカだけど、このままスキルが身に付かないと困るからと、やっと納得してくれた。

途中で学園を止めて戻ってきてしまったユウカは、格下の家の後添いに出されてしまう恐れがあるのだ、と打ち明けた。

ユウカは華族の一員ではあるが、立場は弱い。

母親が士族出身で肩身が狭いのだそうだ。


でも、風の属性は試したことがなかった。光や闇は何度か試したのでやり方は知っているが。

――風って、通信や聞き耳なんかができたわよね。

オルドリックの持っている属性だ。

「ユウカ。歌を歌って、みんなに声が届くのって素晴らしいと思わない?」


「そうね。いつも独りぼっちで歌っているから。他の方々に聞いてもらえたら、すてきね!」

商会の屋上に行き、思いっきり声を出して歌ってもらう。

「遠くまで聞こえるように歌うのよ」


ユウカの歌声は高音で、細く弱々しかった。

夕暮れの街がここから見渡せた。

首都の西側は、比較的貧困層が暮らしていた。

その平屋の木造の家々からは、夕餉の支度の煙が所々たなびいていた。


ぼんやりと眺めていた私。

そのとき、横から聞こえていたはずの歌声が、前方から押し寄せてきた。

驚いてユウカを振り返ると、ユウカの身体がふんわりとした光に包まれていたのだった。

「ユウカ! できているわ。身に付いたのよ」

「え……」

ユウカの身体から光がすーっと消えて。元に戻ってしまった。

確かに力がついたはずだけど。これは何というスキルか分からない。

二人で首をかしげて悩んでしまった。


ふと地上を見ると、人だかりができていた。

百人ほどが周りを見まわし何かを探している。

「ちょっ! まずくないかしら」

「そうね。取り敢えず中へ戻りましょう」


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