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黒姫の奴隷勇者  作者: 分福茶釜
金の王女の襲来
9/21

逃避と勇者

「……ったく、人使いが荒い王女様だな……」


 少し前から、仇である魔王の娘に良いように使われている。絶対に許さん。いつか必ず復讐する。……そう固く決心しながらも、とりあえず今は買い物を済ませることに集中だ。別に飼い慣らされているわけじゃないからな……本当だぞ?

 買い物かごと買ってくる物のリストを持ち、旧エルナブル公国の街に俺はやってきていた。そう言えばここに連れてこられてから、まともに街にやってきたのは初めてかもしれない。……意外と普通なんだな。俺は、笑いながら会話をする村人達を見ながらそんなことを考えた。この国は俺が魔王討伐に出る少し前……つまり数年前に魔王率いる魔王軍に攻め滅ぼされた地域である。しかし、幸せそうに笑う人々を見ていると本当にそんなことがあったのかと思いたくなるほどこの村は平和そうに見える。


 失礼かとは思ったが……俺は近くで楽しげに話す主婦の一人に話しかける。


「あの、すみません」


「ん、おやあんた……見ない顔だねぇ、旅人かい?」


 主婦の質問に曖昧に答えて俺は続ける。


「あのう……この地域って魔王に攻め滅ぼされたと聞いたのですが……」


「ああ、そうだけど? それがどうかしたかい?」


 俺の質問に主婦はにっかりと笑う。う~んどうしたものか……


「どうして、この街はこんなに活気があるんでしょうか?普通は逆だと思うのですが……」


 これを聞いた主婦は今度は声をあげて笑う。あまりにも大きな笑い声だったので近くにいた俺はビクリと肩を震わせた。驚かせないでほしい。っていうかそこまで面白いこと言ってないのだが……


「新しくこの地域を治めることになった御方がねえ随分と私達に良くしてくださってね。魔物がやって来た時は怖かったけど、あたしら平民は襲わなかったし困ったのはもともとここを治めていた貴族ぐらいだろうねぇ」


「はぁ……」


「それでその貴族ってのがそれはそれは嫌味な奴でさあ、今治めてる御方のがあたし等はいいねぇ、魔王、さまさまってね!!」


「そ、そうなんですか……」


「あ、でもでも、あたしは今ここを治めてる御方を直接見たことは無いんだよ。知ってるのは村長くらいかねぇ……今治めているその人なんだけどね、なんでもすごい醜い魔物だとか、逆にとんでもない美形だとかうわさがあるんだよ」


 主婦のスイッチが入ってしまったのか先程からペラペラペラペラとよくしゃべる。話を始めたのは俺だからそれを聞かないわけにもいかず、俺は空の買い物かごを見て溜息を吐いた。


「きゃあ!!」


 主婦の話を半分聞き流しながらぼーっとたっていた俺の耳に突然一つの悲鳴が聞こえる。そしてそれと一緒にガラガラと不愉快な音を出す馬車の音。俺は反射的にそちらに視線を向ける。

 刹那、目に飛び込んできたのは街の人々を蹴散らしながら猛スピードで道を突っ走る真っ黒い馬車。街の人々は馬車に轢かれないように尻もちをついたり悲鳴を上げたりしながら馬車の通る道から逃げ惑う。


 そんな様子を見ているうちにその馬車はどんどんこちらに近づいてくる。 ヤバい!?このままじゃ俺も引かれちまう!?俺は道の端によって馬車を避けようとした。しかし、一瞬のうちに馬車から延びた黒い霧の様な手に俺は服の首筋を掴まれると勢いよく馬車の中へ引きずり込まれた。

 ゴオオオオオ!!そんな音がして俺とつい先ほどまで話していた主婦の前を真っ黒の馬車が通りぬける。主婦は腰を抜かしてしまっていた。


「ひっ……ひとさらい!!」




***




 勢いよく引っ張られたことで、俺は中にいた人物に思い切りぶつかっってしまう。そんな俺が状況を確認する前に、その中にいた人物によって今度は反対側に突き飛ばされ、閉じられていた馬車の扉に思い切り頭をぶつけた。


「痛っ!!」


 俺はぶつけた頭をさすりながら涙目で相手を睨みつける。その視線を気にもせずに、王女はただ、馬車の窓から移り行く景色を眺めている。


「……いきなりなにすんだよ」


 俺の問いに彼女は全く反応を示さない。……コノヤロウ……俺は怒りで拳に力を込める。そのとき、馬車がぐらりと傾いてまた戻る。そのせいで今度は馬車の天井に頭をぶつけることになってしまった。


「いってええ!! スピード出しすぎだろう!?もっとゆっくり走れよ!!!」


「エミリア、構わん。上げろ」


 彼女の言葉に馬車はよりスピードを上げる。どうやら御者はエミリアらしい。


「なんでだああああああああああ」


 俺の悲鳴も空しく、馬車は風を切る勢いで街を抜けていく。


 あまりのスピードに馬車の振動は考えられないほどのものだ。さすがの王女も少しばかり眉をひそめて、この揺れを耐えている。


「どわっ!!」


 馬車が急にカーブして満足に席にも座っていなかった俺は馬車の壁に叩きつけられる。


「……無事か?」


 さすがに気の毒になったのだろうか、王女がぶっ倒れる俺に言葉をかける。無事なわけないでしょうが!!!

 俺がそう叫んでやろうとすると今度は逆へとカーブする馬車。そうなるともちろん俺の体も…………


「ぎゃあああああ!!」


 今度は反対側へと吹っ飛ばされる。しかし、反対側には王女がいて……


「っ!!」


 俺は王女を巻き込みながら壁に激突した。

 そんなことはお構いなしに馬車は荒々しい走りを続けるため馬車の振動はますます強くなった。もはや立ち上がることさえ不可能だ。


「っ貴様!!」


「俺のせいじゃねええええええええ!!!」


 ガッタン、バッタンと壁にぶつかる王女と俺。もはや前後も左右も分からなくなってきた。頭もぶつけすぎてぐわんぐわんと揺れている感じがする。何でこんなにスピード上げるのか分からんが、とにかく……誰か助けて。



「っく……エ、エミリアッ!! 止め……」


 王女は御者のエミリアに馬車を止めさせようとしたのだろう。だが、王女の言葉は彼女が壁に叩きつけられたことによって途切れる、馬車は止まらない。




 ………………




 どれくらいたったのだろう、悲鳴を上げる元気さえもなくなった俺は流れに身を任せて壁にいいように叩きつけられていた。もはや王女がどうなったとか考える余裕がない。


 と、唐突に馬車が止まる。ギギッと馬車の車輪が奇妙な悲鳴を上げた。そうして俺は……いや、多分王女もだが……最後に思いっきり壁に叩きつけられる。


「っ~~~!!!」


 俺が痛みに悶えていると、馬車の扉が開かれエミリアが涼しい顔で現れる。


「お嬢様、どうやらもう追っては来ていないようでございます」


 エミリアの言葉に王女は「そうか……」と小さく答えると、頭から外れかけていたティアラを元に戻し、服についたほこりを払う。


「おい……誰かに追いかけられてたのか?」


 俺は未だ痛む頭を抱える。そんな俺の耳にエミリアの静かな抑揚のない声が響く。


「お嬢様を狙う魔物が屋敷に襲いかかっておりましたので、馬車で逃げていたのでございます」


「ううっ~~前よりも魔物が積極的すぎないか?」


「これまで、お嬢様は旧エルナブル公国領を魔王様の一族に服属しない魔族・魔獣からお守りしておられました。しかし、この間のフライング・マンティスの襲撃や今回の魔物は今までの魔物と根本的に性質が違うのでございます」


「何が違うんだよ?」


「そもそもこれまでの魔物は魔王族に服属しない魔物でございましたが、今回の魔物は魔王族の……」


 エミリアは俺の疑問に一つずつ丁寧に答えていく。しかし、説明の途中で王女がエミリアを睨みつけたことによって彼女の口は閉ざされた。…………途中で止められるとかなり気になるんだが……


「なんなんだよ?」


 


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