王位と勇者
「なんなんだよ……」
エミリアと王女の顔を交互に見るが、どちらも答えようとはしない。そもそも王女は俺に背を向けている。完全に教える気はないようだ……しかし、そんな俺の疑問を意外な人物が解決することになる。
「見つけましたよ、黒の王女」
「!!」
突然、背後から低くも高くもない男の様で、女の様な奇妙な声が聞こえる。
振り返れば、そこには羽を生やした奇妙な生き物がいる。魔王討伐の際に俺も何度か戦ったことがある…………ガーゴイルだ。 だが、魔王討伐の際によく出会ったガーゴイルとは違い、その容姿は限りなく人間に近い。
一番最初に口を開いたのはエミリアだった。
「こちらは魔王様の第二王女、言葉使いには気をつけていただきたいですね」
今までのエミリアの殺気を魔王に匹敵するくらいって思ってたけど……考えを改める必要がありそうだ。間違いなく今のエミリアの殺気は魔王以上である。
「おや、それは失礼いたしました」
ガーゴイルはエミリアの言葉に大げさに反応すると、深く頭を下げる。その行為を小馬鹿にされていると感じたのか、エミリアはさらに表情を険しくした。小物の魔物ならその表情を見ただけで逃げだすのではないかという感じだが、目の前のガーゴイルはうすら笑いを浮かべている。
しばらく無言で、そんなエミリアとガーゴイルの様子を見ていた王女は頃合いを見計らって、ガーゴイルに口を開く。
「……で、一体私に何の用だ」
その言葉で、エミリアと無言の決闘を繰り広げていたガーゴイルは王女に向き直り恭しく頭を下げる。だが何ともその行為がわざとらしくて引っかかる。
「王族の方にお声をかけていただけるとは、私ゲルシュ・スワン、幸福の極みでございます」
ゲルシュと名乗ったガーゴイルはニタニタと形容するにふさわしい何とも気味の悪い笑みを浮かべて下げていた頭を上げる。それだけの行為なのだが、辺りの空気が淀んだ様な気がするのはきっと気のせいではない。
「ふん、御託はよい。何用だ」
「黒の王女様は何とも気が早いですねえ……おや、そう言えば王位継承争いには参加しないとおっしゃっていましたっけ……では黒姫様とでもお呼びしましょうか……」
王女の問いに答えるわけでもなく無駄な言葉を紡ぐゲルシュ……所々分からない単語が出てくるが、王位継承と言うことは、魔王族の中でのごたごたと言うことだろうか?
訳も分からず事の成り行きを見ていると、突然エミリアが、ゲルシュとの距離を詰めそのまま彼の首を締めあげ始める。
「お嬢様にこれ以上の失礼は許しません」
遠くから見ていても、ぎちぎちと首が締めあげられているのが分かるがゲルシュは気味の悪い笑みを崩さずに続ける。
「……ふふふ、許さなければどうなさるおつもりで? 言っておきますが私は魔王族の護衛程度では殺せませんよ? 伊達にガーゴイル族を束ね、人間達から魔界貴族と呼ばれているわけではありません。……今回、黒の王女様をお尋ねした理由ですがね……我が主によって命じられたからなのですよ。【黒の王女を殺せ】とね」
ガーゴイルは、一瞬のうちにエミリアの手から抜け出すと、王女の前にまで迫る。
「ですので……黒の王女、死んでください」
ゲルシュは、自分の尻尾を槍のように王女に向かって突き刺した。
「それは無理な頼みごとだ」
王女は黒い霧で巨大な盾を作り出し槍の様な尻尾を跳ね返す。
「すばらしい、さすがは魔王様の娘と言いましょうか。殺しがいがありそうです」
ちょっと待てえぇぇ!!俺を差し置いて目の前で王女と魔物の争いが始まる。訳が分からん。ゲルシュと言う魔物は見る限り魔王には忠誠を誓っているようだが、その娘である王女を襲っている。しかもそれは自分の主の命令だってぬかしていた。
じゃあ、その主は一体誰だ?
「って……うわわっ!!」
状況を読まずに考えにふけっていたのがまずかったのだろうか……黒い影のような腕が伸びてきて俺を王女の方に引き寄せた。つまり俺も戦いに巻き込まれる羽目になったということだ……
「なんてことすんだ!!」
王女の作りだした巨大な盾に隠れてゲルシュの攻撃を避ける。と、彼女から一本の剣を渡された。……戦えってことか?すごく嫌なんだけど……
「奴は魔法を得意とする種族であるが魔法に対する耐性が弱い……貴様なら何とかできるであろう?」
いやいや……なんとかって……無理だよ……ああっ!!だからそんなに押さないでっ!!盾からはみだしちまうって!!
俺の抵抗も空しく、思い切り突き飛ばされて安全な盾の裏から追い出されてしまった。鋭い尾を何度も何度も盾に叩きつけているゲルシュの顔は何とも楽しそうだ。……どうしよう、とりあえず魔法で相手の出方を探ってみるか……
「我に宿りし聖なる光よ、闇を祓いて光を満たせ―――威光」
魔法の詠唱が終了するとゲルシュに光の球が向かう。その光の球はゲルシィを思い切り吹き飛ばした。
「~っ……油断、油断……魔法を詠唱しなければ使えないような人間風情の攻撃を受けてしまうとは……」
人間と違って魔物は詠唱をしなくても魔法が使えるのは当たり前である。だから魔物達は魔法の使える人間―――主に魔法使いだが―――を馬鹿にして下に見る傾向が強い。
「何とでも言いやがれ!!―――威光」
「そう何度も人間の魔法攻撃を受ける気はありませんよ?」
俺が魔法攻撃をする前にゲルシュは俺の背後に回り込む。久しぶりにちゃんと魔物と戦う気がする……感覚とか、なまってなければいいんだけど……
「誰が魔法だけだっていったよ?」
手に持った剣をゲルシュの気配のする方に振る。確かな手ごたえとともにゲルシュの呻き声が聞こえた。
「っぐ……がはっ」
俺から素早く距離をとったゲルシュは脇腹を押えて苦痛の表情を見せた。おさえている手の間から血がどろりと流れ出てくる。
「貴方は……まさか、魔王城の地下に閉じ込められていた勇者ですか?……くっ……黒の王女が牢獄から連れ出したとうわさには聞いていましたが……」
ちらりと王女に目を向けるゲルシュ。しかし、王女は盾に隠れて見えないため彼女の表情をうかがい知ることはできない。
「う~ん……これはピンチですかねぇ……」
へらへらと笑うゲルシュは内心ではかなり焦っているのだろうか、先程までと違ってうかべている笑みがぎこちないものに変わっている。そんな彼へさらに追い打ちをかけるように一つの火球が脇をかすめる。火球が着弾した場所は巨大な爆発音とともにあとかたもなく消えた。……誰の仕業かと問われれば、もちろんエミリアの仕業である。
「力の差が分からないのでしょうか……あなたはもう詰んでいるのでございます」
エミリアは血のように赤い瞳でゲルシェを見つめている。
「……やはり恐ろしい御方ですね、黒の王女様。 実の父に刃向かった勇者を下僕に迎え、恐ろしい力を持つ魔族を護衛に持つ……やはり、金の王女ではなく黒の王女の傘下に入ればよかったですねえ……」
肩を震わせながら笑うゲルシェ。何か知らないが……よく分かんない単語を使用しないでいただきたい。俺だけ蚊帳の外状態になるからさぁ。金の王女って何?
ゲルシェの言葉に巨大な盾から姿を見せた彼女は自分の長い黒髪を手で払うとゲルシェの方を見もせずに口を開いた。
「……貴様などいらぬ」
「あはは……そうでございますか。……では私はこれにて退散させていただきましょう」
ゲルシュはそう言うか言わないかのうちにどろりと黒い塊になるとその場から消えた。ってか何? 全然分かんないんだけど……屋敷を襲って、馬車を追っかけてまで王女を殺そうとしたのにこんなに呆気なく終わるって……しかも笑いながら。ちょっと悔しそうにしながら、とかなら分かんなくもないんだが……笑いながらって……しかも傘下に入りたいとか殺そうとした相手に普通言うか? 魔族の感性って本当によくわからん……もしかして笑いながらお互い殺し合いしたりするのが常識だったりするのか? そんで、散々ボロボロになった後に「我が最高の宿敵よ」的なこと言うのが普通?
「ってか、逃げちゃったけど良いの?」
「……構わん、奴ならまた来るだろう」
それで良いのか? 逆にまずいんじゃ……
***
その後屋敷に帰ってきた俺は言葉を失った。だって屋敷が半壊してるんだもの…………これが普通……なの?
グデグデのカスイ文章ですが楽しんでいただけたならうれしいです。




