姉妹と勇者
「闇を切り裂くは聖なる風!!―――風裂波」
素早く詠唱をして魔法を指先から展開させ、風の様に勢いを持った魔法を向かってくる怪物に放った。しかし、怪物はその攻撃をあざ笑うかのように楽々とその魔法を避けてしまう。
あのスピードは反則じゃないか!?
【グゴオオオオ!!】
怪物は攻撃をした俺の方には目もくれず、少し離れたところでたたずんでいる王女へと向かっていく。怪物と王女の間はかなり距離があったように見えたが、怪物のでたらめな脚力により、もう王女の目の前までその巨大な口を開いて迫っていた。
【グギャアアッ!!ギェエエエエ!!!】
勝ち誇るかのように雄叫びをあげた怪物。しかし次の瞬間それは悲鳴に変わる。
王女に突進する直前、王女の前に現れた巨大な盾によって進行を阻まれたからである。しかもその盾……普通のものではない。側面には鋭い棘がいくつも付けられていて、勢いよくそれに突進した怪物の皮膚を突き破っている。
こみ上げる吐き気を必死で押さえながら、俺は化け物を完全に始末するため魔法を唱える。
「我に宿りし、怒りの雷よ、敵に聖なる鉄槌を与えん―――光撃」
【グギャアオオオオオアアア!!】
怪物は、棘に貫かれた体を捩らせ、悲鳴を上げながら息絶えた。
「おおっ!!さすがは勇者と黒の王女……まさか今の怪物を倒されるとは、感服いたしました」
近くで何をするわけでもなく怪物と俺たちの争いを見ていたゲルシュはわざとらしい動きで、俺達に腰を折る仕草を見せる。改めて思うが、やはり魔物の考えていることは分からない……仲間が串刺しにされたこの光景を見ても全く表情を変えないのはどうしてだ?
ゲルシュは相変わらずニタニタと笑いながら、両掌を空へ向け困ったっと言わんばかりに溜息を吐いた。
「私の予定では今頃お二方ともに肉片になっている予定だったんですがねぇ……ま、私がお相手してもよろしいですが……我が主がそろそろ我慢の限界のようです」
パチンとゲルシュが指を鳴らすとそれまでの真っ暗な空間から屋敷の見なれた大広間に辺りの景色が戻った。古ぼけたギロチンもそのままで、少しだけ安堵する。
「よそ見していて良いのですか?」
少し気が抜けていたのだろうか、ゲルシュの声が耳に届くまで、俺は背後の敵の存在に気づくことができなかった。
ガツンっと鈍い衝突音が背後でする。急いで振り向けば、人の形をした巨大な岩がこちら側に拳を振りおろしておりそれを巨大な盾が防いでいた。俺は急いでその場から離れ体勢を立て直す。
しばらく、何度も同じように自分の拳を盾に振り下ろす巨大な岩人間。それが生み出す衝撃は、巨大でぶ厚い盾をひしゃげさせ、最後には破壊してしまった。
「おいおいっ!!マジかよ!?」
「……ソフィアか」
王女の視線がある一点を見つめていることに気が付いた俺は、王女と同じ方を見る。 と、そこには小さな少女の姿があった。髪の色は艶やかな金で、長いそれを後ろで二つにまとめて、尻尾のように垂らしている。眼も髪と同じ金で、その瞳には何の感情も宿していないように見え、そのせいでせっかく愛らしい容姿も、冷たい人形のようだ。
手にはボロボロの人形を持っているため何やら気味が悪い。
「……黒の王女、今日こそは息の根を止める」
小さな少女が物騒な言葉を呟いた直後、狂ったように盾を破壊していた岩人間が、こちらに襲いかかってきた。あの拳を一撃でも受けたら……恐らくこの世とおさらばだ。
「貴様自らやってくるとは、優秀な家臣に恵まれておらぬのか?」
「黙れ!!」
王女の言葉に短く返す金髪の少女。岩人間は少女の怒りを感じ取ったかのようにスピードを上げてこちらに襲いかかってくる。
「おいっ!!どうすりゃいいんだよ」
「……ふむ、あれはゴーレム、この状況で勝てる相手ではないな」
「おいいいいっ!!さっさと逃げなきゃ、まずいだろ!!」
勝てる相手じゃないんだったらさっさと逃げなきゃいけないじゃないか!!何でこんなところにぐずぐずしてるんだよ!!
「ん? ああ、一つ思いついたことがあってな」
「え?」
聞き返す暇も無く、こちらに迫ってきていたゴーレムが、突如、盛大に前のめりで倒れてしまう。その衝撃で地震かと思うほどの揺れが辺りを襲ったが、ゴーレム自体が襲ってくるよりはるかにましだ。
「なっ!?いきなりなんだ?」
あまりにも唐突な出来事に、間抜けな声が出てしまう。ふとゴーレムの倒れ込んだ辺りを見ると、ゴーレムの足に黒い霧でできた紐が絡まっている。
まさか……
「ふふん、間抜けめ」
やっぱり、王女だよね ……にしてもゴーレムはなかなか起き上がることができないでいる。なんでだ?やっぱり図体がでかいと起き上がるのも一苦労ってか?
「プッ!!グフフフヒャハ」
近くで様子を見ていたゲルシュが笑いをこらえながら―――あんまりこらえられてないけど―――手を叩く。そんなゲルシュを少女は一睨みすると、大きく息を吸って、静かにゴーレムへと命じた。
「起きろ」
少女の命令で今まで間抜けにもがいていたゴーレムが嘘のように、いとも簡単に起き上がる。なんでか知らないが……非常によろしくない状況だ…… ちらりと横の王女の様子を窺うと、うっすらと笑みを浮かべている。……まだ何か策でもあるのか?
「……一つよいか? ソフィア」
「その名で呼ぶな!! 黒の王女」
追い詰められているのはこちらなのだが、ひどく落ち着いている王女。むしろ少女の方が怒りで冷静さを失っている。
「足元をよく見てみるがよい」
「っ!?」
少女が王女の言葉に素早く足元に目けながらその場を跳び退こうとしたが、その途中、足元には何もないことに気が付いた。少女がその理由に考えが至る前に、少女の飛び退いた方で待ち構えていた、影人間に手刀を入れられたことによって彼女の思考は暗闇に落ちてしまった。
「ふふん……甘いな」
「何すんのかと思ったら……だまし討ちかよっ!!」
妹です。名前はソフィア。
実はたった今、勇者の名前が未だに決まっていないと言うことに気が付いてしまった。見直してみると貴様とか、おい、って呼ばれている主人公。…………スマソン




