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宮古島ブルー  ~腰痛と牛乳に泣いた夜~   作者: 春凪とおる


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第四話 巡る風景

東京に戻ってから、下見映像を編集した。

「とにかく青を強めに」と言われていたから、宮古島ブルーをたっぷり入れた。


橋の上から見える海。

白い砂浜。光る波。

遠浅の透明な水。


誰もが期待する、圧倒的な青。

けれど、それだけでは終わらせなかった。


映像の冒頭に、朝の牧場を入れた。


暗い牛舎に光が差す。

牛のまつげが揺れる。

ミヨの手が瓶を並べ、白い牛乳が注がれる。


その白が、次のカットで波の泡につながる。

泡は砂浜を滑り、画面いっぱいに青が広がる。


青だけではない島。

白があるから、青が見える。


俺は、そんなことを考えながら、映像を並べた。


試写の日、クライアントは最初、少し戸惑った顔をした。

牧場から始まるんですね」


上司が横で気まずそうに笑った。

リテイクもありうると覚悟もしていたが、

クライアントは、画面を見つめたまま言った。


「でも、いいですね。海だけより、朝が来る感じがします」

その言葉に、俺は胸の奥で小さく息を吐いた。


映像は大きな賞を取ったわけではない。

再生回数が爆発的に伸びたわけでもない。


会社での評価が劇的に上がったわけでもない。

ただ、完成した映像をミヨに送ると、数日後に短い返事が来た。


「牛が美人に映っていました。海もちゃんと青かったです」


その一文を見て、声を出して笑った。


腰痛は、まだ治っていない。

病院にも行ったし、椅子も替えてみた。


朝に少しストレッチをするようになった。

それでも雨の日や忙しい日には、腰の奥が重くなる。



窓の外には東京の灰色の空が広がっていた。

宮古島ブルーはどこにもない。


けれど。

自分の中には、あの海の色がまだ残っていた。


青は、遠くにあるだけではない。

一度見た青は、体のどこかに沈む。


痛む腰の奥にも。

忙しい日々の隙間にも、白い牛乳の記憶の中にも、静かに残る。


俺は、苦笑しながら立ち上がり、台所へ向かった。

冷蔵庫の扉を開けると、牛乳パックが静かに冷えていた。


その白を見たとき、また宮古島の海を思い出した。

どこまでも澄んだ、あの青を。


そして。

青の手前にあった、やわらかな白を。


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