第六話 告げられた未来
王宮の一室。
柔らかな光が差し込む中、
リディアは静かに呼び出されていた。
「失礼いたします」
一礼し、室内へ入る。
そこにいたのは――
王妃と、王女アリアナだった。
「よく来てくれたわ、リディア」
王妃が優しく微笑む。
その声音は穏やかで、場の空気も柔らかい。
だが――
どこか、いつもと違う。
リディアはその違和感を感じながら、もう一度頭を下げた。
「お呼びと伺い、参りました」
アリアナが一歩、前に出る。
その表情は、少しだけ真剣だった。
「リディア」
名前で呼ばれる。
その時点で、ただ事ではない。
リディアは顔を上げる。
「はい」
アリアナは一瞬だけ言葉を選び、
そして――
「婚姻の話が出ているわ」
その一言で、世界が止まった。
「……え?」
思わず、声が漏れる。
理解が、追いつかない。
王妃が静かに続ける。
「相手は――」
一拍。
「ヴァルディーク公爵家のカイル」
その名前に、胸が大きく鳴った。
「……カイル様」
思わず、口に出る。
自分でも気づかないうちに。
アリアナは、その反応を見逃さなかった。
「驚くのも無理はないわ」
穏やかに言う。
「でも、これは王家としての判断でもある」
その言葉に、リディアは息を呑む。
王家の判断。
つまり――
断ることは、難しい。
だが。
(……どうして)
混乱の中で、一つだけはっきりしている。
嫌ではない。
むしろ――
胸の奥が、熱くなる。
あの言葉。
あの距離。
あの視線。
すべてが、蘇る。
「選ばせるつもりはありません」
その声が、耳に残る。
リディアは、ゆっくりと目を閉じた。
(……私は)
考える。
逃げるか。
受け入れるか。
違う。
そうではない。
「……お受けいたします」
気づけば、そう言っていた。
静かに。
だが、はっきりと。
自分の意思で。
アリアナが目を見開く。
王妃は、わずかに微笑んだ。
「理由を、聞いてもいいかしら」
優しい問い。
試すものではない。
確かめるもの。
リディアは、目を開ける。
その瞳は、もう揺れていなかった。
「……逃げたく、ありません」
小さな言葉。
だが、強い。
「そして」
一拍。
ほんのわずかに頬が熱を帯びる。
「カイル様のお傍に、いたいと……思いました」
静かに、告げる。
その言葉に、部屋の空気が変わる。
アリアナが、ふっと笑った。
「やっぱりね」
どこか楽しそうに。
王妃も、穏やかに頷く。
「そうでしょうと思っていたわ」
リディアは、少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
「え……?」
アリアナは肩をすくめた。
「見ていれば分かるもの」
軽く言う。
「あなたたち、分かりやすすぎるのよ」
その言葉に、リディアの顔が一気に赤くなる。
「……そ、そんな」
否定しきれない。
その様子に、王妃はくすりと笑った。
「安心なさい」
優しく言う。
「これは、あなたの意思でもあるのだから」
その言葉に、リディアは小さく頷いた。
胸の奥が、静かに満ちていく。
不安は、消えていない。
だが――
それ以上に。
(……嬉しい)
その感情が、はっきりとあった。
リディアは、そっと手を握る。
もう迷わない。
その先にいる人が、分かっているから。
こうして――
彼女の未来もまた、
静かに、しかし確かに
決まったのだった。




