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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第九章 王家の判断

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第五話 正式な申し出

王宮の一室。


重厚な空気の中に、新たな気配が加わった。


扉が静かに開く。


一人の青年が、迷いなく足を踏み入れた。


カイル・フォン・ヴァルディーク。


その姿に、室内の視線が一斉に向く。


王。


王妃。


皇太子。


王弟。


宰相。


そして――


アルヴェルン伯爵とレオン。


すべてを前にしても、カイルの足取りは揺らがない。


一歩進み、深く一礼する。


「ヴァルディーク公爵子息、カイル」


静かな声。


だが、その場にしっかりと響いた。


顔を上げる。


迷いはない。


そのまま、まっすぐに告げる。


「本日は、申し上げたきことがあり参上いたしました」


形式を踏む。


だが、回りくどくはしない。


一拍。


そして――


「アルヴェルン伯爵令嬢リディア嬢を」


視線が、まっすぐに王へ向く。


「妻として迎えたく、申し上げます」


その言葉は、明確だった。


遠回しではない。


逃げもない。


ただ、真っ直ぐな意思。


室内に、静寂が落ちる。


レオンが息を呑む。


伯爵は動かない。


ただ、カイルを見ている。


王は、しばらく何も言わなかった。


その視線は鋭く、すべてを見極めるようだった。


やがて――


「よい」


短く、告げる。


それだけだった。


だが、その一言で空気が変わる。


カイルの瞳が、わずかに揺れた。


ほんの一瞬だけ。


王は続ける。


「すでに話は通っている」


静かな声。


「問題はない」


その言葉の意味を、カイルは理解する。


(……決まっている)


一瞬、思考が止まる。


だが――


すぐに戻る。


そして、静かに頭を下げた。


「……ありがたく、お受けいたします」


それは、従う言葉ではない。


自分の意思として受け取る、という意思表示だった。


その姿に、王妃が柔らかく微笑む。


皇太子も、小さく頷いた。


王弟アルベルトは、わずかに目を細める。


(……いい)


内心で、小さく呟く。


逃げず、引かず。


それでいて、礼も崩さない。


(それでいい)

王弟は、わずかに目を細めた。


王はゆっくりと頷く。


「アルヴェルン伯爵」


視線が向く。


伯爵は一歩進み、深く一礼する。


「は」


「異論はないな」


短い確認。


伯爵は顔を上げる。


その目は、静かに強かった。


「……ございません」


はっきりと答える。


だが、その声には父としての意思が乗っていた。


「娘の意思を尊重した上であれば」


一言、添える。


王はそれを受け、ゆっくりと頷いた。


「当然だ」


その一言で、すべてが整う。


レオンは静かに息を吐いた。


緊張が、少しだけ解ける。


だがその視線は、カイルへ向いていた。


(……この人が)


姉の隣に立つ男。


その覚悟を、今、見た。


カイルは顔を上げる。


その瞳には、迷いはない。


すでに、決めている。


与えられたからではない。


自分で、選んだ。


「……必ず」


小さく呟く。


誰にも聞こえない声。


だが、その意思は確かだった。


すべては――


ここから始まる。

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