エピローグ その先の食卓
穏やかな昼下がり。
ヴァルディーク公爵邸の庭には、やわらかな陽光が降り注いでいた。
白いテーブルの上には、彩り豊かな料理が並んでいる。
焼きたてのパン。
香草を添えた肉料理。
季節の果実を使ったデザート。
どれも、手をかけて作られたものだった。
「こちらも、どうぞ」
リディアが穏やかに微笑みながら皿を差し出す。
向かいに座るのは、王女アリアナ。
その隣には、皇太子レオナルトとクラリスの姿もあった。
「……本当に、見違えましたね」
クラリスが感心したように言う。
「王宮だけでなく、公爵邸までここまで整えるなんて」
リディアは少しだけ困ったように笑う。
「皆様が協力してくださるおかげです」
その言葉に、料理長とセドリックが少し離れた場所で苦笑した。
「謙遜が過ぎますね」
「まったくだ」
穏やかな笑いが広がる。
その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。
カイルである。
腕を組み、静かに全体を眺めている。
リディアと目が合う。
ほんの一瞬。
それだけで、十分だった。
リディアは小さく微笑む。
カイルも、わずかに目を細める。
言葉はいらない。
すべては、そこにある。
その時、アリアナがふと楽しげに言った。
「本当に、不思議ですわね」
「一人の侍女から、ここまで広がるなんて」
リディアは一瞬だけ目を伏せる。
そして、顔を上げた。
「……皆様が繋いでくださったものです」
その言葉は、静かだった。
だが、確かだった。
カイルが、ゆっくりと歩み寄る。
そして、自然にリディアの隣に立つ。
距離は近い。
もう、それが当たり前のように。
「では」
カイルが静かに言う。
「そろそろ、次を考えましょうか」
その言葉に、周囲がわずかに興味を示す。
リディアは首を傾げた。
「次、ですか?」
カイルはわずかに口元を緩める。
「ええ」
「まだ、広げられるでしょう」
その視線は、リディアへ向けられていた。
リディアは、ほんの一瞬だけ驚いたように目を瞬かせる。
そして――
ふっと笑った。
「……はい」
迷いなく頷く。
新しい挑戦。
新しい食卓。
その中心には、これからも二人がいる。
穏やかな風が、庭を通り抜ける。
笑い声が重なり、
温かな時間が流れていく。
この先もきっと、
食卓は広がり続けるだろう。
人を繋ぎ、
心を満たしながら。
そして――
その隣には、いつも。
変わらずに、
寄り添う人がいる。




