895話 サボテン登り
「ヤヤ!」
「ファウ! たのんだぞー」
「ヤー!」
十階建てのビルくらいはありそうな巨大サボテンの頂上に存在していると思われる、金色卵。それをファウに採取してもらおうと考え、送り出したんだが――。
十数秒後。
ドン!
爆発音とともに、サボテンの頂上で爆炎が立ち昇るのが見えた。ファウが、炎聖召喚を使ったのか? ということは、サボテンの上に敵がいた?
数秒後、今度は巨大な岩石が空中に浮遊し、その後サボテンの頂上目がけて撃ち出される。間違いなく、ファウが何かと戦っているようだ。
奥義を二連発するってことは、余程強い敵がいるのだろう。というか、あいつ勝手に奥義使ったな。え? 自分の判断でぶっ放したってこと?
自由度上昇ってスキル手に入れてから確かに自由になった気がしてたけど、これもそういうことなのだろうか。
いや、戦闘が下手な俺よりも、モンスたちが自己判断で使う方がいい気もするけど……。俺に一言相談あってもよくない?
「ヤヤー!」
「ファウ! ど、どうした?」
「ヤー!」
戻ってきたファウが俺の胸に飛び込んで、半泣きでサボテンの頂上を指さす。まるで、いじめられた子供が告げ口しているような感じだ。
「もしかして、奥義使っても倒せなかったのか?」
「ヤー!」
いやいや、炎聖召喚と地魂覚醒を連発しても倒せないって……。絶対に雑魚敵じゃないじゃん!
「ここ、登れって?」
「ヤ!」
「……とりあえず、メルムとリリスも一緒に、様子見に行ってくれないか?」
「ヤー……」
「そんな目で見るなって! 上に行くの大変なんだから!」
サボテンを上るには、針を足場にしてよじ登っていく必要がある。丸みがある上に表面がツルツルなので、ロッククライミングみたいな登攀ができないのだ。
もっと小さいサボテンを上るだけでもメッチャ大変だったんだぞ? こんな巨大サボテン、絶対にクライミングしたくないのだ。
ああ、俺が登るか悩んでいるのは、針を降らせてくるサボテンとは違うタイプのやつだ。針の数が少ない代わりに一本が太く巨大なタイプのサボテンなので、登っている最中に刺さるってことはまずない。
「ヤー!」
「ニュー!」
「デービー!」
ファウに引き連れられたメルムとリリスが、勇んで出撃してから十数秒。竜巻が立ち昇り、闇が何度も瞬く。やはり戦闘をしているな。
だが、すぐに3人が戻ってきた。
「って! リリス! 針! 針刺さってるじゃないか!」
「デビー……」
慌てて針を抜き、HPを回復させる。悔しげなリリスは痛がる様子もなく、サボテンの上を睨みつけていた。
目力が強いグルグルオメメのリリスがやると、迫力あるね。相手を呪えそうな感じだ。
「そのリアクションってことは、倒せなかったのね?」
「デビ!」
「ニュー!」
「ヤヤー!」
リリスもメルムもファウも、メチャクチャ凛々しい表情をしている。いや、メルムは相変わらずポヨポヨホワホワだけど。
リベンジをする気満々なのだろう。
「仕方ない……。上るか」
ただ、垂直な崖みたいなサボテンをクライミングするのは無謀すぎる。どうも、奥の方に生えている背の低いサボテンから、段々になっているっぽいのだ。
あちらから進めば、少しは楽だろう。キャロも一緒にいけるしね。
「じゃ、いくぞ」
「ヤー!」
「ヒヒーン!」
夜のサボテンの森を、ゆっくりと歩いて進む。実は、キャロが月魔術を使っているのだ。レベルアップで覚えたそれは、初期から使えていた透明化をパーティ全員に与えるというものだった。
相変わらず激しい動きをしたり、攻撃をすれば解除されてしまうが……。パーティの姿を隠せるというのは、メチャクチャ強いよね。
「お前ら、絶対に動くなよ?」
「ヤ!」
「デビ!」
「フマ!」
悪戯っ子たちに釘を刺すと、勿論だという感じで頷き返してくる。本当か? 飽きてきたらなんかしでかさないか?
「ヤヤ」
「デビ」
「フマ」
「……信じるからな」
どいつもこいつも、綺麗な目をしてやがるぜ。
その後はモンスたちがやらかすようなこともなく、俺たちは段々となって連なるサボテンを半ばまで上ってきた。
サボテン同士の段差が小さく、非常に上り易かったのだ。ただ、ここで不測の事態が起こってしまう。
「ブシュ?」
「ちょ、それに触っちゃだめだー!」
まさか。ノーマークだった野衾がやらかすとはね!
見たことがない黒い花のサボテンを見つけて、ちょっかいを出してしまったのである。このサボテン、採取ポイントではなくフィールドトラップ扱いのサボテンだった。
今は透明化しているからスルーされたが、本来は近寄った相手に針を飛ばして攻撃してくるトラップなのだ。
当然、直接触れば反応して攻撃してくるし、トラップの攻撃を食らえば俺たちの透明化も解除されてしまう。そして、透明化が解けてしまった以上――。
「グゲェェェ!」
「見つかった! アンデッドコンドルどもだ! みんな、上に注意!」
あとちょっとだったのに!




