894話 サボテンの森
砂漠を進むこと30分。
砂のランプのお陰で、なんとか最初の砂漠地帯を抜け、次のエリアに歩を進めることができていた。遠くからでも目立っていた、巨大サボテンの森である。
足元はただの砂地から、岩や石が多い荒地へと姿を変え、樹木の代わりに大小のサボテンが生えている。出現する敵もガラリと姿を変えるので、警戒が必要だ。
特に危険なのが――。
「針が降ってくる! みんな気を付けろ!」
「ヒム!」
「ムム!」
「おー! 2人とも助かったぞ!」
サボテンの森では、頭上の巨大サボテンから時おり針が降ってくるのだ。これが結構な威力なうえに毒があるらしく、死に戻りの原因第一位であるらしい。
砂のランプも通用しないので、常に上を警戒している必要があった。しかも、上にばかり集中していると、今度は足を掬われてしまうこともある。
「うぎゃ! やられた! ちょ、助けて!」
「フマー!」
「デビー!」
俺は、突如陥没した地面に膝まで呑み込まれてしまう。さらに引きずり込もうと、下へと引っ張られている。
即座にアイネとリリスが俺の両手を掴んでくれなければ、首まで砂に呑まれていただろう。
「ムムー!」
「ヒムー!」
「おおおお! もう少しだ! 頑張って! マジで!」
オルトとヒムカも、俺の腕を引っ張るのに加わってくれた。
「ヤーヤー! ヤーヤー!」
ファウの演奏と応援が皆を鼓舞し、いつの間にか綱引きのように一丸となって俺を引っ張っている。
十数秒後、なんとか俺の体は地面の上へと引きずり出されていた。いやー、生きた心地がしなかったぜ。
そんな俺の足首には、黒い何かががっちりと噛みついている。
「ヒ、ヒムー!」
ヒムカが悲鳴を上げて、跳び退った。さっきまでは頼もしかったのに。まあ、ヒムカがこんな反応をするのも仕方ないが。
巨大な顎からは謎の体液が垂れ、ぷっくりと丸い体から生えた細い六本の手足が、カサカサと動いている。
こいつの名前はヒトジゴク。アリジゴクのデッカイ版だな。ヒムカが一番嫌いそうな姿だった。
大型犬ほどのサイズで、地面に罠となる穴を掘って隠れている。そして、罠にかかった相手を引きずり込んで、溶解液と顎で殺してしまうという、なかなか恐ろしい設定のモンスターだった。
実際、俺も結構なダメージを受けている。ただ、地面の上に引きずり出されると動きが鈍るらしく、こうなってしまえば敵ではない。
「ブシュー!」
「ニュニュー!」
「デービー!」
野衾が逃げられぬように雲糸で固定し、メルムとリリスの攻撃が止めを刺した。姿を視認するまで面倒な分、防御力やHPは低めなのだろう。
「みんな、助かったぞ。上ばかりじゃなくて、足元も注意していこう」
「ヒム!」
ヒムカが今までで一番ってくらい真剣な顔で頷いた。自分がヒトジゴクの罠に引っかかった時のことを考えて、絶対にそうはなりたくないと思ったんだろう。
その後、ヒムカがそれなりに大変な目に遭いながら、俺たちはサボテンの森を歩き回っていた。実は、ここでゲットしたいアイテムがあるのだが、未だに発見できていなかった。
「金の卵なんて、どこにもないな」
「ムムー」
俺たちが探しているのは、鳥の卵である。金色卵というアイテムが、永久氷河や天望樹の実と同じ、クリアのためのお助けアイテムであるらしいのだ。
名称:金色卵
レア度:8 品質:★7
効果:使用者の空腹を40%回復させる。使用者に30分間、防塵を与える。
名称:ゆで卵・金色卵
レア度:8 品質:★4
効果:満腹度を25%回復させる。使用者に40分間、防塵、酸耐性・大、砂の民を付与する。
こんな感じの効果である。ボスが引き起こす砂嵐と酸性雨を防ぐ能力に、砂の上で戦う時に様々な有利なバフが与えられる砂の民。相変わらず攻略必須アイテムだね。
俺たちの実力じゃ、これがなきゃまずボスには勝てない。ボスの前にモンスターの波状攻撃を乗り越えなきゃいけないらしいので、それ以前の問題なんだが……。
ともかく、金色卵がなければ話にならないので、今回はそれをゲットしたいと思っていた。でも、たまに見つかるのは、黄色の卵ばかりだ。紛らわしい! しかも、この黄色い卵も光ってやがるのだ。
最初に、岩の間にある鳥の巣の中に黄色く光る卵を見つけた時は、超喜んじゃったよ。
「金色って以外にヒントが少なすぎるんだよな」
「ムー」
コクテンたちは戦闘メインというか、戦闘にしか興味がない。それ故、採取物はとりあえずインベントリに入れておいて、最後に確認するスタイルであった。
そのせいで、金色卵をどこでゲットしたのか、詳しく分からないらしい。ログを確認したことで、サボテンの森の奥地ということだけは分かっているそうだが……。
コクテンたちは昼から深夜までずっとサボテンの森を彷徨ったらしく、どの時間にどの場所にいたかが正確には分からないという。
「もう夜だし、敵が強くなる前にそろそろ帰りたいな……」
「ヒム」
「力強く頷くなぁ」
「ヒムム!」
サボテンの森は、夜になると難易度が格段に増す。他のフィールドでも夜はモンスターが強くなるが、ここはそれだけではない。
視界が悪くなることで、針の雨や、ヒトジゴクの罠を見破りづらくなるのだ。ヒムカも帰りたそうだし、今回はこの辺で終了か?
とりあえず、夜用にメンバーを入れ替えよう。まあ、ヒムカをキャロに代えるだけだが。逃げ足確保と、月魔術に期待しているからね。
大喜びのヒムカと入れ替わりで、キャロが姿を現す。
「いざという時は頼むぞ、キャロ」
「ヒヒン!」
そんなことを話していると、不意に足が砂に取られた。またヒトジゴクか! そう思ったら違っていた。
砂のランプの効果時間が切れたのだ。ここまではこうなる前に再使用していたんだが、今回は夜になったせいで少し焦っていてランプに気が回っていなかった。
「ランプに魔石を――」
「ヤヤー!」
「ど、どうしたファウ? て、敵か?」
「ヤー! ヤヤ!」
「ちょ、上? 上に何かあるのか?」
ファウに髪を引っ張られるようにして上を向く。すると、巨大サボテンの頂上から金色っぽい光が放たれているのが見えた。ランプの光が消えたことで、見やすくなったらしい。
「あれってもしかして――」
「ヤー!」
黄色か金色かいまいち分からんが、あんな採取しづらい場所にあって、普通のアイテムなんてことある? いや、ないはずだ!
「ファウ。採取頼めるか?」
「ヤー!」




