891話 名探偵シャーロット
名探偵シャーロットメインのムービーが、プレイヤーたちのウィンドウに映し出される。この船に乗船中のプレイヤー全員がこれを見ているだろう。
「ふむ。本当にモンスターが犯人なのか? あの位置に牙を一本だけ突き立てられるとなったら、恐ろしく巨大なモンスターだぞ? だとすると、角か?」
名探偵シャーロットは、この時点ですでに違和感を覚えているらしい。
「少し探ってみるか」
ムービーの中で、シャーロットが船内各所を歩き回ってNPCたちに声をかけていく。怪しい人影を見なかったかなど、人探しに重点を置いている。
どうやら、殺人犯はホワイトホーンラットではないと考えているようだ。歩きながら独り言を呟き、考えを纏めていくシャーロット。
あ、俺も出てるね! 何も分かってないのが丸分かりの表情してるな! 普段の俺って、あんな間抜けな表情してるの? 完全に、名探偵の引き立て役のMOBだ。
もっとダンディさんのつもりだったのに!
「背中の傷は太い牙や角に刺されたような傷。しかし、ホワイトホーンラットの角は細い針タイプ。サイズがおかしい」
言われてみたらそうだ! イベントが進行してるっぽいし、全然疑問に思わんかった!
さらにシャーロットの推理と捜査が続く。
彼女は掲示板も活用しながら、網の壊れた空調穴を巡っていった。各空調穴にはNPCが1人立っているようだな。船長室の、副船長枠なのだろう。
実際、食べ物で誘き寄せる作戦を実行すると、出現したホワイトホーンラットをその場のNPCが瞬殺した。
シャーロット自身はホワイトホーンラットと戦うことはせず、むしろ穴の横に立つNPCの顔を見ている。
そのまま船内をさらに歩き回った彼女が、なにやら1人の女性の前に立った。そして、決め顔で宣言する。
「犯人はあなただっ!」
え? いきなり? 何この展開!
驚く俺――というか、見ているほとんどのプレイヤーが驚く中、名探偵シャーロットが見覚えのあるNPCにビシッと指を突きつけていた。
「な、何の事かしら? 船長はモンスターに殺されたのでしょう? 牙みたいな傷があったって船医さんも言っていたし」
「牙を使った短剣くらい、簡単に手に入る。今回のことは人による殺人事件だよ」
そして、シャーロットが語り出した。この辺、本当に探偵っぽいね。
彼女はモンスターが犯人ではないと気づいてから、NPCたちを疑って観察していたらしい。そして、1人の女性に目を付ける。
それは、清掃係の女性であった。
「君には疑われる理由が複数あった!」
「な、なんですって……!」
シャーロットがそう言い放つと、犯人疑惑のある女性がワナワナと震える。まさに追いつめられた犯人フェイスだ。
名探偵シャーロットは凄くいい笑顔である。楽しんでるなー。
シャーロットが最初に彼女を疑ったのは、その表情であった。
「船長室に集まった船員たちの中で、君だけが涙を流さずに周囲の人間を観察するような表情をしていた!」
な、なんだってー! た、探偵っぽい! マジで名探偵かもしれん! 俺なんて、船長の遺体にばかり注目して船員たちの表情なんて全く覚えてないし!
「そ、そんなことないわ! ちゃんと悲しんでいたわよ! 言い掛かりをつけないで!」
「そうは思えないが? あれは、自分の犯行に気付きそうな者がいないか、探っていたのではないかね?」
「あ、あなたの気のせいよ!」
「まあ、そこだけで君を犯人と言い切るには確かに弱いね」
「そうでしょ!」
希望を得たかのように声が大きくなる女性。だが、シャーロットは相変わらずの調子で、次の疑念を口にした。
「船長は発見時にはまだ生きていた。それこそ、犯人は部屋のすぐ近くにいたはずさ。あの騒ぎが起きた時に、怪しまれないよう何食わぬ顔で船長室にやってきた可能性も高い」
「……た、確かに私は船長室へと向かったけど、偶然よ」
「そうかね? あの場にいた人々の中で、船長の血が付いたであろう凶器を長々と隠し持っていられる人間はさほど多くはない。用具入れのバッグを持っていた君か、診察鞄を悪用できる船医か、そのどちらかくらいだ」
「……無理やり服の中に隠し持っていたかもしれないじゃない!」
「ムービーを何度も見返したが、服に不自然なふくらみがあるような人物は、いなかった」
「じゃあ、船長室から逃げた後にどこかに捨てたんでしょ!」
「さて? あの後、周辺は捜索された。慌てて捨てた凶器が、それで見つからないというのは不自然では? 海に投げ捨てるにしても、船長室からは少し遠い」
女性の言い訳をどんどん潰していくぞ! 明らかに女性の顔色が悪くなってきた。シャーロットの推理が的を射ている証しか?
「疑問はこれだけではないよ? 次に気になったのは、君のその後の行動さ」
「ど、どういうことよ」
「副船長や他の船員たちは、ホワイトホーンラットを犯人だと思い込み、本気で憤慨していた。空調穴の横に張り付いて、待ち続ける程度には。でも、君は? その後も、普通に仕事を続けていたようだね?」
「そ、そりゃあ、私だって怒っているわ! でも、戦う力もないし、私が仕事をサボったら船内が汚れてしまうわ。仕方がないじゃない」
「だとしても、少しおかしいね」
「!」
シャーロットが女性に顔を近づけ、その目を覗き込む。探偵になりきってるね! でも美形アバターだから超絵になる! カッコいいぞ名探偵シャーロット!
「君、事件のあと、甲板にいっているね? ああ、言い訳は結構。すでに目撃証言はとってある」
「だ、だからなんだっていうのよ。仕事があるんだから、そりゃあ船内のどこにでも行くわ」
「ほう? だが、君みたいな清掃係たちはあくまでも上層階の通路や客室、船室などの清掃やメイクが仕事だって言うじゃないか。甲板や下層の掃除は力仕事がメインだから、甲板員がやるらしいね?」
「……」
「では君は、わざわざ甲板に出て、何をしていたんだろうか? しかも、舳先近くまで行って」
「……」
女性は何もしゃべらない。ただ顔色を悪くしているだけだ。
「凶器を海に捨てたね? 言っておくが、調べれば君と船長に殺すだけの何らかの関係があるかどうか、すぐに分かると思うよ。わざわざ魔物の牙を使った武器を使って偽装工作までしているんだ、これは突発的ではなく計画的な犯行。どこかでボロがでる。なら、ここで自白してしまったらどうかね?」
「……あの人が! あの人が悪いのよ! 奥さんと別れるって言っていたのに! やっぱり離婚できないって! 私と別れたいって!」
「……うーむ。本格ミステリではなく、火サスだったか」
微妙な顔で呟く名探偵シャーロット。気持ちは分かるよ。もう少し違う動機あるだろって、俺も思った。しかし、本当にモンスター以外に犯人がいたとは……。
これ、ホワイトホーンラットの討伐だけで満足してタイムアップ迎えてたら、イベント失敗だったってこと? 撃破数とかは運営のミスリードだったって事だろ?
あぶねー! 名探偵シャーロット、まじでありがとう! 助かりました! 証拠を出せって言い張られたらどうしたのかとか気になる部分はあるけど! クリアできたならどうでもいいや!




