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原点に帰る

 女盗賊を約束どおり逃がした俺たちは小屋を漁って金目のものを運び出す。

 当然捕まえた盗賊たちにも荷物運びを手伝わせている。予想外の大収穫だった。

 盗賊が持っていた馬車も接収し、馬車2台に分乗して盗賊から奪った品々、盗賊の身柄を乗せ近くの町へと運んでいく


「カルファさん、御者をしてくれるのは有難いんだけど、こっちの馬車のほうがよくないですか?」

「ご主人様、お気遣いありがとうございます。前まではあまり好きではありませんでしたが、最近はこの馬車も結構いいと思えるようになってきたんですよ。それよりドヤッキーさん、この馬車なんですが御者台からも刃の出し入れができた方がいいと思いません?」

 車体から刃物が飛び出すように改造された黒い馬車の御者台から、前を走っている馬車の荷台に乗った俺に向かってカルファが大声で返事を返してきた。

 以前盗賊に捕まり奴隷として働かされてきた過去があるが、先ほどの盗賊との戦いから何かが吹っ切れたようにみえる。


「兄貴~、改造するんでお小遣い欲しいでぐはっ」

 最後まで言わせず、横に座っているドヤッキーを殴りつける。

 いや、まぁ別に改造してもいいんだけどね、懐も今はあったかいし。


「今回捕まえた盗賊をやるから、そいつを突き出して貰う報奨金でも使って改造しろよ」

 盗賊を国というか兵士に引き渡すとひとりにつき銀貨30枚がもらえ、今回は盗賊10人を捕まえているから銀貨300枚、つまり換算して金貨3枚がもらえることになる。




 着いた町はそれほど大きくはなく、どことなくこの異世界に来てはじめて辿りついた町をなんとなく思い出させる雰囲気だった。


「ご主人様、やっとこの町に戻ってきましたね」

 はぁ? フィラは何言ってんだ?


「おいらはドンズルー達と一緒に盗賊を兵士に引き渡してくるでやんす。終わったらいつもの宿に行くんで、よろしくでやんす」

「行くでんねん」

 ドヤッキー、ドンズルー、それに元盗賊のふたりとは別行動となった。



「ギルドでリタさんに挨拶してから宿に行きませんか?」

「もしかしてと思ってたけど、やっぱりここってお前たちと最初に会った町?」

「もちろんですよ、ご主人様」

 確か王都から出て勇者を探しに行った時はこことは違う方角に進んでたよな。そして王都から離れるようにだけ指示を出してたから、道なりに進んでたと思ったんだけど、いつの間にかこの町へ向かうように馬車を進めてたのかよ、知らんかった。


「俺は王都から離れて違う町、そして他所の国に行くつもりだったんだがなぁ」

「いいじゃないですか、私はこの町結構好きですよ」

「ご主人様、わたしはここは始めてなので案内していただけますと嬉しいです」

「……」

 村で引き取り、仮奴隷契約した後もずっと馬車にこもってだんまりを決め込んでいた勇者は、ここでもただ後を無表情でついて来るだけで会話にも積極的に加わろうとはしない。

 こいつってまだ小学生だよな。同じ転移者として可哀相でもあるし、奴隷にしなくてもいいような気はするけどどうするか悩むところだ。


「おいユウト、お前は元の世界に帰りたいと思ってるか?」

「……」

 こら、返事くらいせんかい、軽く頭をどついてやる。


「はぁ、ほらこれやるよ」

 ユウトの目の前で握っていた拳を開いてみせると、顔にみるみる表情が戻ってきた。


「これって……」

「お前は異世界から勇者として召喚されてきたんだろ。あっちの世界とこっちの世界は少しは繋がりがあるのかもしれん。戻りたいというのであれば、折をみて調べてやるよ」

「ほ、ほんとですか!?」

「戻すことができるかどうかはわからんが、とりあえず調べてやる。それまでは俺の元でこの世界で生きてみろ。奴隷といっても一番軽い奴だから俺とお前の絆……約束みたいなもんだから安心しろ、悪いようにはしないさ」

「えぐっ、あびがどう。ごでおいじいでずね」

 顔をくしゃくしゃにしながら俺の渡した飴を舐めている。


「ほら、お前達にもやるよ」

「ありがとうございます。とっても綺麗ですね」

「ご主人様、わたしなんかのような奴隷にこんな素晴らしいものを下さるなんて、一生お世話させていただきます。それでこれは何でございますか?」

「あぁ、これはなっと」

 ギザギザな切れ目から封をあけ、中の飴を取り出しカルファの口に入れてやる。


「なにこれ、美味しー」

「ご主人様ー、私も私も」

 カルファはいつもの丁寧な口調も忘れ喜び、フィラはそれを見て俺に同じように袋をあけ、口に入れてくれるようせがんできた。


「はいはい、口をあけて」

「あ~ん」 むぐむぐ 「なにこれ、あま~い、おいし~」

「ご主人様、これはどういったものなのですか? どこで手に入れられたのでしょうか?」

「そうだ、そうだ、コウさんはどうして日本のお菓子を持ってるんですか?」

「これは遠い異国の菓子だ、今は手に入れる方法はない。ユウト、お前がちゃんと俺と契約したら話してやる」

 奴隷という言葉を使わず、契約という言葉で軽くオブラートに包んだというか、ごまかしたが結構食いついたみたいだ。


「もっと食べたいです」

「これを仕入れて売れば大儲け間違いなしですよ」

「コウさん、早く契約して教えてくださいよ」

「はいはい、あ、そうだ。べっこう飴だったら砂糖があれば作れると思うよ?」

「砂糖ですか、前に仕えていた貴族様のお屋敷でも高価で貴重な品物のため滅多に手に入ることはありませんでしたね。蜂蜜でしたら、もう少し安く手に入るのですが残念です」

 そっか~、この世界では砂糖は貴重か。砂糖ってサトウキビだよな、栽培すれば儲かりそうな気がする。


「蜂蜜だったら、蜂蜜飴かな。でも簡単なものだから、誰か作ってるような気もしないでもないけど」

「いえ、是非作りましょう」

「蜂蜜飴食べたいです」

「コウさんって物知りですね」

「まぁ、大人のたしなみってやつかな。いろんな雑学の知識をもってるってのは」

 ここに来た時に持ってた飴がこんなにみんなの興味を引くとは思ってもみなかった。まだアイテムBOXの中には眠気覚まし用のガムとかあるから、そのうち食べさせてみるか。


「よっしゃぁ、それでは行動開始! これから宿屋へ行って宿をとる。ユウトはそこでエール酒を買って頭からかぶってろ。そのままお日さんの下にしばらくいれば脱色できるはずだから」


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