絶対被害者、ミリ
あるリサイクルショップに強盗が現れ、店員を人質として立てこもる事件が起こった。
店は地下を含めて三階建て。
三階と二階を封鎖し、一階のコミックコーナーに店員を仰向けにさせて、強盗犯の二人は既に五時間も粘っていた。
銃だけではなく、犯人はチェンソーを持っていたため、警察はうかつに強行できなかった。
加えて最近工事をし始めたばかりで、店の間取りも定かではない状態。
『一億を持ってこなければ、店員一人ずつの首を切り落とす!』
という要求が出された直後に、『それ』は現場に到着した。
「―――今回のことはあくまでも内々に。
本来ならばこういったところに貸し出してくれるものではない。
今回は特別に定期訓練の一環として投入させるだけのことだ。
マスコミにくだらない疑問を抱かせないように、隠ぺい工作はしっかり工面してくれたまえ」
と、言って
作戦本部に警視が手を引いて連れてきたのは、黒いレインコートをかぶり顔を隠した…子供。
「それではお願いします。
通信はつながっているはずですから、裏口のビニールシートに隠れながら、現場の指示に従ってください」
深々と子供に頭を下げたのは、署長だった。
子供は顔を隠したまま頷き、警視と共に本部から出ていく。
驚いたのは現場の警察隊である。
「ど、どういうことですか、今のは!?」
「なんだってこんな時に子供なんか!」
「早く連れ戻して下さい、現場って…
まさか、犯人のいる店に入らせるんですか!?」
そんなことをしたら事態は最悪。
口をそろえて作戦本部を攻め立てるのを、署長は黙って椅子に座ってきいていた。
そして……通信が入る。
犯人は少女を人質にとって、なんと今まで人質にしていた店員をすべて店から出してきた。
「…現場の諸君、すぐに突入準備を始めろ」
冷や汗をかきながら、署長は苦笑する。
再び異を唱える者たちを一喝し、『署長命令だ』と言って、彼らを突入させた。
当然ながら突入する隊は疑問だらけだった。
このまま突入してあの子供が危険な状態になるのは予想がつくのに、なぜ署長は行かせるのか、もう少し待ってもいいのではないか…
しかし命令は絶対。
彼らは解放された店員から犯人の情報を集め、突入した。
犯人は確保したが、子供は無残な姿で発見される。
大量の出血がみられたが、奇跡的にまだ息はあった。
救急車を呼ぼうとするが、通信に署長が割って入り、そのまま待機と命令が出される。
呆然とする彼らの前に、一台のワゴン車が到着した。
「ご苦労様です、情報は計測できましたので回収させていただきます」
無機質な声の白衣数名が車から降り、子供を車の中に収容していく。
「ちょっとアンタ、
どこへ連れていく気だ、重症なんだぞ!」
掴みかかってきた一人の男に、白衣の一人は不思議そうな顔をして、メガネを直す。
「ええ…ですから、『回収』しに来たのですよ」
ワゴン車は検問もパスし、いずこかへと走り去っていった。
現場隊員は署長に詰め寄り、一体何だったのかと口々に言っている。
しかし、署長は一切何も話さず、そっとその場を去っていく。
呼び出し音。
「…はい、今回はありがとうございました。
…ええ、情報操作は全力で行います。
ご心配をおかけすることはないかと。
…はい、もちろん…他言は致しません。
私も命が惜しいですから」
――これが、試験体ミリが日本で最初に行った訓練である。
それからミリは身体的にも成長し、単独で行動を任されるほどに実践を積んできた。
そして、手掛かりを捜すために、
再びこの日本にやってきた。
「蒸し暑いな、ニホンて」




