↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/28

2.「愛別離苦」



一花の母親は、小学校で家庭科の教師をしている、穏やかで芯の強い女性だった。


一方、父親は朝霧 蒼士(あさぎり あおし)。

ペンネームを『朝霧 青紫』と名乗り、純文学の世界ではそこそこ名前の知られた小説家だった。


二人の出会いは大学の図書館だった。本が並ぶ静謐な空間で出会い、ひそやかに交際を重ねて結婚した。


今日に至るまで、周囲からは誰もが羨むような、平穏で仲睦まじい夫婦として時を刻んできた。



ある日のこと。



母親の澪と公園から帰った一花は、小さな足音を響かせて父親の書斎へと向かった。



重い木製のドアをそっと押し開け、机に向かう背中に向かって声を弾ませる。


「パパあのね! 公園で、可哀想な蝶々を見つけたの!」


蒼士は振り返り、眼鏡の奥の目を細めた。


机の上には、美しく手入れされたいくつかの蝶の標本。


彼はピンセットを置き、一花の目線に合わせて微笑みかけた。



「おや、一花。何故その蝶々が可哀想なんだい?」


「だって、蝶々の羽がボロボロだったの!」



一花は小さな手を一生懸命に動かした。


必死にアリを振り払い、泥を這い、それでも木の枝から空へと飛び立とうとしたあの蝶々の姿を、身ぶり手ぶりで必死に蒼士へと伝える。


その熱を帯びた言葉を、蒼士は遮ることなく静かに聞いていた。


一花の話が終わると、彼は少しの間、何かを深く企むように黙って考え込んだ。


それから、仕上がったばかりの標本の額縁を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。



それを部屋の壁へと新しく飾りながら、蒼士は低く穏やかな声で、語りかけるように言った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。