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聖魔獣のクロニクル:起源の双樹  作者: ハジメ


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第1章:始まりの泉と隠された宿命 / 第1節:透き通る深淵の出会い

2人の少女が不思議な石を見つけ、奥深くで少女にそっくりな人物と出会う。そこから二人の少女は数日という日常とは違った数日を過ごしていく。

第1節:透き通る深淵の出会い

友人と山奥の小川で遊んでいた時、一つの小石が視界に入った。彼女はその石に言いようのない違和感を覚え、友人と共に川を遡った。石の正体を探るように山を登り詰めた先には、小さな泉があった。


泉は透き通っていながら、底が見えないほどに深い。二人は顔を見合わせ、「あの石はここから来たのだろうか」と思案した。その時、友人が彼女の肩を叩き、泉の先を指さした。そこには小さな人影のようなものが見え、二人は静かにその影へと近づいた。


声をかけようとした瞬間、影が消えた。同時に強い風が吹き荒れ、二人は泉に飲み込まれるように墜落した。水の中へ落ちたはずの体は、ある程度の深さを越えたところで、突如として水の無い空間へ放り出された。二人は驚きながらも浮遊魔法で体勢を立て直すが、闇の奥へと吸い込まれていく感覚は止まらない。やがて、光の届かない底に小さな輝きを見つけた。


二人は浮遊したまま「底」へ辿り着いた。遠目には強く見えた光だったが、近づいてみるとそれは淡く弱々しい。石そのものが消え入りそうな光を放っていた。

「弱々しい光ね……もう尽きようとしている」

彼女がそう呟いた時、懐の小石が激しく反応した。取り出した小石は、彼女の手を離れ、目の前の石の中へと吸い込まれていった。

「えっ、何が起きたの? 石が小石を飲み込んだ?」

驚く友人に対し、彼女は事の成り行きを静かに見守っていた。「まだ終わっていない」と確信するように。


小石を飲み込んだ石は、一転して強烈な光を放った。直後、何かが砕ける高い音が響き渡る。

「強い光で分からなかったけれど、ここは小さな洞窟のようね。扉のような窪みがある……」

彼女の視線は砕けた石に固定されたままだ。

「洞窟? でも、この山にそんな場所があるなんて聞いたことがないわ」

「……私たちが知らないだけかもしれない。この山は、私たちの一族が代々神聖視してきた場所だから」

沈黙の中、重たい何かが動く音がした。彼女は音のした方へゆっくりと顔を向ける。

「あなたは誰?」

「えっ? 何を言っているの? 何かいるの?」

友人は怯えて彼女の腕にしがみついた。


「今、砕けた石と関係があるのかしら」

彼女の瞳は音の主を捉えたままだ。その奥には強い意志が宿っている。

「……」

「あなたは『―――』でしょう?」

彼女が発した名は、友人の耳には聞き取れなかった。

「え、誰がいるの? それに、今なんて言ったの?」

戸惑う友人を余所に、彼女は闇の奥へ語りかける。

「恐らく、あなたは私たちの一族が禁呪で呼び出した存在。この山に封印し、私たち一族はあえて『のけ者』として監視を続けてきた……」


見つめる先から、影が一歩ずつ近づいてくる。太陽が泉の真上に昇り、微かな光が暗闇を照らした。その姿が露わになった瞬間、友人の顔は恐怖で引きつった。相手は、彼女と全く同じ顔をしていたのだ。

彼女は動じずに告げる。

「私と同じ姿ね」

「ええ。あなたを取り込むことが、私にとって最も重要なこと。そこにいる『彼女』には消えてもらわなければ困るけれど」

相手は友人を冷ややかに見据えた。友人は後ろに隠れることすらできず、その場で硬直している。

「私を取り込む……古書の記述通りなのね。あなたを封じたのは私の家系。そして封印の媒体となったのが、私の先祖。だから、あなたは私に似ているのね」


相手は顔色ひとつ変えずに彼女を見つめている。

「そうね。私は貴方の先祖にあたる者……けれど、不思議に思ったことはないかしら? なぜ古書に私のことが記され、私が媒体であることまで判明しているのか……」

「何を馬鹿なことを……。自分が媒体となる術なんて……」

彼女は相手を凝視し、言葉を失った。

「“私”が開発した術よ。誰にも伝えることはできなかった……けれど、伝承はできたの。ねえ、伝達者さん……」

相手は冷ややかな笑みを浮かべ、友人を見つめる。

「えっ? な、なに……伝達者なんて……私は……知らなっ……」

友人は思わず口を手で覆い、彼女を見る。その顔は驚愕に染まっていた。

「キーニャ……あなた……私たちの言葉が理解できていたの? さっきは知らないって……」

相手は二人に歩み寄り、口を開く。

「キーニャと言うのね、その子は……。運命とは不思議なもの。あの時、召喚した者を私の中に封じた時、傍らにいたのもキーニャだったわ……」

相手はキーニャの前にしゃがみ込み、その頬に触れる。彼女は、相手がいつの間にかキーニャの眼前に移動していたことに戦慄した。

「えっ……は、速い……」

彼女は相手を振り払うように割り込み、キーニャを数メートル後ろへ下がらせると、素早く指を動かし足元に陣を描く。

「キーニャ、そこでじっとしてて! 話は後で聞くから」

彼女は相手を鋭く睨み、思考を巡らせた。


「そんなに怖い顔をしないで。……だけど、キーニャには“消えて”もらうけれど」

相手がキーニャへ手を伸ばし指を鳴らすと、足元の魔法陣が霧散し、瞬時にその距離を詰める。

「さて、どうしようかしら。伝達者は必要ないのよね……」

「そんなこと、させるわけないでしょ!」

彼女は眼前の空間に陣を描き、複数の光弾を放つ。

「焦らないで。焦りは負けを招くわよ。それにキーニャに当たったらどうするの?」

煙幕の向こうから余裕のある声が響く。視界が晴れるにつれ、光の膜が姿を現した。

「……っ。自分の中に封じるほどだもの、当然の防御策よね」

彼女の額に汗が滲む。相手はゆっくりと彼女へ向き直り、その声色を低く変えていった。

「そうだ……だからこそ、我の蓄えにはちょうど良かった。それに、伝達者の力は“使える”からな」

「使える?」

「伝達者の力は覚えることではなく、そのまま“伝える”こと。お前が言う古書の基となる、魔石碑に刻まれていくのだ」


「それがどう“使える”っていうのよ!」

「ふん、気づかぬか。伝達者が見た事象はすべてが刻まれる。その上、伝達者は“一人”ではないことは解るな?」

「……! まさか……」

「古書は過去を記すもの。戒めや都合の良い事実を残すが、魔石碑は違う」

彼女は相手に向け腕を突き出し、幾重もの円陣を空中に、そして相手の足元に重円陣を描き出した。

「拘束重鎖!!」

叫びとともに無数の鎖が相手を絡め取り、その動きを封じる。彼女はその隙にキーニャの手を掴み、飛び込んできた泉へと走り出した。

上昇時、降りてきた時のような引き込む力はなく、容易に地上付近まで辿り着く。彼女は泉に対して封印の結びを施し、キーニャを見た。

キーニャは事態を飲み込めず呆然としていたが、その瞳にはどこか落ち着いた色が宿っていた。



幾つもの巨大な石碑が並ぶ空間。そこに、一人の少女のシルエットが浮かび上がっている。

「……へぇ、ずいぶんと膨大な記録。キーニャ……ああ、あの古獣が封印されている場所ね。目覚めかけた古獣を抑えるために聖魔獣を召喚して、あろうことか一人の魔道士の体内にそれを封じた……なんて馬鹿げた真似を」

少女は魔石碑へと歩み寄り、刻まれていく文字を指で追う。

「ふぅん、ここの存在を知っているんだ。さすがは聖魔獣といったところかしら。でも、器にした魔道士の魔力を取り込みすぎたようね。ここを目指そうとしている……」

少女が石碑に触れると、刻まれた文字が歪み、書き換えられていく。

「これで、聖魔獣はここへは辿り着けない。……絶対ではないのが癪だけど。運命をすべて書き換えるのは面倒だもの」

少女は周囲に並ぶ無数の石碑を見渡した。

「小石を投げれば、水面に立った波紋はどこまでも広がる。この場所すべてがあの地域に影響を与えている……一は全、全は一、というやつかしら。だから、ほんの少しの記憶を『放(ほか)』すくらいが丁度いいのよね」

シルとそっくりの人物との遭遇…そして、キーニャの伝達者という真実と魔石碑の少女…彼女たちの運命はどう絡み合うのか…

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