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もういい加減に、ディビ・ドゥビ・ダー

 なにも大したことなどしていないはずなのに、疲弊している。毎日毎日、これはなんだ。いったいなんなんだ。こんなことを続けていると、生きる気力はどんどん失せていって、いや、もう本当に死んじまいたいですよ、正直な話。

 それでもみんなが死なないでって言うからさ。誰もおれに死んでほしくはないのだ。なるほど、わかった。みなの気持ちは、まあわかった。だから、今日もこうして生きている。仕方ないから生きてやっている。確かにおれが消え去ってしまうのは、この世界にとっての損失だ。それは否定しようのないことだ。考えてみてほしい。おれが消えた後の世界を。すべてが色褪せ、もの悲しく、侘しい世界。行き場のない熱狂だけが同じところをぐるぐると渦巻いている。なにを欲しがっているのかって、そりゃ愛だ。とにかく絶望的に愛を欲している。ぐるぐると三半規管を殴りつけながら、こみ上げる吐き気を噛み殺しながら、必死の形相で、とにかく、とにかくのところ。

 それにしてもだ。くたびれた機械とはずいぶんと辛気くさいタイトルをつけたものだ。まあ、ちょうどそんな気分だったんだろう。気分に流され、気分に浸って、気分のまま好き勝手振る舞って、いい身分だこと。こんなタイトルで書かされる身にもなってほしいよ。マジでいっぺんこんなタイトルで書いてみてくれ。本当にどうしようもないぞ。それでもしつこく書き進めようとするこんなおれがいなくなってしまった後の世界には、こんなものを書くおれがいなくなってしまうってわけだぜ? それはやっぱりこの世界にとっての損失だってことだよ。だから、今日もこうして書いている。本当に仕方なく書いてやっているんだ。形なき要請に応える形だ。要請と言うより強制に近い。まるで統制のとれていない文字の群れだが、読み取れるだけまだマシってもんだろう。そうは思わないか。やっぱりそう思ってはくれないか。まあそれでもいいや。先を続けるぞ。どうせおれには他の選択肢などは用意されていないんだ。書くか、そのままくたばるか。別にもうくたばってもいいんだけど、みんなが死なないでって言うから。言うだけ言って、あとは知らんって顔しているから。本当、無責任にも程がある。そうは思いませんか。生きるも死ぬも一緒なんだってこと、死ぬために生きているんだってこと、おれはさっさと死んで、この自意識ってやつを早いところ解散させたいのだが、解散しないでってファンどもが泣いて懇願するからさ。


 頭の中は妄想と不安でいっぱいだ。どうしてはち切れてしまわないのだろう。振り切ろうともがき、足掻いてはみたものの、すべてがばかばかしくなった。目が覚めて、汗びっしょりで、特に足の裏がすごいことになっていた。首筋と脇の下も酷いもんだった。このままこうしていたいが、このままこうしているってのもいいものだが、それだと話が進まんのでね。話? それはいったいなんの話だ? まったく。そうやってとぼけているがいいさ。それならそれで、このまま置いてゆくだけだ。肉体はひたすら老いてゆき、しょぼくれた魂を守るのもひと苦労なんだ。なにしろこの魂ってやつは貧弱で軟弱で……とにかくお話になりゃしない。お話? それはいったいなんの話だ?

 まあ、こんな感じでどうにもならんってわけなのだが、それもこれも、くたびれた機械なんてタイトルをつけた馬鹿野郎のせいだ。そんなもん、くたびれてしまうに決まっているじゃないか。くたびれたものを書いてどうするって話だ。話? うるせえ。こういう繰り返しにはもう飽き飽きだ。おれはもう本当にすべてに飽き飽きなんだ。なんかないの、おもしろいこと。弛緩と倦怠の果てでこんなことを口走ってしまったら、その時点でそいつは終わりだよ。おもしろいことなんてねえよ。すべては気のせい、幻、トリップなんてものは長続きしやしない。一瞬の瞬きの中で生きて死ぬ。それが定めだ。まあ、だからなんだって話ではある。話? 話だ。話なんだよ。どこまで行っても話は話で、大抵は退屈でくだらなくて、耳を貸す価値もない。それでも話なんだ。どんなにそこから逃げようとしたってな。


 単純明快な話だ。単純に語ろうとすれば、どこまでも単純になれる。目の前に広がる複雑怪奇な世界はおれ以外から成っている。誰もが世界に干渉することはできず、世界と自分との隔たりに絶望したり激昂したり、そうかと思えば自分というフィルターを通してでしか世界を感覚できない事実を気づいたり忘れてしまったり。月光に練られたカスタードクリームを指ですくい取り、その指をしゃぶってみたりしながら日々を過ごしてみるのだが、おれが驚いてしまうと同時にどうしても理解できないのは、すべてが同時進行であるということだ。つまり、こうしている間にも……ってやつだ。おれが不在の空間を想い、その空間は実際にあるし、そしてそこでは起こっているのだ、何かが。こうしている間にもだ。どうしている間にも、ああしている間にも、あの瞬間だってどの瞬間だって、こうして書いているこの時でさえ、休むことなく止まることなく途切れることなく、あらゆるものが活動し、消失へと向かってゆく大行進の真っ最中であるということ、こんなに大変なことがあるだろうか。本当に大変なことだと思います。よくもまあ、こんなに大変なことがあるもんだ。そうであるというのに、身体という器に囚われたまま身じろぎひとつできないでいる、このこれ、便宜上おれと自称しているこいつ、これ、要るか? そのうえこいつは欲している。際限なく欲している。何を与えたって満足ってものを知らない。目一杯腹に食い物を詰め込んでやったって、もう次の日にはそんなことは無かったかのように次を強請る。こいつ、要るか?

 ここが悩みどころだ。おれは頻繁に前を歩いているやつの踵を蹴ったり踏んだりしてしまうが、もちろんわざとではないのだが、ついさっきなんかはもろにがっつりやっちまって、そいつ、つまりはおれに踵を踏まれたやつは靴が脱げかけていたからね。勢いよく振り返ってきたそいつにはさすがにごめんって謝ったけれど、そいつは一瞥をくれただけで無反応だったけど、前を歩くそいつの背中からはやり場のない怒りのムードがむんむん漂ってきていて、それはまあおれの気のせいかもしれないけれども、まあでも、あれは相当ムカついていたでしょう。でも、相手がおれだったから文句も言えずに、かわいそうなあいつだった。おれからすれば文句を言ってくれてもよかったんだけど、まあ逆ギレしてきそうに見えたのでしょう、あいつからすればおれは。それはわからんでもない。もしかすると実際に、これくらいでガタガタ抜かすなって感じになってしまったかもしれない。自信ない。謝り方だって良くなかった。左手で手刀を切りながらごめん、じゃないだろう、頭を下げながらすみません、だろう。でもそれをやったら、あいつも調子づいてしまって、すみませんじゃ済まないんだよ、なんて言ってくるかもしれない。実際に言われたことがある。あれも確か……下りの階段で前のやつの足を蹴っ飛ばしてしまったのが原因だった。あの時はちゃんとすみませんって言ったのに、やつは許してくれず、すみませんじゃ済まないときたもんだ。どうしてそんなことになってしまったのか。原因はお互いにアルコールが入っていたこと、その時のおれがメガネを掛けていたせいだとおれは分析しているが、それにしてもあの野郎にはめちゃくちゃ腹が立ったな。一瞬で攻守交代して、ダッシュで逃げる野郎を池袋駅内でしばらく追いかけ回したのだったが、あれは鬼ごっこみたいで結構楽しかった。

 と、こんな感じで、こいつが歩いているだけで誰かの邪魔になったり迷惑になったりするわけで、最近はそういうことがある度に、こいつ、要るか? そう考えてしまうのだが、こいつというのは何を隠そうおれ自身のことなので、おれにはどうすることもできないんだ。

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